風化、風評被害との戦い続く-高木経産副大臣【復興進む福島7】
今年9月に避難指示の解除になった福島県・楢葉町民は、4年5カ月の避難生活で失った“日常”を取り戻せるのか。政府は、20回に渡る住民懇談会や個別訪問を通じて町民の不安に耳を傾け、帰還を躊躇させる障害を取り除くべく対策を講じてきた。国の支援策の主眼とは何か。高木陽介・経済産業副大臣(原子力災害現地対策本部長)に聞いた。
浜通りの復興に弾み
高木陽介・経済産業副大臣(原子力災害現地対策本部長)-楢葉町は9月、初めての全町避難地域の避難指示解除となります。その意義とは何でしょうか。
高木・東京電力福島第一原子力発電所の事故後、約8万人の福島県民が避難生活を強いられてきました。故郷に戻りたくても戻れなかったわけです。国が除染を実施しインフラを復旧した上で避難指示解除することは、希望する住民の方々の帰還を可能とする「規制緩和」です。特に今回の楢葉町の避難指示解除は、全町避難している7町村で初めてであり、福島、特に浜通り地域の復興に大きな弾みになるものと考えています。
-帰還者の生活再建に向けた、国の役割とは何でしょうか。
高木・2014年5月に楢葉町の松本幸英町長が、早ければ今年の春以降帰還するとの意向を示されたのを受け、地元自治体と連携しながら生活再建に不可欠なインフラや、医療、商業施設などの社会基盤を整えることに全力を挙げてきました。この中で、原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チームの職員に常々言ってきたのは、楢葉町の2700世帯、7400人の避難者それぞれの思いをくみ取ることが大事だということです。行政としてはある一定のラインでインフラを整備するのですが、避難指示解除を受け止める住民の苦しみ、辛さはそれぞれ異なります。帰還したくても帰還できる状況ではないと言う人もいるし、帰還しないという人もいるでしょう。それを真摯に受け止め、帰還に向けた課題を解決していかなければなりません。この取り組みはスタートラインに立ったばかりです。
-多数回の住民懇談会も開かれました。
高木・帰還に向けた準備のための宿泊の開始を発表後、4~5月に12回、そしてお盆前に避難指示解除する目途を示してから8回計20回の住民懇談会が開かれました。1月からほぼ毎月町議会と、さらに各分野の町民代表と意見交換する「ならは復興加速円卓会議」を3回開くなど、あらゆる機会で町民の声を聞いてきました。
-それが医療や買い物、水への不安対策といった追加対策につながったわけですね。
高木・そうです。住んでいる人の実感は住んでいる人にしかわかりません。除染、インフラの復旧で避難指示を解除できる状況になったとはいえ、いざ帰還するとなると、「働く場所はあるのか」、「日常的な買い物や通院などをどうすれば良いのか」といったきめ細かな要望が出てきます。医療面では、広野町の診療所に通院するためのバスの運行本数や時間を拡大しました。買い物の利便性では、町内のスーパーが売り場面積を拡張し、肉や魚といった生鮮食品の品ぞろえを拡充するとともに、日曜日以外の宅配サービスを開始しています。水道水については、ご家庭の蛇口から出る飲料水の放射性物質検査を始めました。住民懇談会がなければ、こうした要望は出てこなかったでしょう。まだすべて解決したわけではありませんから、これからも取り組みを加速していきます。
8000社の事業再開目指し支援スキーム
-今回帰還するのは「希望者」ですが、町の復興のためにはより多くの住民の帰還が求められます。
高木・そのためには、住民が生活できる環境を整えなければなりません。一番の問題は雇用です。6月に17年3月までに居住制限、避難指示解除準備両区域の避難指示を解除する方針が閣議決定され、事業者の自立支援のための官民合同のプロジェクトチームを立ち上げました。メンバー約100人が年内にも、12市町村の約8000事業所を対象として個別訪問し、事業再開に向けた意見を吸い上げた上で支援スキームを作っていく考えです。
さらに、新たな企業誘致にも力を入れています。これまで浜通り地域にはなかなか企業誘致できませんでしたが、ようやく子供向け化粧品の製造販売会社の「レイス」が広野町に進出することが決まりました。今後も、避難指示が解除された地域、または解除される地域への企業誘致を推進していきます。
2つの“風”との闘い
-福島第一原発の廃炉作業など、まだまだ課題はあります。
高木・30~40年かかる廃炉は息の長い戦いとなりますが、昨年12月に4号機の使用済み燃料プール内の燃料1533本を取り出し、今年8月には3号機使用済燃料プール内から燃料取扱機を撤去するなど、作業は一歩ずつ前進しています。人類史上誰も取り組んだことがない作業であり、この作業に向けて世界の原子力技術のあらゆる知見がこの浜通りに集中します。
世界の廃炉技術の最先端を浜通りが担い、国内外の人たちが国際色豊かな新たな町づくりを担うことで、10年後には見違えるような浜通り地域になっていることでしょう。そんな夢の実現に向け、国も最後まで全面的に支援していきたいと思います。
-他地域の日本国民がするべきことは何でしょうか。
高木・国民の皆さんにお願いしたいのは、もっと福島に関心を持ってもらいたいということです。東日本大震災も原発事故も風化しはじめ、関心が薄まっています。一方でメディアは、原発の事故やトラブルばかりを大々的に取り上げ、事故処理が着実に進んでいることがなかなか国民に伝わっていません。私たちは、風化と風評被害の2つの“風”と闘いながら、復興政策を進めている状況です。
今、福島の状況を国内外に発信するための映像作りに乗り出しています。この映像を国内外に発信し、言葉では伝わりにくい福島の復興の様子を伝えていくのが狙いです。時間はかかるかもしれませんが、負のイメージを一つ一つ払拭するべく引き続き努めていきます。
高木陽介・1959年東京都生まれ。創価大学法学部卒。毎日新聞社会部記者を経て93年に初当選。国土交通大臣政務官、衆議院総務委員長などを歴任。2014年9月から現職。
(この記事はエネルギーフォーラム9月号に掲載させているものを、同社から転載の許諾を得て転載した。関係者の方に感謝申し上げる。)
(2015年10月5日掲載)
関連記事
-
福島第一原発事故は、日本人が原子力とともに生きるかどうかの選択を突きつけています。他方、化石燃料には温暖化や大気汚染などのリスクもあり、私たちの直面している問題は単純ではありません。十分なエネルギーを利用し、豊かな環境を維持しながら、私たちは持続可能な文明を構築できるのでしょうか。
-
おそらくGEPR読者の方の多くは、福島第一原発事故による放射線被害はほぼ無いものと理解され、心配もしていないことだろう。しかしながら、社会の一部にまだ心配が残るようだ。事故からもう2年近くになる。さまざまな方が、不安を払拭するための努力を行っている。この原稿でもその試みを行いたい。
-
経産省・資源エネルギー庁は、現在電力システム改革を進めている。福島原発事故の後で、多様な電力を求める消費者の声が高まったことが背景だ。2020年までに改革は完了する予定で、その内容は「1・小売り全面自由化」「2・料金規制撤廃」「3・送配電部門の法的分離」などが柱で、これまでの日本の地域独占と「10電力、2発電会社」体制が大きく変わる。
-
福島第一原子力発電所の事故処理、特にその技術的課題に世間の耳目が集まる一方、その地域に住む人々の暮らしについては見過ごされがちである。しかし私には、事故を起こした原子力発電所とともに生きた経験がある。
-
福島第一原発の処理水問題が、今月中にようやく海洋放出で決着する見通しになった。これは科学的には自明で、少なくとも4年前には答が出ていた。「あとは首相の決断だけだ」といわれながら、結局、安倍首相は決断できなかった。それはな
-
国は9月5日に楢葉町の避難指示を解除する。しかし、放射線への不安や生活の利便性などから、帰還をためらう町民も多い。多くの課題が残る中、これからどう町を再建していくのか――。松本幸英町長に方針を聞いた。
-
3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
-
原子力を題材にしたドキュメンタリー映画「パンドラの約束(Pandora’s Promise)」を紹介したい。かつて原子力に対して批判的な立場を取った米英の環境派知識人たちが、賛成に転じた軌跡を追っている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















