「専門家が自らの役割の認識を不足」学会報告【原発事故3年】
東京電力福島第一原子力発電所の事故を検証していた日本原子力学会の事故調査委員会(委員長・田中知(たなか・さとし)東京大学教授)は8日、事故の最終報告書を公表した。
福島原発事故は、津波、過酷事故、緊急時・事故後対策のいずれも不十分と指摘。これらの原因をもたらしたものは「1・専門家の自らの役割に関する認識の不足」「2・事業者の安全意識と安全に関する取り組みの不足」「3・規制当局の安全に対する意識の不足」「4・国際的な取り組みや共同作業から謙虚に学ぶことの不足」「5・安全性を確保するための人材、および組織運営基盤の不足」の複合要因と結論づけた。
同委員会は今後、この提言を元に、廃炉と福島の復興活動を協力していく予定だ。記者会見で田中委員長は、「事故から学ばない組織、専門家は原子力にかかわる資格がなくなる。専門家の力不足を痛切に反省している」と述べた。
報告書は9章425ページの大部で、丸善から「福島第一原子力発電所事故 その全貌と明日に向けた提言––学会事故調最終報告書」として3月11日に刊行される。
事故をめぐるシグナルはあった。
原子力学会は約7000人の会員を持つ。すでに政府事故調などが検証を発表しており、既存のデータの解析などに基づいていた。ただし、一部で指摘された地震による、福島原発の3つの原子炉の損傷の可能性については、原子炉圧力などの面から、「可能性はほぼない」としている。
事故原因は津波による、安全装置の破壊と全電源喪失と指摘。過去の東北の地震、2004年のスマトラ沖地震など、津波対策に力を入れることを示す情報があった。そのに、規制当局、専門家、東電がその可能性を無視したことを反省した。
また原子力発電は巨大な複雑系という特長を持つ。そのために、各専門家が、専門分野のみに関心を向け、総合的に考えなかったことが事故の一因となったとしている。
原子力安全、専門家の役割を強調
今後の原子力の安全を高めるために、原子力安全の目標をこれまであいまいであったと反省。社会との対話の中で、原子力の利用活動に伴うリスクを、合理的に実行可能な限り低くすることと定めた。
さらに、相互に独立し、多様な手段で事故に備える、「深層防護」という考えを強調。また確率的手法を多様化してリスクを洗い出し、評価と是正を重ねることを提言した。
さらに専門家集団として、知見が事前にあったのに、それを事故の事前対策、また事後対応に活かせなかったことを反省した。学会・学術界は自由な議論と、安全研究が足りなかったことを指摘し、それらを継続的に改善していくとしている。
また日本の安全対策が、ハード(機材)偏重、そして専門家の視野の狭さという悪習があるため、ソフト、つまり人やマネジメント、発想法などの改革を重ね、人材育成にも注力すべきと、まとめている。
アゴラ研究所フェロー・石井孝明
(2014年3月10日)
関連記事
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。今回のテーマは「次世代原子炉に未来はあるか」です。 3・11から10年。政府はカーボンニュートラルを打ち出しましたが、その先行きは不透明です。その中でカーボンフリーのエネ
-
米国の農業を米国穀物協会の取材支援によって8月に現地取材できた。それを全4回に渡って紹介する。(第1回、全4回) 米国科学アカデミー(NAS)は5月、「遺伝子組み換え作物-経験と見通し」という報告書を発表した。この作物を総合的に評価するものだ。
-
第二部では長期的に原発ゼロは可能なのかというテーマを取り上げた。放射性廃棄物処理、核燃料サイクルをどうするのか、民主党の「原発ゼロ政策」は実現可能なのかを議論した。
-
今回は太陽光発電のエネルギー政策における位置付けの現状、今後のあり方について簡単に考えていきたい。まずは前回紹介した経済産業省の太陽光発電に対する規制強化をめぐる動向を総括することから始める。 前回の記事で述べた通り、太
-
評価の分かれるエネルギー基本計画素案 5月16日の総合資源エネルギー調査会でエネルギー基本計画の素案が了承された。2030年の電源構成は原発20-22%、再生可能エネルギー22-24%と従来の目標が維持された。安全性の確
-
細川護煕元総理が脱原発を第一の政策に掲げ、先に「即時原発ゼロ」を主張した小泉純一郎元総理の応援を受け、東京都知事選に立候補を表明した。誠に奇異な感じを受けたのは筆者だけではないだろう。心ある国民の多くが、何かおかしいと感じている筈である。とはいえ、この選挙では二人の元総理が絡むために、国民が原子力を考える際に、影響は大きいと言わざるを得ない。
-
風評被害: 根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際に、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが損害を受けること。例えば、ある会社の食品が原因で食中毒が発生した場合に、その食品そのものが危険であるかのような報道のために、他社の売れ行きにも影響が及ぶなど。
-
大阪のビジネス街である中之島で、隣接する2棟のビルの対比が話題という。関西電力本社ビルと朝日新聞グループの運営する中之島フェスティバルタワーだ。関電ビルでは電力危機が続くためにその使用を減らし、夏は冷暖、冬は暖房が効かない。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














