原子力・エネルギーと報道を考える【シンポジウム報告4の1】

2015年12月14日 19:00

「田原総一朗の見た原子力・エネルギー報道の40年【シンポジウム報告3】」から続く。映像「原子力報道 メディアの責任を問う【アゴラ・シンポジウム】」。

(写真1) 12月8日に行われたシンポジウム

12月8日に行われたアゴラ・シンポジウム「原子力報道 メディアの責任を問う」で、行われた討論「原子力・エネルギーと報道を考える」の要旨は以下の通り。

出席者は田原総一朗(ジャーナリスト)、モーリー・ロバートソン(ジャーナリスト ミュージシャン)、松本真由美(東京大学客員准教授、テレビキャスター)、司会は池田信夫(アゴラ研究所所長)の各氏。

海外で落ちた日本の評判

池田・出席者はメディアや報道に関わってきた方です。まずモーリーさんに聞きたいのは、福島と原発事故をめぐる情報が、日本以外では、かなり異常な形で現れていると聞いています。

ロバートソン・大変な状況になっていると言えるでしょう。まず大きな枠の話をします。日本からの英語の情報発信がたいへん少ない状況です。これは政府で特にそうです。そしてその結果、海外で情報がゆがめられて伝わっています。さらに海外からの情報の流入も少なく、間違った情報が流れていることにも気づかないのです。

福島原発事故では、その情報流通の構造の弱さが、あらわになってしまいました。もし自民党が政権にあった場合に、うまくできたかは分かりません。しかし、事故当時、民主党政権は適切に行えませんでした。発表があいまいで、混乱し、情報の公表が遅れました。悪気はなかったのでしょうが、「日本政府が嘘をついている」「隠蔽している」という印象を、日本国内にも、海外にも定着させてしまったのです。ちょうど、2011年はフェイスブックやツイッターが日本ではやり始めたころ。確認されない情報が水平に広がりました。それが風評被害を生んだのです。

例えば、事故のとき、枝野幸男官房長官が登場して健康の影響について「ただち影響はない」と繰り返しました。これは、もしかしたら影響があるという意味で、日本語でも怖い表現です。日本でも不安をあおりました。日本人の大半は、「あうん」の呼吸でみんな一緒に同調し、実際に耐える行動をする人が多かったようです。しかし不安は抑えられず、パニックといえる状況の一因になったと思います。そしてこの言葉は英語に翻訳され、当然「いずれ、被害が起こるかもしれない」という印象を広げてしまいました。実際に健康被害は起こらなかったので、そういう強い否定をまずだし、状況が代わったら修正をすべきでした。

アメリカ式にやると、次のような趣旨の演説をオバマ大統領が執務室からするでしょう。な「原発事故が日本の技術は世界最高で、私たちは困難に立ち向かい、乗り越えられます。政府が分かっている情報は次のようなもの、一時的に非難をする人がいますが、他の人は指示を待ちなさい。最新情報はいつまでにアップします」。つまりリーダーが引っ張り、動揺を落ち着かせようというものです。こういうアメリカ式のメッセージを出せば英語にも翻訳しやすく、日本の評判を上げたでしょう。

私はアメリカ人ですが、事故直後は数時間ごとに大使館からメールが来て、「横田米軍基地に飛行機が発着するので、必要ならそれに乗ってください」という案内がありました。こまめに情報を発信することが動揺を抑えたでしょう。

株式市場では売りが噂を呼び、さらに売り込まれるという風評被害による暴落が起こります。そんな風に風評で、日本の価値が原発事故の後で下がっていったのです。

科学顧問制度が機能した英国

松本・私も福島事故の時に情報を追い、英語情報も見ました。当時でも、後から振り返っても、英国大使館の発信した情報に救われたと思いました。

英国では1990年代に起きた狂牛病の際に、科学的な分析を伴う政府の発信する情報が混乱し、パニックを引き起こした経験があります。その反省で、首相府、そして各官庁が科学顧問を雇って専門的な判断をし、広報もします。福島原発事故においても、1週間後に英国の首相科学顧問が「チェルノブイリ事故より規模は小さい」「外部に出た放射性物質によって健康被害の起こる可能性は少ない」という趣旨の発表をし、在日の英国民に冷静になるよう呼びかけました。専門家を集めた精度の高い分析で、それはのちになっても大きく修正する必要がありませんでした。

日本では、情報公開が遅れました。正確なことを言うためと思われますが、あの状況ではスピードが必要であったと思います。間違っていれば訂正する。その時点でより適切な情報を発表する。そうしたことを考えるべきと、思いました。報道の問題も、政府の発表の仕方が適切ではありませんでした。

田原・アメリカは原発をどうしたいんですかね。

ロバートソン・今はガスの時代と言われています。シェールガスの生産が伸びているからです。しかし、ずっと伸び続けるかどうかは分からないし、その開発は環境破壊の懸念が出ています。エネルギーめぐる状況はいつでも変わります。原発も状況が許せば、積極的な開発に政策が変わるでしょう。

エネルギー、安全保障、外交は密接に結びつき、普通の国の政治では当たり前です。米国は、中東からの石油に依存するために、地域にコミットし、その結果、テロの脅威にも直面しているわけです。ただし、日本はそれが切り離されている。メディアも強調しませんね。

池田・日本の政治の意思は、エネルギー・原子力でどのようなものでしょうか。

田原・はっきり決まっていない。2013年の9月に、野田政権は、「2030年代に原発ゼロを目指す」と表明したが、閣議決定できなかった。第1の理由は、アメリカが日本の原発ゼロを懸念したこと。第2の理由は青森県や原発立地県との関係。青森県で核燃料サイクル、中間貯蔵などの施設があるが、原発ゼロの場合に、それをどうするか答えを持っていなかった。お粗末だったが、政権を取り戻した自民党も、原発ははっきり決めたくない状況になっている。

池田・政治家は世論をおそれているのでしょう。そして政治家はメディアにどのように報道されるかを、常に気にします。松本さんはリスク・コミュニケーションも研究しているそうですが、適切な情報だけが流れる形にメディアの報道姿勢を直せるものでしょうか。

松本・直すことは難しいでしょう。物事の表現は、人々の立場、思想、世界観で変わるし、受け止め方も変わります。そして、新聞は社論があります。それが新聞の付加価値になっているわけですから、それに記事が迎合して、時には事実をゆがめることも、ありえることです。ですから私たちは、情報を一つだけにするのではなく、複数のメディアの情報を見ること、そしてそれを冷静に解釈することが必要になります。

以下「4−2」に続く

(2015年12月14日掲載)

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