【シンポ関連】遺伝子組み換えは農薬ではない

2016年02月15日 14:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

日本でも、遺伝子組み換え(GMO)作物が話題になってきた。それ自体は悪いことではないのだが、このブログ記事に典型的にみられるように、ほとんどがGMOと農薬を混同している。これは逆である。GMOは農薬を減らす技術なのだ。

「遺伝子組み換え」というと、いかにも危険な遺伝子操作をするようだが、単なる品種改良の技術である。今までは交配によって遺伝子の組み替えを植物にさせていたのを、人間が実験室でやるだけだ。その主な目的は、除草剤や害虫に強い品種をつくることだ。

除草剤は毒物である。人間が大量に飲むと死ぬ劇薬だが、雑草を取り除くために使われている。しかし除草剤はすべての植物を殺すので、何回にもわけて雑草だけが死ぬように散布する必要がある。これに対して、GMOで除草剤に耐性のある品種をつくると、1回で雑草だけを殺すことができる。

害虫を殺す殺虫剤も毒物である。GMOで害虫に強い品種をつくると、殺虫剤の散布もなくすことができる。これによって農作業が楽になり、収量が増えるだけでなく、農薬(除草剤・殺虫剤)の使用量も大きく減るのだ。農薬で死んだ人はたくさんいるが、GMOで死んだ人はいない。

反GMO運動は、反原発運動に似ている。彼らは「自然は正しい」と信じているが、GMOをやめると毒性の強い農薬が増えることは知らない。有機農業で高い農作物を売っている業者は、彼らの無知を利用してGMOを阻止しているが、GMOをまったく使っていない日本の1人あたり農薬使用量は世界一だ。

しかしGMOには毒性がないので、海外では普通に使われている。日本に輸入されるトウモロコシの7割以上は、GMO作物だ。農水省も許可しているが、農協が「安全確保」を理由にして阻止しているので、栽培には使えない。GMOを支配しているのはモンサントなどの外資系企業で、農協の独占を脅かすからだ。

アゴラ研究所では、2月29日に「遺伝子組み換え作物は危険なのか?」と題して、GMOは危険なのか、それがなぜ誤解されているのか、を科学者やジャーナリストとともに考える。

(2016年2月15日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 エルニーニョ現象、ラニーニャ現象は、世界の気象を大きく変
  • 11月11日~22日にアゼルバイジャンのバクーでCOP29が開催される。 COP29の最大のイシューは、途上国への資金援助に関し、これまでの年間1000億ドルに代わる「新たな定量化された集団的な目標(NQCG)」に合意す
  • 停電は多くの場合、電気設備の故障に起因して発生する。とはいえ設備が故障すれば必ず停電するわけではない。多くの国では、送電線1回線、変圧器1台、発電機1台などの機器装置の単一故障時に、原則として供給支障が生じないように電力設備を計画することが基本とされている(ただし影響が限定的な供給支障は許容されるケースが多い)。
  • パリ協定が合意される2か月前の2015年10月、ロンドンの王立国際問題研究所(チャタムハウス)で気候変動に関するワークショップが開催され、パネリストの1人として参加した。欧州で行われる気候変動関連のワークショップは概して
  • IPCCの報告が昨年8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、ハリケーン等(ハリケーン、台風、サイクロンの合計)
  • アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 厚生労働省は原発事故後の食品中の放射性物質に係る基準値の設定案を定め、現在意見公募中である。原発事故後に定めたセシウム(134と137の合計値)の暫定基準値は500Bq/kgであった。これを生涯内部被曝線量を100mSv以下にすることを目的として、それぞれ食品により100Bq/kgあるいはそれ以下に下げるという基準を厳格にした案である。私は以下の理由で、これに反対する意見を提出した。
  • 原発のテロ対策などを定める特重(特定重大事故等対処施設)をめぐる混乱が続いている。九州電力の川内原発1号機は、今のままでは2020年3月17日に運転停止となる見通しだ。 原子力規制委員会の更田委員長は「特重の完成が期限内

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑