復興は今後5年が正念場【復興進む福島4】
私は獣医師で震災の年まで福島県の県職員だった。ふるさとの楢葉のために働きたいと思い、町議に立候補し、議長にも選んでいただいた。
楢葉町では原発事故によって3つのものが失われたと思う。一つは家族の絆だ。この町は農業が中心で2~3世代の同居が多かった。ところが避難でばらばらになった。若い世代は職場、また子どもの学校の近くにすみ、別居を余儀なくされた。
第2に地域の絆だ。長くこの地域に住んできた人が多く、地域の人がそれぞれ顔見知りだった。それがなくなってしまった。とてもさびしいことだ。
第3に、命と健康だ。災害関連死では今年3月までに112人。避難生活による健康被害や自殺を含んだものだ。家族や地域の絆が壊れたことで、精神的な健康がむしばまれている。特に高齢者の孤立が深刻になっている。そして住民の健康はかなり悪化している。慣れない生活での引きこもり、過食での肥満などで生活習慣病などを悪化させている。ストレスを訴える人も多い。
地域の傷は大きい。避難指示の解除は、もちろん復興のための重要な一歩だし、町民はこぞって歓迎している。しかし実際に住めるのかというと話は別だ。
春に当初8月の盆前に避難指示を解除すると打診されたが、町議会は住民の声を聞き「準備がまだ整っていない」と意見を出し9月の解除となった。医療、買い物や飲食の場所、住居がまだ整っていない。そして雇用の場がない。住民の帰還は大半が50歳代より上だ。子育て世代がいない。雇用の場、生活環境の改善は進めていくべきだろう。
子どもの声が聞こえない町は、自然に消滅してしまうだろう。今年度で復興計画の5年が終わり、今後5年延長される。この5年が楢葉町にとって正念場となる。もちろん私たちの努力が前提だが、国と県に復興支援をお願いし、それを負担する日本中の皆さんに理解をいただきたいと思う。(談)
(この記事はエネルギーフォーラム9月号に掲載させているものを、同社から転載の許諾を得た。関係者の方に感謝申し上げる。)
(2015年9月24日掲載)
関連記事
-
6月17日記事。国民投票前の記事ですが、仮に離脱の場合にはエネルギーセクターが、大変な悪影響を受けるという見通しを示している。
-
低線量放射線の被ばくによる発がんを心配する人は多い。しかし、専門家は「発がんリスクは一般に広がった想像よりも、発がんリスクははるかに低い」と一致して指摘する。福島原発事故の後で、放射線との向き合い方について、専門家として知見を提供する中川恵一・東大准教授に聞いた。(全3回)
-
福島第一原子力発電所の事故処理、特にその技術的課題に世間の耳目が集まる一方、その地域に住む人々の暮らしについては見過ごされがちである。しかし私には、事故を起こした原子力発電所とともに生きた経験がある。
-
世界保健機関(WHO)は2月28日、東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質による健康影響の評価を発表した。そのニュースリリース「Global report on Fukushima nuclear accident details health risks」(福島原発事故の健康リスクの国際報告)を翻訳して紹介する。
-
小泉純一郎元首相は、使用済核燃料の最終処分地が見つからないことを根拠にして、脱原発の主張を繰り返している。そのことから、かねてからの問題であった最終処分地の選定が大きく問題になっている。これまで、経産大臣認可機関のNUMO(原子力発電環境整備機構)が中心になって自治体への情報提供と、立地の検討を行っているが、一向に進んでいない。
-
アゴラ研究所は2016年12月20日、農業技術情報の提供を行う日本バイオテクノロジーセンターと共催で、第6回アゴラ・シンポジウム「成長の可能性に満ちる農業−新技術と改革は日本再生の切り札となるか」を開催した。
-
北関東や東北を中心に9月10日から11日に降った記録的な豪雨で、洪水や土砂崩れが発生した。栃木県、茨城県で鬼怒川が氾濫し、13日時点では、栃木県で1人が死亡、茨城県常総市では13日時点で15人が行方不明になり、住宅多数が流された。被害の全貌はまだ不明だ。行方不明者の安全、被災者の方の休息、そして早期の復旧を祈る。
-
福島原発事故以来、環境の汚染に関してメディアには夥しい数の情報が乱れ飛んでいる。内容と言えば、環境はとてつもなく汚されたというものから、そんなのはとるに足らぬ汚染だとするものまで多様を極め、一般の方々に取っては、どれが正しいやら混乱するばかりである。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間