豪雨災害は「激甚化」「頻発化」などしていない
前回、防災白書が地球温暖化の悪影響を誇大に書いている、と指摘した。今回はその続き。
白書の令和2年度版には、「激甚化・頻発化する豪雨災害」という特集が組まれている。これはメディアにもウケたようで、「激甚化・頻発化」という記事が毎日のように出てくる。
確かに、令和元年にも水害がいくつもあったのは確かで、白書にはその状況が詳しく書かれている。
けれども、本当に「激甚化・頻発化」しているかどうかは、統計を見ないと分からない。
じつは白書の附属資料には統計がきちんと載っている。見ると、自然災害による死者・行方不明者は、かつてに比べて激減していることが解る(附属資料のp7):
図中左側には、枕崎台風、カスリーン台風、南紀豪雨、洞爺丸台風、伊勢湾台風などで、数千人の死者が出たことが示されている。
図中右側では阪神淡路大震災と東日本大震災が突出しているが、豪雨災害で何千人も亡くなることは無くなった。
次に、災害の被害額を見てみよう。附属資料のp34に図が出ている:
これを見ると、被害額も減る傾向にあり、それは対GDP比でも減っている。平成7年の阪神淡路大震災と平成23年の東日本大震災は突出しているが、これは豪雨とは勿論関係無い。
なお被害額は死亡数ほど減っていない。これは世界的な傾向であり、原因は災害に脆弱な土地に建築物等の資産が増えてきたことだ。
このように、被害の統計を見ると、豪雨災害が「激甚化」「頻発化」しているとは言えない。防災白書は、何を以て災害が「激甚化」「頻発化」していると言ったのだろうか。印象に残っている豪雨災害を列挙するというだけでは、科学的な報告とは言えない。
勿論、豪雨災害は無くなっておらず、防災投資は今後も必要である。だがその理由は、豪雨災害が「激甚化」「頻発化」しているからではない。「地球温暖化のせい」でも無い。
歴史的に豪雨災害が減少したのは、防災投資の賜物だ。川辺川ダムが建設されていれば、今年9月の球磨川豪雨の被害は大幅に軽減されたと試算されている。
平成年間に、日本の治水事業費は大きく減ったとされる(下図)。いま為すべきことは、必要に応じて、ダムや堤防などへの投資を進めることだ。
防災白書は、誤ったレトリックで人々の不安を煽るのではなく、正攻法で治水事業のあり方を論じるべきだ。

関連記事
-
地球温暖化の「科学は決着」していて「気候は危機にある」という言説が流布されている。それに少しでも疑義を差しはさむと「科学を理解していない」「科学を無視している」と批判されるので、いま多くの人が戦々恐々としている。 だが米
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 日本は約47トンのプルトニウム(Pu)を保有している。後述するIAEAの有意量一覧表に拠れば潜在的には約6000発の原爆製造が可能とされている。我が国は「使用目的のないプルトニウムは
-
福島第一原発を見学すると、印象的なのはサイトを埋め尽くす1000基近い貯水タンクだ。貯水量は約100万トンで、毎日7000人の作業員がサイト内の水を貯水タンクに集める作業をしている。その水の中のトリチウム(三重水素)が浄
-
海洋放出を前面に押す小委員会報告と政府の苦悩 原発事故から9年目を迎える。廃炉事業の安全・円滑な遂行の大きな妨害要因である処理水問題の早期解決の重要性は、国際原子力機関(IAEA)の現地調査団などにより早くから指摘されて
-
村上さんが委員を務める「大阪府市エネルギー戦略会議」の提案で、関西電力が今年の夏の節電期間にこの取引を行います。これまでの電力供給では、余分に電力を作って供給の変動に備えていました。ところが福島の原発事故の影響で原発が動かせなくなり、供給が潤沢に行えなくなりました。
-
メタンはCO2に次ぐ温室効果ガスとして知られている。IPCC報告を見ると、過去、CO2による温暖化が約0.8℃だったのに対してメタンは約0.5℃の温暖化を引き起こした、としている(下図の左から2番目のMethane)。
-
「トンデモ本」というのを、ご存じだろうか。著者の思い込み、無知などによる、とんでもない話を書いた本の呼び方だ。「日本トンデモ本大賞」というものもあり、20年前の第1回は、「ノストラダムス本」が受賞している。当時、かなりの人が1999年7月に人類は滅亡するという、このトンデモないこじつけの予言を信じていた。2011年は大川隆法氏の『宇宙人との対話』が選定されている。
-
政策アナリストの6月26日ハフィントンポストへの寄稿。以前規制委員会の委員だった島崎邦彦氏が、関電の大飯原発の差し止め訴訟に、原告の反原発運動家から陳述書を出し、基準地震動の算定見直しを主張。彼から規制委が意見を聞いたという内容を、批判的に解説した。原子力規制をめぐる意見表明の適正手続きが決められていないため、思いつきで意見が採用されている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間