固定価格買い取り制度の使命は終わった
全国の電力会社で、太陽光発電の接続申し込みを受けつけないトラブルが広がっている。これは2012年7月から始まった固定価格買い取り制度(FIT)によって、大量に発電設備が設置されたことが原因である。2年間に認定された太陽光発電設備の総発電量は約7000万kW、日本の電力使用量の70%にのぼる膨大な設備である。
買い取り価格が高すぎる
経済産業省によると、この発電設備がすべて稼働した場合、FITによる賦課金は毎年約2兆7000億円、消費税の1%以上だ。このコストは今後20年続くので、総額は50兆円以上にのぼる。電力利用者の超過負担は1世帯あたり毎月935円になる。

この原因は単純である。電力会社が買い取る価格が高すぎるのだ。2011年にできた再生可能エネルギー特別措置法(再エネ法)では、それまでの余剰電力の買い取りではなく、全量買い取りを電力会社に義務づけた。これによって電力会社は電力の質に関係なく、太陽光発電所からの電力をすべて買い取ることになった。
問題は、その価格である。当時、孫正義氏(ソフトバンク社長)は、「ヨーロッパ並みの価格」として40円/kWh以上を要求したが、これは太陽光バブルが崩壊する前の価格で、当時すでに買取価格は20円台だった。しかし調達価格等算定委員会の植田和弘委員長は「施行後3年間は例外的に利潤を高める」と公言し、40円(非住宅用)という単価を決めた。
これは2012年当時でも、異常な高値だった。次の表は、調達価格委員会の資料価格制度に書かれたドイツの買い取り価格だが、太陽光の最小規模(0~30kW)でも24.43ユーロセント(当時26.1円)である。イタリアやフランスもほぼ同じだ。40円以上の買い取り価格は金融危機で太陽光バブルが崩壊する前の水準である。

この段階で、今のような事態は予想されていた。発電業者は、ゴールドマン・サックスが3000億円の設備投資を表明しているほか、GEや上海電力など、外資が多い。メガソーラーなら、太陽光パネルの単価は20円/kWh以下になる。それが32円(2014年度・非住宅用)で20年間リスクゼロで電力を売れるのだから、彼らが投資するのは合理的だ。
もう一つの問題は、書類審査による設備認定だけで買い取り価格が決まる制度の欠陥にある。2013年度末に駆け込みで3000万kW以上の設備認定が行われたのは、投資ファンドなどが大量の申請を出したためで、いまだに約7000万kWのうち6000万kWが、認定されたが稼働していない「ペーパー発電所」である。
ヨーロッパでは発電開始の時点で価格が決まるのが普通だが、反原発派や民主党が「電力会社に裁量権を与えるとサボタージュする」と主張し、その圧力に負けてエネ庁が書類審査だけでOKとした。銀行が融資する際に買い取り価格が決まっていないと融資の承認がおりないので、経産省が前倒ししたのだ。
このため太陽光パネルは値下がりが急速なので、買い取り価格の高いうちに枠を取ってパネルの値下がりを待つ業者や、空き枠を売買する業者が大量に出現した。それが今年3月に認定が急増した原因である。
このまま放置すると特別措置の終わる来年3月に、また大量の駆け込みが発生する。ここで新規の買い取りを凍結し、制度を見直すべきだ。特に書類だけ出して空き枠をおさえる業者を締め出すために、買い取り価格の決定を発電開始の時点に変更すべきだ。これは単なる告示(経産省告示139号)なので、変更は容易である。
FITはイノベーションを阻害する
そもそも太陽光発電所は、原発を減らす役には立たない。太陽エネルギーは夜間や雨の日はゼロになるので、バックアップの発電所が必要だから、原発70基分というのは実は正しくない。ドイツではFITで電気代が2倍になったが石炭火力が増え、CO2排出量は大幅に増えてしまった。
もともとFITは、原発の代わりにする制度ではない。再エネ法案が閣議決定されたのは、201年3月11の午前、つまり震災の直前だった。これは鳩山首相が国際的に公約したCO2の25%削減を実現するために、原発に加えて再エネを増やす制度だったのだ。
民主党政権が脱原発のお手本にしたドイツでは、再生可能エネルギーが経済の大きな負担になっている。今年2月、ドイツ政府の諮問機関であるEFI(研究・イノベーション専門家委員会)は、「再生可能エネルギー法(EEG)は電気料金を高くするだけで、気候変動対策にもイノベーションにも役立たない」という報告書を発表した。
それによると、EEGによる再エネ支援額は2013年には236億ユーロ(約3兆4000億円)にのぼり、電気料金の約20%が再エネ発電事業者への支援に使われ、ドイツの世帯あたり電気料金は80%も上がった。これはFITの助成金が原因だ。産業用の電気料金も、EU(ヨーロッパ連合)平均より19%も高く、製造業がドイツから逃げ出す「空洞化」が起こっている。
FITの目的は、再エネを普及させて規模の利益を出し、そのコストを下げて技術開発を促進しようというものだが、EFIはそれは逆効果になっている。風力も太陽光も今の技術はコストが高く研究開発を進める必要があるが、FITではどんな技術にも助成金を出すので、リスクの大きい新技術を開発するより古い技術で発電するほうがもうかるのだ。
再エネ技術には、まだイノベーションの可能性がある。特に蓄電技術に大きなブレークスルーがあれば、太陽光や風力の出力変動の大きさをカバーできる可能性もある。補助金を出すなら、今の高コストの技術に出すのではなく、こうした技術開発に出すべきだ。
原子力の穴を埋めるには、本来なら安定供給できる地熱や水力を優先すべきだが、2年間に申請された再エネの96%が太陽光だ。地熱は26円、水力は24円/kWhで、設備に時間がかかるが、太陽光は用地買収してパネルを買うだけでOKだからである。経産省の有識者会議では、今ごろ軌道修正を決めたが、太陽光の認定は凍結し、地熱や風力を優先する制度に改めるべきだ。
バブルによって一挙に再エネの設備が増え、コストが下がった今となっては、その振興のための制度であるFITも使命を終えた。地熱や水力については補助を続ける意味もあるが、太陽光と風力のFITは打ち切るか、買い取り価格をヨーロッパ以下の水準に設定すべきだ。
(2014年11月17日掲載)

関連記事
-
九州電力は川内原子力発電所1号機(鹿児島県薩摩川内市、出力89万kW)で8月中旬の再稼動を目指し、準備作業を進めている。2013年に施行された原子力規制の新規制基準に適合し、再稼働をする原発は全国で初となるため、社会的な注目を集めている。
-
思想家で東浩紀氏と、政策家の石川和男氏の対談。今回紹介したチェルノブイリツアーは、東氏の福島の観光地化計画の構想を背景に行われた。
-
【出席者】 石破茂(衆議院議員・自民党) 市川まりこ(食のコミュニケーション円卓会議代表) 小野寺靖(農業生産者、北海道) 小島正美(毎日新聞編集委員) 司会:池田信夫(アゴラ研究所所長) 映像 まとめ記事・成長の可能性
-
WNN(世界原子力通信)9月12日記事。英語。原題は「Iran and Russia celebrate start of Bushehr II」イランのブシェール原発の工事が始まった。ロシアのロスアトムの支援で、工事費は2期で約100億ドルの見込み。完成時期は24年と26年。イラン核合意で、原発建設が再始動した。
-
非常によいニュースとしては、ソフトウェアのシミュレーション能力がこれまでにないほど、劇的に向上しているということがあります。私たちは旧型の原子炉を前にしても、それに対してハリケーン、火山噴火、津波、 その他あらゆる種類の極限状況を含めて徹底的にシミュレーションを行えます。そして起こりうる事態の経過についてより適切に予想することができます。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
池田・2022年までに、電力では発送電分離が行われる予定です。何が行われるのでしょうか。 澤・いろいろな説明の仕方がありますが、本質は料金設定の見直しです。規制のかかっていた4割の家庭用向けを自由化して、総括原価と呼ばれる料金算定方法をなくします。
-
商品先物市場を運営する東京商品取引所(TOCOM)の社長に浜田隆道氏が就任した。経済産業省出身で同社専務から昇格した。「総合エネルギー市場」としての発展を目指すという。抱負を聞いた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間