原発再稼働すれば、電気料金は下がる?―否、原発再稼働しなければ、電気料金はもっと上がる
「原発のないリスク」を誰も考えない
27日の日曜討論で原発再稼働問題をやっていた。再稼働論を支持する柏木孝夫東京工業大学特命教授、田中信男前国際エネルギー機関(IEA)事務局長対再稼働に反対又は慎重な植田和弘京都大学大学院教授と大島堅一立命館大学教授との対論だった。
そこでは原発の安全性の問題や避難計画の問題などが扱われていたが、経済への影響についてはそれほど議論が深まらず、企業活動や日常生活にどのようなインパクトがあるのか明確にはならなかった。「原発があるリスク」に対して、「原発がないリスク」を考えるべきだという田中氏の指摘は、もう少し議論の対象とすべきだったように思われる。
ここではそれを補足する意味で、電気料金に絞って見てみたい。よく言われる数字ではあるが、まずは復習してみよう。原子力発電所の稼働がなくなって、電力供給量の約3割が失われた。もちろん節電はそれなりには進んだが、当然3割もの節電はできるはずもなく、火力発電が原子力分を穴埋めしている状況にある(幸か不幸か、これまでの再生可能エネルギーの増加は限定的であり、全量固定価格買取制度による課徴金が「これまでは」それほど増えなかった)。
その結果、原発停止分の代替による燃料費増加分は、2013年度では年間約3.6兆円と試算されている。これは、ほぼ天然ガスと石油の輸入増に等しい。国民一人当たりにすると、年間約3万円、1日当たり約100億円の負担増だ。円安に振れた為替レートや化石燃料価格の高騰を持ち出し、原発停止の影響そのものはそれほどでもないという主張をする向きもあるが、そもそも円安になったり、化石燃料価格が高騰したりしても、化石燃料を輸入せざるを得なかった状況になった理由を考えれば、そうした主張は力を失う。
次に、このコスト増分は国民経済全体への負担だということを忘れてはならない。電力会社がリストラすべきだという要求は当然あってしかるべきだが、3.6兆円というコスト増分は関西電力全体の売上高よりも大きく、電力会社全体でコスト削減を行っても、全部吸収できる額ではない。また、電力会社のコスト削減分は外部への発注や従業員給与の削減によって行われるわけだから、その分は経済縮小要因なのである。結局、電力会社が存在しようがしまいが、このコスト増分が経済全体にもたらすマイナス成長効果は避けようがなく、その負担を誰が負うべきかをコップの中で押し付け合いをしているだけに過ぎない。
こうした状況を改善するためには、エネルギーの供給を途絶えさせることなく化石燃料よりも安価なエネルギー源を使用するほかない。つまり、原発の再稼働ということになるのである。
電力料金算定方式の変更
では、いま原発再稼働が実現すれば、電気料金は下がるのか?実は、この答えはNOである。いったい、これはどういうことなのか。
それは、電力各社がこれまで実施してきた値上げの前提条件に関係がある。震災後電気料金制度が見直され、それまでは「今後1年間」に見込まれるコスト(原価)をもとに料金を算定して値上げを認可していたのだが、震災後は「今後3年間」をもとに算定する方式に変更された。
この狙いは3年間あればいろいろコスト削減に取り組む余地も大きくなるだろうというところにあった。しかし同時に、この制度見直しによって2・3年目にしか期待できなかった原発の再稼働(=コストの引き下げにつながる)までが、先取りする形で料金査定に織り込まれたため、結果として想定燃料費等が抑えられ、値上げ幅が圧縮されてしまったのである。具体的には次の表を見てほしい。

例えば、北海道電力であれば泊原子力発電所1、2号基が2013年12月に再稼働、3号機も2014年6月には再稼働する予定を組み入れて料金値上げを査定されたため、再稼働が全く実現しないなら、費用増分は本来35%の値上げがなければ吸収できなかったところ、査定で認められたのは9%だったことから、急速に財務状況が悪化している。
九州電力(川内原発1、2号基は2013年7月、玄海原発3、4号基は2013年12月再稼働を予定)や関西電力(大飯原発は稼働継続、高浜3、4号基は2013年7月再稼働を予定)にも、同様のことが当てはまる。その結果、北海道、関西、九州の各電力は、中部や四国とともに3期連続の経常赤字状態であり、自己資本比率の低下とそれに伴う資金調達に問題が生じつつある。このままでは原発の安全対策や電力の安定供給に必要な発電設備への投資に支障が生じるだけではなく、再生可能エネルギーの導入に必要な送電線の強化も難しくなる。
原発再稼働によって電気料金が下がるのではない。原発再稼働は、これ以上電気料金が上昇することを回避するための最低必要条件なのだ。むしろ、原発再稼働を遅らせれば遅らせるほど、電気料金の更なる値上げは避けられない状態に陥るのである。「原発再稼働させなくても、電気料金は上がらない」と確たる根拠もなく喧伝している錬金術師たちには騙されてはならない。
(2014年8月4日掲載)

関連記事
-
朝日新聞7月10日記事。鹿児島県知事に、元テレビ朝日記者の三反園訓氏が当選。三反園氏は、川内原発の稼働に懐疑的な立場で、再検査を訴えた。今後の動向が注目される。
-
経営再建中の東芝は、イギリスで計画中の原子力発電所の受注を目指して、3年前に買収したイギリスの企業をめぐり、共同で出資しているフランスの企業が保有する、すべての株式を事前の取り決めに基づいて買い取ると発表し、現在、目指している海外の原子力事業からの撤退に影響を与えそうです。
-
朝日新聞、5月7日記事。東京電力福島第一原発の事故後、FAOが定期的な検査を行っている福島県産の食品の安全性について、「現時点で問題はないと確信している」と述べ、引き続き態勢を維持することが重要だとした。
-
四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年
-
電力料金が円安と原発の停止の影響で福島原発事故の後で上昇した。自由化されている産業向け電力料金では2011年から総じて3-4割アップとなった。安い電力料金、安定供給を求める人も多く、企業は電力料金の上昇に苦しんでいるのに、そうした声は目立たない。情報の流通がおかしな状況だ。
-
原子力規制委員会は、今年7月の施行を目指して、新しい原子力発電の安全基準づくりを進めている。そして現存する原子力施設の地下に活断層が存在するかどうかについて、熱心な議論を展開している。この活断層の上部にプラントをつくってはならないという方針が、新安全基準でも取り入れられる見込みだ。
-
JR東海の葛西敬之会長が日本原子力学会シニアネットワーク連絡会のシンポジウム「原子力は信頼を回復できるか?」で8月3日に行った講演の要旨は次の通り。
-
翻って、話を原子力平和利用に限ってみれば、当面の韓米の再処理問題の帰趨が日本の原子力政策、とりわけ核燃料サイクル政策にどのような影響を及ぼすだろうか。逆に、日本の核燃料サイクル政策の変化が韓国の再処理問題にどう影響するか。日本ではこのような視点で考える人はあまりいないようだが、実は、この問題はかなり微妙な問題である。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間