日本産の遺伝子組み換えトウモロコシを食べてみた-見学会報告

2016年08月16日 16:59

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(写真1)勢いよく成長する遺伝子組み換え大豆(茨城県河内町のモンサント実験農場で)

アゴラ研究所は、日本モンサント(ホームページ)(フェイスブック)の協力を得て、8月12日に遺伝子組み換え(GM : Genetically Modified)作物の農場見学会を行った。

今回は同社が茨城県河内町に持つ実験農場を視察した。ここは日本で数少ないGM作物を栽培する場所だ。参加者は読者を中心に約20人だった。実際に栽培中の遺伝子組み換え作物を見ると、雑草防除効果、害虫を寄せ付けないことによる農薬使用の削減など、生育へのプラス効果は明らかだった。収穫されたトウモロコシも見栄えがよく、味もよかった。

日本では遺伝子組み換え作物が大量に輸入され使われているのに危険という印象が広がっている。実際に見て食べることで、参加者らは「なぜイメージが悪いのか」と、そろって不思議がった。

アゴラは、エネルギー・環境問題についての専門家の知見を提供するバーチャルシンクタンクGEPRを運営しており、農業問題の知見を読者と共に深めるための活動だ。

遺伝子組み換え作物は、農業生産性の向上の道具

「実際のものを見ると、印象が変わることがあります。ぜひ実際の遺伝子組み換え作物を見て、感じ、考えていただきたいのです」と、日本モンサント社長の山根精一郎氏が見学会の前にあいさつした。(写真2)

 

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(写真2)日本モンサントの山根精一郎社長

「どのような産業でも生産性の向上を考えなければなりません。それなのに日本の農業の生産性は、近年それほど向上していません。モンサント・カンパニーは農業のためになるいろいろな技術を持ち、その一つが遺伝子組み換え作物です。1996年に米国で商品化され、今年で20年が経過しましたが、米国の大豆、コーン(トウモロコシ)で8割以上で使われています」と語った。世界の生産量のうち、大豆80%、トウモロコシの30%、ワタの70%、ナタネの25%で使われるなど、世界の多くの農家、消費者にも受け入れられているという。

日本モンサントは世界的な企業モンサント・カンパニーの日本法人だ。この企業グループは世界60カ国で、バイオテクノロジーや交配育種によって品種改良をした農作物の種や農薬など、農業に関する製品、サービスを提供している。

日本は海外から大量のトウモロコシ、ダイズ、ナタネを輸入し、その量は合計で年間約2000万トンになる。船積み地では指定のない限り原則として遺伝子組み換えとそうでない穀物は分けられない。

これら3品目の主要な輸入国である米国、ブラジルのGM生産量を考えると、その約8割の1600万トンが遺伝子組み換え作物と推定される。日本のコメ生産量の年約800万トンと比較すると膨大な量だ。輸入された3種の穀物は主に家畜飼料、油、飲料の甘味料などの原材料になり、畜産加工品や油を使った加工食品、飲料などのかたちで多くの遺伝子組み換え作物由来の食品を食している。遺伝子組み換え作物は日本の食生活を支えているのだ。

日本では遺伝子組み換え作物は商業栽培されていない。法的には環境安全性評価を経て栽培まで認められているものがほとんだが、生産者と流通業者、販売者が風評を恐れて積極的に自ら栽培に動こうとしないのが原因だ。

見学会では日本モンサントの広報部部長の佐々木幸枝さんが、モンサント・カンパニーのミッションや農業技術との関係について紹介した。「世界の農業は気候変動、途上国の食生活の変化や人口急増による需要増、水やエネルギーの不足など、さまざまな課題に直面しています。モンサントは、1・従来の品種改良 2・バイオテクノロジー(遺伝子組み換え技術) 3・化学農薬 4・自然界の物質を利用した生物農薬5・データサイエンスを用いた精密農法 という5つの分野で技術をモンサントのテクノロジープラットフォームとして提供しています」。

モンサントはこれら5分野の技術を融合させ、世界の農業で「2030年までにコーン、ダイズ、ワタなどの主要作物の単位面積当たり収量を、2000年までの倍に伸ばしつつ、作物栽培に必要な資源(水、土地、肥料など)を3分の1削減する」という公約、また「2012年までに、カーボン・ニュートラル(温室効果ガスを増加させない)な作物の生産システムを実現する」を掲げているという。実現すれば、世界の食糧事情、エネルギーの消費は大きく改善するだろう。

遺伝子組み換え作物には安全性などを懸念する声もある。しかしこのような作物は国際基準に基づき、各国が科学的に安全性の審査を行い、安全性が確認されたものしか商品化されないという仕組みが確立されている。1996年の商品化から20年経過するが、健康被害などは一度も確認されたことはない。今年5月に米科学アカデミー(NAS)は、20年の総括として、専門家を集めたリポートを公表し「遺伝子組み換え作物は人間や動物が食べても安全であり、環境を害することはない」と結論付ける報告書を公表している。(GEPR記事

そしてアゴラ研究所所長で経済学者の池田信夫氏は、経済の側面から農業の革新の必要性を訴えた。「日本の製造業は合理化の中で、生産性向上をし尽くしました。農業は遅れている面があるが、これは逆に適切に行えば生産性が向上して、農家の収入が増える「のりしろ」があるということです。遺伝子組み換え作物を含めて、新しい技術を使って農業を革新していくべきでしょう」と、期待を述べた。

また記事筆者の石井は8月初旬に米国穀物協会の取材支援でイリノイ州の農家を回った経験を話した。「米国の農家は効率性、消費者の満足度を重視する企業家でした。遺伝子組み換え作物は農薬を減らし、草取りや害虫駆除の手間を減らし、収益を増やす革新技術として、また農薬を減らして出荷する穀物の安全性を高める道具として、企業家の視点から積極的に取り入れていました」と報告した。(写真3)

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(写真3)遺伝子組み換え作物を育てる米イリノイ州の農家ハウウェルさん。20年前に遺伝子組み換え作物を使うことで農作業が楽になり、農薬を使わないので、穀物安全性も高まったという。(8月、同州で)

遺伝子組み換え作物は除草、農作業の手間を減らせる

日本モンサントの研究農場では除草剤耐性大豆、害虫抵抗性トウモロコシの生育状況を見ることができた。

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(写真4)3つの状況をつくりGMの効果を確かめた農地

写真5

(写真5)遺伝子組換えではない普通の大豆にグリホサート除草剤がかかって枯れている写真6

(写真6)グリホサート除草剤に耐性のあるGM大豆

写真7(写真7)除草剤グリホサートを撒かなかった雑草だらけの大豆畑

「写真4」は3つの状況を農場でつくりGMの効果を見えるようにしている。左側の部分、拡大すると「写真5」は遺伝子組換えではない通常の日本のダイズ品種(しゅ)「エンレイ」を植えた農地に、除草剤グリホサート(モンサントのブランド名はラウンドアップ)を1カ月前に撒いた状態だ。普通の大豆は除草剤をまくとこのように枯れる。真ん中の部分、拡大すると「写真6」は遺伝子組換え技術によって除草剤耐性の性質を付与した大豆で、除草剤グリホサートを1回散布するだけで、雑草だけがきれいに枯れて、大豆は枯れずに生き生きと生育している。一番奥の部分、拡大すると「写真7」は、遺伝子組換えの除草剤耐性大豆だが、除草剤グリホサートを散布しないと、このように雑草が生えてしまい大豆が隠れてしまっている。

これらを見比べれば、遺伝子組み換え作物は農作業の手間を大幅に減らすことが分かる。また、この技術によって雑草防除のために土を耕さなくて済むようになり、土壌中からのCO2の発生を抑える「不耕起栽培」の普及にも貢献しているという。

「写真8」「写真9」は遺伝子組み換えトウモロコシの状況だ。

写真8(写真8)害虫抵抗性を持つ遺伝子組み換えのトウモロコシ

写真9

(写真9)普通品種のトウモロコシ。害虫にやられてしまった

「写真8」が遺伝子組換えをして害虫抵抗性を持つトウモロコシ、「写真9」が遺伝子組み換えではないトウモロコシだ。前者の方が大きく成長しており、葉も実もきれいなままだ。右は葉から実まで虫食いの穴が開いて枯れてしまっている。これはトウモロコシ自体が遺伝子組み換えで殺虫タンパク質をつくることができるためだ。トウモロコシを作る場合には、通常は多くの殺虫剤を散布しなければならないが、そうしなくても害虫防除が可能になる。ただしこの殺虫成分は土壌微生物が作るもので特定の標的害虫にしか効果は発揮しない。人やほ乳類は、消化の仕組みが違うので特に影響はない。

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(写真10)収穫された遺伝子組み換えのスウィートコーン。虫食いがなく、見栄えが良い

訪問の8月12日は茨城県の気温は摂氏36度で日差しが強く、屋外では見学だけでも大変だった。夏の炎天下の農作業の過酷さが推察できた。GMを使えば、除草や農薬散布の手間が大きく減る。世界各国の農家がGM作物を積極的に利用する理由は当然と思われた。

食べることで、新しい発見

写真11その後場所を変えて、GMスイートコーン、また従来の交配育種で誕生し同社が茨城県を中心に販売しているコメ、「とねのめぐみ」を使った食事をした。(写真7)とねのめぐみ

遺伝子組み換えトウモロコシは害虫抵抗性の形質を加えているが、外見や味に変化は無い。ただし虫食いがないので見栄えはよく、生育が良いため、味もおいしかった。そして取れたてのコーンゆえに、甘く、芳醇な香りがした。

とねのめぐみは人気米「コシヒカリ」と、病気に強く粒の大きい「どんとこい」を交配してつくられたコメだ。ただし遺伝子組み換えではない。コメには適正な産地があるという。とねのめぐみは茨城県向けだ。実験農場のある河内町は利根川流域にあり、それの運んだ肥沃な土壌にある農業地帯だ。日本モンサントは、実験農場のある同町の農業への地域貢献や、そして日本における米作の重要さを考え、新しい品種として開発したという。

とねのめぐみは食べるとコシヒカリのようで、大粒で甘みがあり、粘り気が強く大変おいしかった。茨城県内では少しずつ生産と販売が広がっているという。

実際に食べても、当然ながら遺伝子組み換えのトウモロコシは特に安全面で問題はなく、参加者はそろってこの作物を「日本でも広げるべきだ」と肯定的に受け止めていた。食べて「おいしい」と感じる行為は、頭で理屈をこねくり回すだけの営みよりも、新しい発見と気づき、そして深い印象を、参加者にもたらしたようだ。

今こそ新技術「遺伝子組み換え」の議論を

日本の農業は、TPPへの警戒感など後ろ向きの話ばかりだ。しかし、とねのめぐみと、遺伝子組み換えトウモロコシを実際に食べ、そのおいしさをかみしめながら、新しい技術を使いこなせば、日本の農業は成長できるのではないかという期待を抱けた。

どんな行動にもリスクと利益は存在する。新しい技術であるGM作物の問題はかなり小さいように思われる。しかし、おいしい農作物の確保、収穫量の拡大、農作業の手間の減少による労力、コストの削減というメリットは、体験し、味わったことで明らかだ。

しかし、遺伝子組み換え作物への反感によって、その活用が進まない。これは生産者、消費者の自由な選択を妨げている。これは不幸なことだ。

「私たちの遺伝子組み換え作物の技術は日本の農業にも貢献できるという思いはありますし、見学してくださった農業生産者の方々からは使ってみたいという声が実際にあります。しかし社会全体の受け入れが必要です。まずこの作物の本当の姿を知っていただきたい」と、日本モンサントの山根社長は話している。

日本の農業は困難な状況にある。このまま何もしなければ高齢化と後継者不足、そして国際競争の中で立ちゆかなくなる。消費者は農業保護の名目で、国際基準に比べて高い農作物を購入し続けることになるだろう。遺伝子組み換え作物を含めて、生産者、消費者が新しい技術を積極的に受け入れることが、日本の農業を飛躍させる契機になるはずだ。

遺伝子組み換え作物について冷静な議論を始めるべき時だろう。

(取材・編集 石井孝明 アゴラ研究所フェロー・ジャーナリスト)

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