食料安全保障の脅威は台湾有事より気候変動なのか

wildpixel/iStock
政府「不測時における食料安全保障に関する検討会」のとりまとめが発表された。
その内容は、不測の事態によって食料が不足するときに、政府が食料の配給をしたり、価格を統制したり、コメやサツマイモなどの高カロリーの作物への生産の転換を促す、といった内容だ。
確かにこれ自体は必要なことだが、「不測の事態」の認識がどうもおかしい。
「とりまとめ」を読むと、不測の事態のトップになっているのが「気候変動による食料生産への影響」である。
たしかに旱魃(かんばつ)で作物に被害が出ることはある。だが旱魃が「人為的な気候変動のせい」で起きたと証明されたことなど無い。
IPCCの報告を見ても、旱魃については、極めてCO2排出量が高く推移したとしても2100年に至るまで人為的な影響は自然変動と区別できない、となっている。つまり旱魃が起きるとしても誤差の内なのだ。洪水についても同様で、IPCCを信じても、2050年に至るまでは人為的な影響は自然変動と区別できず、誤差の内、となっている。
その一方で、「とりまとめ」では、「地政学的な情勢の不安定化」についてはごく短く触れているだけだ。引用すると「地政学的な情勢の不安定化は、輸入依存度の高い我が国の食料供給に深刻な影響を及ぼす可能性がある。」これだけだ。
だがこれで大丈夫か? 台湾有事が迫っている。日本周辺の海域も安全な航行が出来なくなるかもしれない。すると食料輸入もエネルギー輸入もストップしてしまう。
いくら食料を配給したり、作物の転換をすると言っても、そもそも配る食料がなくなる。エネルギーが輸入できなければ、作物の転換といっても生産すらできず、また食料の輸送もできない。冷蔵も冷凍も使えないので食料は腐ってしまう。
台湾有事まで考えれば、飢えないために必要なことは、まずは玄米などの食料を充分に備蓄することであり、またエネルギーの備蓄である。
だが今回の政府「とりまとめ」では、そもそも台湾有事は「想定外」、シーレーンの遮断も「想定外」、食料だけでなくエネルギーが同時に不足することも「想定外」のようだ。
これで「不測時における食料安全保障」になっているのだろうか。国民が飢え死にすることは避けられるのか。
■

関連記事
-
先週の木曜日、仕事で11時から15時頃まで外にいました。気温は35℃。熱中症にならないよう日陰を選び水分を補給しながら銀座のビル街で過ごしました。心の中では泣きそうでした。 さて、ここ数日の猛暑を受けて脱炭素やSDGs関
-
「法則」志向の重要性 今回は、「ドーナツ経済」に触れながら、社会科学の一翼を占める経済学の性格について、ラワースのいう「法則の発展を目的としない」には異論があるという立場でコメントしよう。すなわち「法則科学か設計科学か」
-
1. COP28開催 COP28がUAEのドバイで始まった。今年の会議で、化石燃料の未来に加えて大きな問題となっているのは「損害と損傷」であるが、10月21日の予備会合では成果もなく終わっている。 COPでは、毎回多くの
-
東洋経済オンラインに掲載された細野豪志氏の「電力危機に陥る日本「原発再稼働」の議論が必要だ」という記事は正論だが、肝心のところで間違っている。彼はこう書く。 原発の再稼働の是非を判断する権限は原子力規制委員会にある。原子
-
現在世界で注目を集めているシェールガス革命。この動きをいち早く分析したエネルギーアナリストとして知られる和光大学の岩間剛一教授に寄稿をいただきました。分かりやすく、その影響と問題点も示しています。
-
原発事故当時、東京電力の福島第1原発所長だった、吉田昌郎氏が7月9日に亡くなった。ご冥福をお祈りします。GEPRでは、吉田氏にインタビューしたジャーナリスト門田隆将氏の講演。
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、様々な面で世界を一変させる衝撃をもたらしているが、その中の一つに、気候変動対策の世界的な取り組みを規定するパリ協定への悪影響への懸念がある。 人類が抱える長期の課題である
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間