福島原発事故、放射能の恐怖は幻想だった

2015年04月13日 12:00
アバター画像
経済ジャーナリスト

(写真)福島県相馬市の馬陵公園の桜(福島県提供)。この美しい桜が毎年咲くように、福島で原発事故による、生物への異常は観察されていない。

「福島は危険?その情報はハリウッド製か」

第1回「放射線の正しい知識を普及する研究会」(SAMRAI、有馬朗人大会会長)が3月24日に衆議院議員会館で行われ、傍聴する機会があった。

福島原発事故の影響を考える会合だ。日本からは札幌医科大学の高田純教授(放射線防護学)、海外からは、「正しい放射線情報のための科学者の会」の主要メンバーで、英オックスフォード大学のウェード・アリソン名誉教授(物理学)が講演した。

昨年末に来日した際、アリソン教授は、日本外国特派員協会で会見を行った。その時、英国の記者が、福島での放射能汚染の危険性について言及すると、アリソン教授は「君はその情報をどこで入手したのだ? ハリウッドか?」と、品のいいジョークで切り返した。現在の福島と日本で危険はないと断言した。

また米国フォックス・チャイス・がんセンターの医学物理士モハン・ドス博士は講演で、次のように述べた。「私は日本の皆さんの決定に干渉する立場にありませんが、今、福島で何も健康被害は起こっておらず、これから起こると専門家は誰も言っていないのに、なぜ過重な放射線防護対策を変えないのでしょうか」。

筆者は、この質問に答えられない。なぜなら筆者も理由が分からないからだ。

海外の視点を参考に

日本政府は、現在は放射線量が高い場所を「避難指示区域」としている。区域の設定では「年間被ばく線量が20ミリシーベルト(mSv)」という値が基準だ。しかし、その後に始めた除染の目標を「1mSv」と、下げ過ぎたために除染が進まない。ちなみに、1mSvに科学的根拠も、法的根拠もない。

福島原発事故は事故を起こした東電・政府の失敗が繰り返し指摘される。しかし起こった「その後」の今の現在進行形の失敗は、誰も大きく取り上げない。

広範囲の避難指示区域は必要ない。福島の広大な地域がゴーストタウンになる必要などない。そもそも、福島原発事故の放射能で死亡した人は、今もって、ただの1人もいない。これからもいないだろう。避難生活のストレスや、危険とする情報汚染が、1884人(14年3月1日時点)とされる、福島の震災関連死に影響していることは間違いない。

当初、原発事故に対応した民主党政権は、追加被曝線量「年間1ミリシーベルト以下」という目標のもと、巨額の経費と多大な時間と労力をかけて放射能汚染地区の除染を進めた。だが、IAEA(国際原子力機関)は「必ずしも達成する必要はない」としている。

福島原発では、「放射線ゼロ」を目指して、過重な対策をしている。IAEAなどは汚染水についても「放射性物質を除去し、放射線量について安全基準値を下回るものは、海への放出を検討すべきだ」と提案している。

福島では、県民のさまざまな健康診断が行われ、地元紙には毎日、放射線の測定値が掲載される。そこまで気にする必要はあるのか。チェルノブイリで救援活動を行った米国の血液医のロバート・ゲイル博士は12年夏、取材した筆者に、「放射線の監視はある程度必要ですが、日常生活に戻って大丈夫です。過剰な情報は社会を傷つけるでしょう」と語っていた。その懸念通りになった。

状況を突き放してみることができる海外の有識者は、日本の福島事故後の対策を、そろって遠回しに「おかしい」と指摘している。

幽霊の正体見たり枯れ尾花

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と川柳に言う。残念ながら、一部の人たちは実態のない「枯れ尾花」に踊らされたようだ。それは「レイディオフォビア」(Radiophobia放射線恐怖症)(アリソン氏)が影響し、日本社会のさまざまな未熟さが影響したのだろう。「日本人として恥ずかしい」という私の感想に、アリソン氏は「どの社会にもある。西欧社会にもあり、原子力の適切な活用を妨げている」と、なぐさめてくれた。

2011年夏から、筆者は福島事故の影響について、「心配はないので騒ぐな」と、機会あるごとに同じ主張を繰り返している。その通りになった。しかし「私は正しかった」と自慢する感想も、勝利の感覚も皆無だ。日本が停滞・混乱したことを悲しく思っているし、4年経過した今でも無駄な混乱があることはむなしい。

騒いだ人を責めるつもりはない。しかし「ばかばかしい」と総括できる、放射能パニックはそろそろやめにして、あり得ない恐怖を笑い飛ばすことをしなければならないだろう。これから混乱が続くならば、私たちの今を生きる日本人は、世界の人々から、そして後世の日本人から「愚か」と、笑われる段階に来ている。

理性と前向きで明るい心で、自然体で生きればいいだけだ。東日本大震災と原発事故の苦難を乗り越えつつある福島と東北と日本に、それらがあふれていることは、既に証明されている。

(2015年4月13日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 今年の8月初旬、韓国の電力需給が逼迫し、「昨年9月に起こった予告なしの計画停電以来の危機」であること、また、過負荷により散発的な停電が起こっていることが報じられた。8月7日の電気新聞や9月3日の日本経済新聞が報じる通り、8月6日、夏季休暇シーズンの終了と気温の上昇から供給予備力が250万キロワット以下、予備率が3%台となり、同国で需要想定と供給責任を担う韓国電力取引所が5段階の電力警報のうち3番目に深刻な状況を示す「注意段階」を発令して、使用抑制を呼びかけたという。
  • 福島原発事故以来、日本のエネルギー政策には世世論から批判を集めます。 確かに、事故の大失態は批判されるべきですが、過去の業績をすべて否定する必要はありません。GEPRの編集に関わる経済・環境ジャーナリストの石井孝明氏が、過去のエネルギー政策で評価する例を紹介します。
  • 米紙ウォールストリートジャーナルは、やや共和党寄りと見られているが、民主党からも割と支持されていて、超党派の信頼があるという、米国には珍しい大手の新聞だ。筆者の見立てでは、地球温暖化問題について、ど真ん中の正論を続けてい
  • 先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
  • 福島第一原発事故による放射線被害はなく、被災者は帰宅を始めている。史上最大級の地震に直撃された事故が大惨事にならなかったのは幸いだが、この結果を喜んでいない人々がいる。事故の直後に「何万人も死ぬ」とか「3000万人が避難しろ」などと騒いだマスコミだ。
  • 1.太陽光発電業界が震撼したパブリックコメント 7月6日、太陽光発電業界に動揺が走った。 経済産業省が固定価格買取制度(FIT)に関する規則改正案のパブリックコメントを始めたのだが、この内容が非常に過激なものだった。今回
  • 高速炉、特にもんじゅの必要性、冷却材の選択及び安全性についてGEPRの上で議論が行われている。この中、高速炉の必要性については認めながらも、ナトリウム冷却高速炉に疑問を投げかけ、異なるタイプで再スタートすべきであるとの主張がなされている。
  • 昨今、日本でもあちこちで耳にするようになったESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉である。端的にいうならば、二酸化炭素(CO2)排

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑