原子力発電に関する国民世論の本当の姿はどこにあるのか
4月の半ばにウエッジ社のウエブマガジン、Wedge Infinityに「新聞社の世論調査の不思議さ 原子力の再稼働肯定は既に多数派」とのタイトルで、私の研究室が静岡県の中部電力浜岡原子力発電所の近隣4市で行った原子力発電に関するアンケート調査と朝日新聞の世論調査の結果を取り上げた。(図1)

私たちのアンケート調査では、回答者に占める高齢者の比率が、日本の人口構成比率との比較では高くなったが、一方、原子力発電所の再稼働に反対する意見は年齢とともに上昇する傾向にあることが分かった。回答者の年代別の回答を日本の年齢構成に合わせ修正し、回答を再計算したところ、「再稼働賛成と再稼働止むなし」が50%を超えていることが分かった。
一方、朝日新聞の調査では再稼働反対が多数派だ。世論調査の結果は質問の仕方が左右することも知られているので、結果が異なるのは不思議ではないかもしれないが、数字がかなり違う。
最初疑ったのは、新聞社が利用する電話によるRDD(ランダム・ディジット・ダイヤリング)法による調査では、回答者に占める若年層の比率が相対的に少なく、高齢者の比率が高く出るのではないかということだった。その趣旨で論考を構成したところ、朝日新聞のRDD法による調査は、回答者の年齢構成が日本の人口の構成になるまで電話するとの指摘があり、その部分を修正し、現在の論考の形にした。
しかし、家庭の固定電話にかけて、得られた1500人の回答で、そんな調整までできるのだろうか。5月3日の憲法記念日に朝日新聞は郵送による世論調査の結果を紙面で発表しているが、珍しく回答者の年齢構成も公表している。日本の人口構成とあまり大きな差がなかったから、公表したのかと勘ぐりたくなるが、やはり人口構成と比較すると、表の通り20代の回答率が低く、60代が高くなっている。(表1)

NHKで世論調査を担当している岩本裕氏の著書「世論調査とは何だろうか」(岩波新書)によると、「RDD法の最大の弱点は若者を捉えきれないこと」とされ、「NHKの調査では20代の比率は3%前後、60代以上が半数を占め高齢者の意見が強くでると指摘されています」と記載されている。
朝日新聞はNHKとは違い、人口構成比と回答者の年代別比率が同じになるまで電話をかけ続けているらしいが、同紙の18歳、19歳への世論調査結果と比べても、不思議なことに原発に関しては高齢者の意見が強く出ている結果になっているように思える。
原発の再稼働は、国のエネルギー政策、気候変動問題には無論のこと、電気料金、つまり産業の競争力と私たちの生活にも直接係わる問題だ。年齢により意見が大きく異なる問題に関する国民の意見を正確に報道するよりよい方法はないものだろうか。
(2016年5月23日掲載)

関連記事
-
政策家の石川和男氏へのインタビュー記事です。政府は、発送電分離を柱にする2020年までの電力自由化を打ち出しました。しかし、これは「電力価格を引き下げる」という消費者や企業に必要な効果があるのでしょうか。また原発のことは何も決めていません。整合性の取れる政策は実行されるのでしょうか。
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 ■ 今回は2章「陸域・水域の生態系」。 要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。 川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(
-
高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市) 政府は、高速増殖炉(FBR)「もんじゅ」を廃炉にする方針を明らかにした。これはGEPR(記事「「もんじゅ」は研究開発施設として出直せ」)でもかねてから提言した通りで、これ以外の道はなか
-
ブルームバーグ 2月3日記事。福島の原発事故後に安全基準が世界的に強化されたことで原発の建設期間が長期化し、建設の費用が増加している。
-
バイデン政権は温暖化防止を政権の重要政策と位置づけ、発足直後には主要国40ヵ国の首脳による気候サミットを開催し、参加国に2050年カーボンニュートラルへのコミットや、それと整合的な形での2030年目標の引き上げを迫ってき
-
G20では野心的合意に失敗 COP26直前の10月31日に「COP26議長国英国の狙いと見通し」という記事を書いた。 その後、COP26の2週目に参加し、今、日本に戻ってCOP26直前の自分の見通しと現実を比較してみると
-
ここ数年、日本企業は「ESGこそが世界の潮流!」「日本企業は遅れている!」「バスに乗り遅れるな!」と煽られてきましたが、2023年はESGの終わりの始まりのようです。しかし「バスから降り遅れるな!」といった声は聞こえてき
-
太陽光や風力など、再生可能エネルギー(以下再エネ)を国の定めた価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT)が7月に始まり、政府の振興策が本格化している。福島原発事故の後で「脱原発」の手段として再エネには全国民の期待が集まる。一方で早急な振興策やFITによって国民負担が増える懸念も根強い。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間