エネルギー選択と直面するリスクを考える【アゴラ・シンポ 第2セッション要旨・1】

2014年10月27日 15:00

アゴラ研究所、また運営するエネルギー問題のバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)は、9月27日に静岡市で常葉大学と共催で、第3回アゴラ・シンポジウム『災害のリスク 東日本大震災に何を学ぶか』を行った。

第1セッション「東海地震のリスクをどう考えるか東日本大震災に何を学ぶか」(映像) (記事)に続き、第2セッション「エネルギーの選択と環境問題におけるリスクを考える」(映像)の概要を報告する。

(写真1・第2セッションの様子)

第1セッションでは、静岡で地震の危機と対策の問題点、市民が気をつけるべき問題点を専門家が語り合った。第2セッションでは、そのリスクの中で、エネルギー問題に的を絞った。

静岡県には中部電力の浜岡原子力発電所がある。2011年5月に当時の菅直人首相が、科学的検証と法的な根拠がないまま、その停止を中部電に要請して、同原発は停止したままだ。そして福島第1原発事故以来、災害と原子力の関係が注目されている。またエネルギー問題は、日本経済の大きなリスク要因となっている。そうした問題に対して、専門家が集い、多角的に問題を考えた。

出席者は、小川和久(静岡県立大学特任教授/特定非営利活動法人・国際変動研究所理事長/軍事アナリスト)、山本隆三(常葉大学経営学部教授) 、澤昭裕(21世紀政策研究所・研究主幹、国際環境経済研究所・所長) 、佐々木敏春(中部電力静岡支店副支店長)の各氏。司会は池田信夫アゴラ研究所・所長が務めた。

原子力のソフト面の整備、安全の取り組みの転換を・小川氏

池田・第2セッションでは、日本経済のリスクとなっているエネルギー問題を考えます。静岡県の防災について提言を重ねている小川和久さんの話をうかがい、それへのコメントの形で議論を深めたいと思います。


(写真2・小川氏)

小川・私は軍事、防災や危機管理のコンサルタントとして活動してきました。専門家の意見や行政の取り組みには時々、嘘や間違いが混じります。それを指摘し、現場の人が働き、国民一人一人が安全に暮らせる状況をつくろうと活動してきました。

静岡県でも、川勝平太知事の依頼で、静岡県立大学に特任教授の席をいただき、そこから提言を重ねています。2012年の春から調査を行い、知事に予備調査報告書を出した。中期、長期の21本の計画を立てました。同時進行で改革が進み、その中で形が見えてきたのが6本あります。

今回は、その中で原子力発電と災害について、私の考えていることを話しましょう。

中越地震の際に柏崎刈羽原発で事故が起こりました。その時に調べたのですが、東京電力の組織は、有事向きではありませんでした。同社には情報セキュリティの面でコンサルをしていましたので、原子力についても意見を申し上げました。それを聞いてくれるのですが、組織はなかなか動きませんでした。そして残念なことに福島第一原発の事故が起こってしまいました。

エネルギー源としての原子力の扱いは十分気を付けなければ危険であることことは、今では国民の誰もが知っています。しかし安全な代替エネルギー源が見つかるまでは、知恵を絞って原子力を安全な状態で使い続けなければなりません。

中部電力の浜岡原発では1号機、2号機で商業用の原子炉として、国内で初めての廃止措置を行っています。そこを原子力の安全について研究開発し、人材を教育訓練するための世界的なセンターに変え、中部電力としてもビジネス化できたらいいのではないかという話を提案しています。中部電力にも、その提案を聞いていただき、同社は安全研究の場を開設しています。

仮に日本が原子力発電所を全て停止させたとしても、近隣の中国や韓国がそれを増やし続ける限りは、安全とはいえない状況が続きます。アジアの原子力関係者に、浜岡原発で教育訓練を受けてもらう仕組みはあってもいいでしょう。日本自らが世界の原子力の安全性を高めるリーダーとなっていければ、日本の安全保障が高まるのは間違いありません。

原子力の安全について整理すべき点は、まだ数多くあります。日本人は原子炉の製造などの、技術面が得意で、その面での原子力発電所の安全性は高まっています。ハードは整備されています。反面、運用に関わる人材、また行動や計画などのソフト面の育成が追いついていない面があるように思えます。

日本人は、明確な思想を持って物事の優先順位を決め、取り組んでいくということが苦手である傾向があります。災害対策にしても、丹念に防災計画を練り上げようとする一方で、国民を危険にさらしている現状が放置されていたりするのです。

古代中国の戦略書の『孫子』は「巧遅は拙速に如かず」と言っています。危機管理においてはスピードが最優先されます。まずは今ある材料で安全を確保し、不十分な点について、丹念に完成度を高めていくべきでしょう。その順序を間違えてはなりません。原子力についても社会の空気に流されるのではなく、何をどんな順序で進めるのか、優先順位を決めることが求められているのではないでしょうか。

エネルギー供給と安全保障リスクは結びつく・山本氏

池田・それでは、皆さんにコメントをいただきたいです。


(写真3・山本氏)

山本・私は常葉大学で経済問題を教えています。以前は商社で石炭の輸入、排出権など、エネルギービジネスにかかわってきました。小川先生の指摘の通り、エネルギーと安全保障は密接に関係しています。

今ウクライナ情勢が混乱しています。その中でロシアのウクライナへの介入を、欧州諸国は止められません。ウクライナはロシアのガスに依存し、欧州で使われる天然ガスの33%がロシア産です。そしてロシアはガス供給を止めることを外交の道具にしています。

アメリカでは「シェール革命」と言われる状況になっており、シェール層から取れるガスとオイルの増産が起こっています。もともとアメリカでは天然ガスのパイプラインが整備されていたので、産出したガスの供給が可能でした。そのために、同国ではエネルギー価格が下がっています。

しかし米国は、それでも政府の支援で電力会社が原子炉を新設しようとしています。これも万が一に備えオプションを持つ大切さを考えているのです。同国では今年の冬の寒波で需要が急増し、一部でパイプラインの許容量を超えました。北東部のニューイングランド地域ではなどの北東部では火力発電所が動かせずに停電寸前までになりました。

日本は今原発の停止で、火力発電が9割に達し、その大半は天然ガスです。それが止まると、大変なことになり非常に懸念される状態です。

エネルギーのリスクが正確に知られていない・佐々木氏

池田・本日は供給責任を負う、中部電力静岡支店の佐々木敏春副支店長も出席しています。コメントをお願いします。


(写真4・佐々木氏)

佐々木・正直に申し上げると今、私たちの事業について、なかなかご理解をいただけない苦しい状況にあることは確かです。しかし、事業者として向き合っていること、そして考えていることを一つずつ、説明していこうとしています。

小川先生、山本先生の話をうかがって思い出したのは実験に使われる「シャーレ」の例え話です。1分ごとに、倍になる細菌があり、1時間でそこにいっぱいになるとして、1分前にはまだ半分が空白の状態です。2分前には4分の3が空白の状態にあります。分かっていることは必ず起きるのですが、まだ直前には余裕があるように見えてしまいます。エネルギーでも危機は次第に近づいているのに、「まだ大丈夫」という意識が働いてしまいます。

世界のエネルギー事情を見ると、40年ぐらい前に、「石油の備蓄はあと40年しかない」と言われていました。しかし、まだ石油は供給されています。「エネルギーはある」と思われるかもしれません。しかし石油は有限です。そして現在は世界で人口の爆発的増加が起こり、インドや中国などの新興国が世界水準並のエネルギーを消費するようになりつつあります。今の使用量で計算すると化石燃料は全体でたった100年オーダーの量しかないでしょうし、この需要増が続けば可採年数は縮んでいきます。その中で、使えるあらゆるエネルギーを活用すべきと、私たちは考えています。

また小川先生のご指摘は以前から参考にさせていただいています。中部電力は、国内外で廃炉研究について、2012年の7月に原子力安全技術研究所を立ち上げています。廃炉措置を含めて、安く、安全に、そして手間の少ない形でできるかの研究を行っています。内部だけでなく、国内の知恵を集め、エネルギーの安全保障に役立てたいと考えています。

エネルギー、足りなくなることでの混乱を体験・澤氏

池田・澤さんは経産官僚として、今は研究者とエネルギー問題に向き合ってきました。現在の状況をどう考えていますか。


(写真5・澤氏)

澤・私は通産省に入省した1981年に資源エネルギー庁の官房総務課に配属されました。1979年にはアメリカのスリーマイル島原子力事故と、第2次オイルショックが起こり、その前後の国内炭鉱の閉山と、81年の北炭夕張炭鉱のガス爆発事故というエネルギーをめぐる事件が次々と起こりました。エネルギー供給が次々となくなる事態になったのです。

エネルギーは足りている時は誰も何も言わないのですが、足りなくなるとそれぞれが「自分にほしい」と言い出しました。一つに分けると、ほかの人もほしいと言います。そして社会全体に混乱が広がりました。それが強烈な印象になっています。水と同じようなものです。

ですから常に余分にエネルギーを作れる体制を、国はつくろうとしてきました。しかしそれもなかなか難しいのです。備蓄はいざと言う時しか使えなくて、普段は不良在庫になります。民間企業は当然嫌がります。これは難しいことですから石油に税金を掛けて国が集めて、国が代理で備蓄をする制度がつくられました。

安全保障は軍事的な安全保障もあるのですが、日本人が生きていくための生命の安全保障を考えると、経済力が必要です。それがないとエネルギーを買えないし、体力がないと備蓄のような無駄なものを持ち続けられないのです。他の国は自国にエネルギー源を持っていますが、日本はほぼ無資源国なのです。

これを避けるためには「調達力」、「備蓄をする力」、「技術開発力」の3つの力が必要です。

現在は電力自由化が進んでいます。国内での電力会社をはじめとしたエネルギー企業同士の競争で、コストを下げ、サービスを高めるという考えは妥当です。しかし、対外的に見ると、交渉のためには、購買は大きくなった方がいいのです。電力などの原料となる天然ガス、石炭、石油といった資源は海外から調達されていますが、まとめて買った方が、交渉力は当然高くなります。日本も戦略的に、そうしたものを考えなければなりません。

備蓄をする力も必要です。ただし電力の場合は、いざという場合に、使える設備が必要になります。普段は使われない、余剰設備を自由競争の下では、どの企業が持つのかという問題があります。

さらに、「技術開発力」が重要です。原発事故で、それを改めて認識浮き彫りになりました。原発では、4つの原子炉が事故を起こしましたが、その1、2号機は外から買った初期型の原子炉でした。自分の技術にしないと、安全性などで「使いこなせない」とう問題があります。電力会社は発電と配電に忙しく、なかなか技術開発に力を割けません。この力を向上させることも、エネルギーで社会全体が考えるべきことと思うのです。

これら3つはぜんぶ経済力がなければなりません。それがなければ整備ができず、安全保障が相互に関連したスパイラルで悪くなりかねないのです。いざエネルギー危機となったとき、また経済が衰退するとき、どのようにこの3つの力を確保するのか。それがエネルギーの安全保障で重要な論点になるでしょう。

(要旨2)に続く。

(編集・石井孝明(ジャーナリスト アゴラ研究所フェロー))

(2014年10月27日掲載)

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  • ロイター
    4月13日 ロイター。講演の中で橘川教授は「日本のエネルギー政策を決めているのは首相官邸で、次の選挙のことだけを考えている」と表明。その結果、長期的視点にたったエネルギー政策の行方について、深い議論が行われていないとの見解を示した。

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