解除は町再建のスタート地点【復興進む福島3】

2015年09月24日 07:00
アバター画像
楢葉町長
楢葉町長 松本幸英

国は9月5日に楢葉町の避難指示を解除する。しかし、放射線への不安や生活の利便性などから、帰還をためらう町民も多い。多くの課題が残る中、これからどう町を再建していくのか――。松本幸英町長に方針を聞いた。

-国は楢葉町の避難指示を解除することを決めました。解除をどう受け止めていますか。

松本・解除には空間放射線量を年20ミリシーベルト(mSv)以下にするなどの要件がありますが、今回、国は町民を楢葉に戻すために解除をするのではなく、戻りたい人たちが1割か2割はいますから、「その人たちを避難先にとどめておくことはできない」と考えて解除に踏み切りました。したがって、解除は規制を緩和することだと話しています。私はそのとおりだと思っています。

これには、いろいろな考えがあると思います。しかし、解除をしなければ町の再建はスタート地点に立つことができません。ですから私は前向きに考えて、しっかりと受け止めたい。4年半以上、楢葉では時間が止まっていました。これからは新たに時を刻んでいくことを考えて、復興に向けて取り組んでいきたいと思っています。

-国も楢葉町の再建を全面的に支援してく考えです。

松本・原子力災害対策本部長、これは安倍晋三首相ですが、8月7日に正式に解除を決定しました。その際、首相から解除後も楢葉町をしっかりと支援していくと直接の指示がありました。これは本当に力強いと思っています。解除について、批判的な話もあります。私はそれを否定しません。しかし、前向きな考え方をしながら進んでいかなければ、町の行く末を見通すことができなくなります。

-解除されたことで、これから本格的な町の再建が始まります。働き盛りの人たちに戻ってもらうには、職場が必要になります。

松本・町民の皆さんからは、「戻っても働く場所がない」と言われることがあります。津波・原子力災害被災地域企業立地補助金という国の制度があり、それを利用して既に進出する意向を示している会社が十数社あります。

住宅は4年半以上、あまり手入れもせずに置かれていましたから、リフォームしなければ住めないとか、中には解体して新築する家もあります。これは500軒以上ありますから、町内の事業者だけではとても手が足りません。しかし、大手の住宅メーカーは、まだ1~2社しか町内にない。しかし解除されることで、これからは多くの住宅メーカー参入し、リフォームや新築が進んでいくと思います。

子供たちは楢葉で教育を

-避難している人たちは帰町についてどう考えていますか。

松本・4年半以上避難生活を続けて、通院が必要な高齢者や小中学校に通う子供たちがいる家庭など、その状況はさまざまです。ですから、帰りたくても帰れないということへつながってくるのだと思っています。直近のアンケートを見ると、約半分の町民が帰町の意志を示しています。しかし、「帰りたい」と答えた町民の中にも、申し上げたようにいろいろな事情をかかえた家庭がありますから、すぐに多くの人たちが帰るとはならないと考えています。

-すでに準備宿泊で帰町している人たちがいますが、解除されて戻るのは、ほとんどが50歳以上の高齢者と聞きました。

松本・そうとらえています。したがって一時的に、まさしく超高齢者の町になる。そういう中で、将来、多くの人たちに帰還してもらう雰囲気作りを、まず戻られた皆さんと一緒に構築しようと思っています。そういうことを少しずつ、時間をかけてやることによって、若い世代も少しずつかもしれませんが、戻ってくると思っています。

しかし、やはり若い人たちが帰町してくるのは、ある程度、時間軸で考えていくしかないと思います。

-どれくらいの時間軸を考えていますか。

松本・やはり10年ぐらいの期間が必要だと思っています。やはり楢葉で生まれて育った子供たちは、避難先から通うにしても、やはり楢葉の学校に通ってほしい。小学校と中学校を一緒にした小中一貫校をつくり、新しい校舎で子供たちに学んでもらうことなどを含め、2017年春の開校を目指して検討を進めています。

-そこで学んだ子供たちが、いつか町に戻ってくれればいいですね。

松本・そうですね。子供たちを持つ30~40歳の親御さんたちと話し合うと、「今はまだ、帰れない」という声がほとんどです。それで、「今は無理でも、将来はどうですか」と聞くと、「帰りたい」という答えが多い。そういうことを考えると、希望は十分にあると思っています。

震災前の豊かな田園地帯に

-これから楢葉をどういう町にしたいと考えていますか。

松本・安倍首相が就任してすぐ現地入りしたときに、「われわれとしては復旧、復興にしっかりと命懸けで取り組んでいきます。単なる復興ではなくて、復興のモデルタウンにしたい」と直接訴えました。帰還を促進するためには、以前より魅力ある町にしていかなければいけません。そういうことを頭に据えて、あらゆる施策を展開していく考えです。

-やはり楢葉の魅力は豊かな田園風景だと思います。

松本・首長に当選してから、まずは原風景を取り戻すという思いで、今までやってきました。例えば各行政区の田んぼにはいまだに除染土の仮置き場があります。これを動かさないと、原風景に戻すことはできません。それをしっかりと訴え続けて、廃棄物を移動したのちの、以前のような田園風景にするよう努めたい。帰還が進み、営農を再開する人たちも増えてくると思いますので、町としてしっかり支援していきたいと思っています。

-Jビレッジも町の活性化に貢献しそうです。

松本・震災前は、全国の少年サッカーチームが試合していました。日本中から集まった子どもたちが楢葉、広野で歓声を上げて試合をすることは、大変意義があると思っています。20年のオリンピック・パラリンピックを目標に、再開に向けて努力していますから、われわれもその目標に合わせて、復興を進めたいと思います。

松本幸英(まつもと・ゆきえい)1960年楢葉町生まれ。四倉高校卒。会社員を経て、97年楢葉町議。4期務め、12年月4より現職。

(編集・エネルギーフォーラム編集部)
(この記事はエネルギーフォーラム9月号に掲載させているものを、同社から転載の許諾を得た。関係者の方に感謝申し上げる。)

(2015年9月24日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • JR東海の葛西敬之会長が日本原子力学会シニアネットワーク連絡会のシンポジウム「原子力は信頼を回復できるか?」で8月3日に行った講演の要旨は次の通り。
  • 薩摩(鹿児島県)の九州電力川内原子力発電所の現状を視察する機会を得た。この原発には、再稼動審査が進む1号機、2号機の2つの原子炉がある。川内には、事故を起こした東電福島第一原発の沸騰水型(BWR)とは異なる加圧水型軽水炉(PWR)が2基ある。1と2の原子炉の電力出力は178万キロワット。運転開始以来2010年までの累積設備利用率は約83%に迫る勢いであり、国内の原子力の中でも最も優良な実績をあげてきた。
  • アゴラ研究所は、9月27日に静岡で、地元有志の協力を得て、シンポジウムを開催します。東日本大震災からの教訓、そしてエネルギー問題を語り合います。東京大学名誉教授で、「失敗学」で知られる畑村洋太郎氏、安全保障アナリストの小川和久氏などの専門家が出席。多様な観点から問題を考えます。聴講は無料、ぜひご参加ください。詳細は上記記事で。
  • 原発の停止により、化石燃料の使用増加で日本の温室効果ガスの削減とエネルギーコストの増加が起こっていることを指摘。再生可能エネルギーの急増の可能性も少なくエネルギー源として「原子力の維持を排除すべきではない」と見解を示す。翻訳は以下の通り。
  • アゴラ研究所は第5回シンポジウム「遺伝子組み換え作物は危険なのか」を2月29日午後6時30分から、東京都千代田区のイイノホールで開催します。環境、農業問題にも、今後研究の範囲を広げていきます。ぜひご参加ください。重要な問題を一緒に考えましょう。
  • 地域メディエーターより、シンポジウムの位置付けを説明し、原発事故の3年半の経緯とその間の福島県民の気持ちの揺れ動きを振り返った。
  • 池田・全員の意見で「エネルギーと安全保障は密接に絡み合っている」ということが一致しています。よく「命さえあれば、お金がなくても大丈夫」と言われますが、現実には違います。お金がなければ命を維持するためのエネルギーもつくれません。
  • 使用済み燃料の再処理を安定的、効率的に行うための「再処理等拠出金法案」の国会審議が行われている。自由化で電力会社が競争環境下に置かれる中で、再処理事業を進める意義は何か。原子力に詳しい有識者と政治家が徹底討論を行った。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑