核のゴミ、処分はできる ― 感覚的悲観論からの脱皮を

2015年03月23日 15:00
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元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事、元核燃料サイクル開発機構(JNC)理事

蔓延する感覚的処分悲観論

(写真1)世界最初の最終処分場フィンランドのオンカロの工事現場

15年2月に、総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループで、高レベル放射性廃棄物の最終処分法に基づく基本方針の改定案が大筋合意された。(エネ庁資料)

新たな柱として、将来世代の選択肢を奪わないための可逆性・回収可能性の担保や科学的有望地の提示などを盛り込んだことは、震災で暗礁に乗り上げた処分事業を前進させるうえで、極めて妥当な変更と筆者は評価する。今後国と原子力発電環境整備機構(NUMO)は連携して、国民への理解醸成活動や、各地での対話の場づくりを展開することになるが、その前に厄介な暗雲が垂れ込めている。

東日本大震災以降、政治家や知識人を含む国民各層に地層処分の実現性に関する感覚的悲観論が広がっている。13年8月、小泉元首相は処分事業が先行しているフィンランド視察後に「10万年だよ! 300年後に考えるっていうんだけど、みんな死んでるよ。日本の場合、そもそも捨て場所がない。原発ゼロしかないよ」と発言し、大きな波紋を呼んだ。彼の処分悲観論はきわめて感覚的だが、多くの国民の心をとらえている。

地層処分とは

高レベル放射性廃棄物の放射能が十分低下するまでにはたしかに人類史を超える長い時間を要する。しかし、地層処分は、そうした特性を有する廃棄物を安全に処分するため考案され、「自然の原理」を利用した実に巧妙な処分方法なのである。

まず第一に、我が国の場合、高レベル廃棄物はガラスに溶かし込んで固める。ガラスが溶けない限り放射能は漏れ出ることができなくなる。ガラスに固めた直後の放射能は強烈だが、1000年経てば3000分の1に減る。もはや低レベル廃棄物だ。

卑弥呼時代の脳を守る「還元環境」

地層処分では、廃棄物は300m以深の地下に埋設する。その一番の目的は帯水層より下の「還元環境」、すなわち酸欠環境に廃棄物を静かに眠らせることにある。300m以深の地下なら「還元環境」が確約される。2001年、鳥取県の青谷上寺地遺跡で出土した弥生時代の人骨から脳が発見された。死体が粘土質の湿地に埋没し、酸欠状態の中に閉じ込められたため、腐食をのがれたのである。

このように「還元環境」は、腐食や溶解を防ぐため、物質を非常に長期にわたって保持することができる。万年にわたる管理は人間の手では不可能でも、地下深部に預ければ、「自然の原理」が万年でも物質をしっかりと閉じ込めてくれる。卑弥呼の時代の人間の脳が腐らずに保持されるような環境なら、ガラスが溶ける可能性は無限に小さい。

百万年眠る地下水

処分悲観論の根拠となっているのは、3.11以降広まった「そもそも地震大国の日本に処分場の適地などない」という論である。しかし、これも国民を反原発に誘導するための方便だ。日本原子力研究開発機構では、北海道幌延町の地下深部で採取した水の年代測定を行ったところ、百万年以上という結果を得ている。

日本付近では10万年の間には東日本大震災クラスの地震が600回ほど発生すると言われている。そうした日本にあっても地下深部で百万年より古い水がそこにとどまっているところがある。こういうところに仮に百万年前の人類がガラス固化体を埋め、地下水に放射能が溶け出たとしても、その水は現在私たちが住む地表環境には出てこない。

このことは日本でも処分が可能な場所があることを端的に物語っている。古代の水が残るのは幌延の特異現象ではなく、地層深部で広くみられる傾向といってよい。

300本の一升瓶を守った地下

(写真2)細倉マインパークの古酒蔵

一般的に地震時の揺れは地下深部では地表に比べてはるかに小さい。宮城県栗駒市の旧細倉鉱山は今は閉鎖されているが、一部が地下体験パークとして公開されている。先の大震災時の揺れは地表では震度5強であったが、坑道内にいた見学者は地震に気が付かなかった。栗駒市内では震度7のところもあった。

また坑道奥の山神社には、地元の酒を寝かせ古酒を作る「古酒蔵」があり、棚に約300本の一升瓶が保管されていたが、一本も倒れなかった。東洋町で文献調査応募があった際には、反対派から大地震が来ると処分施設が破壊され、放射能がまき散らされるとの説が流布されたが、これも現実からかけ離れた脅しだ。

処分の困難さは技術ではなく政治にある

これらの事実は、処分の実現性を頭から否定するのは科学的態度とは言えないということを如実に物語っている。もっと端的にいえば、技術的には日本でも安全な地層処分を行える見通しはあるということである。処分事業の本当の困難さは、技術上の問題にあるのではなく、国民の理解と合意を如何に形成していくかという、社会科学的、政治的側面における難しさなのである。

日本は今、現実の「原発ゼロ」状態を体験しつつある。その穴埋めとしての化石燃料輸入による毎年4兆円に近い国富の国外流出と、大幅な電気料金値上げで、技術産業立国としての屋台骨が揺らぎ、国力低下が続いている。日本国民の生活基盤の長期安定化のためには一定規模の原発維持が不可欠なことは自明であり、そのためにも処分問題は国が国民と共にぜひとも解決しなければならない重要課題である。

政治家が前面に出て処分悲観論払拭を

これから始まる国やNUMOの理解醸成活動では、処分悲観論という暗雲の解消が大きな課題となる。

以前安倍首相は自衛隊幹部への訓示で、哲学者アランの言葉を引用して「悲観主義は気分によるもので、楽観主義は意志によるものである」と述べた。

安全保障やエネルギー問題などの国家的重要課題は、ポピュリズムでは解決不能であり、政治家の強い意志と楽観主義にもとづく指導が求められる。処分問題解決に向けては、いまこそ政治家にも前面に出ていただき、処分実施に向けての強い意志と実現見通しへのポジティブな見解を示すことで、世の中を感覚的悲観論から脱皮させることに積極的に貢献してもらう必要がある。

(2015年3月23日掲載)

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元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事、元核燃料サイクル開発機構(JNC)理事

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