露ロスアトム社、医療用放射性物質の販売拡充−日本への期待
ロシアの原子力企業のロスアトム社は2016年に放射性ヨウ素125の小線源の商用販売を開始する。男性において最も多いがんの一つである前立腺がんを治療するためのものだ。日本をはじめとした国外輸出での販売拡大も目指すという。
同社の資料提供を受け、それをまとめる。同社関連の情報は、かなり少ないため、新しい動きを紹介する意味はあるだろう。
前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくっている臓器だ。そのがんの治療では、放射線治療が主に使われる。小線源療法は、この放射線療法の一種で放射線物質を埋め込み、周囲の組織や臓器に損傷を与えず、腫瘍に直接放射線を照射してがん細胞を殺す。
ロスアトムの製品は、他国の同種の治療より、効果は変わらないものの、技術革新により、価格が5分の1になり、大幅に手術コストを削減することが特徴という。
ロスアトム社は1992年にロシア連邦原子力庁が改変され、国が株式の大半を持つ形で、民営企業として発足した。原子炉の製造、発電、原子力の民生研究を行う巨大国策企業となっている。そして10年前から医療用放射性同位元素の商業販売を行っている。国内にあるその生産設備は世界最大級で、組織内に医療と放射線の関係の研究を行う「核医学センター」がある。ロスアトムの放射線医療製品は50カ国、600以上の顧客があり、ロシア国内からの安全な移送を含めたサービスを提供している。
日本企業にも販売している。日本との関係も深まっている。昨年にロスアトムは日本に代表団を派遣し、日本の企業と販売拡大、技術協力などの合意を結んだ。そして、今後のビジネスの拡大を狙う。
日本市場は医療用の放射線同位体の使用で米国に次いで2位となる大きな市場という。
日本は医療機器では、世界のトップ企業が集まり、また高齢化の中で、医療関連の需要も堅調だ。ロシアとの関係は、北方領土問題の解決への前進、平和条約の締結の期待が高まり、エネルギーや貿易で深まっている。医療用でも、新しい日露関係が深まることが期待される。
(2016年10月5日)

関連記事
-
原子力問題のアキレス腱は、バックエンド(使用済核燃料への対応)にあると言われて久しい。実際、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は決まっておらず、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」はトラブル続きであり、六ヶ所再処理工場もガラス固化体製造工程の不具合等によって竣工が延期に延期を重ねてきている。
-
MMTの上陸で、国債の負担という古い問題がまた蒸し返されているが、国債が将来世代へのツケ回しだという話は、ゼロ金利で永久に借り換えられれば問題ない。政府債務の負担は、国民がそれをどの程度、自分の問題と考えるかに依存する主
-
アゴラ運営のインターネット放送「言論アリーナ」。4月29日に原発をめぐる判断の混乱−政治も司法も合理的なリスク評価を」を放送した。出演は原子力工学者の奈良林直さん(北海道大学大学院教授・日本保全学会会長)、経済学者の池田信夫さん(アゴラ研究所所長)。
-
毎日新聞7月17日記事。トルコで16日にクーデタが発生、鎮圧された。トルコはロシア、中東から欧州へのガス、石油のパイプラインが通過しており、その影響は現時点で出ていないものの注視する必要がある。
-
小泉・細川“原発愉快犯”のせいで東京都知事選は、世間の関心を高めた。マスコミにとって重要だったのはいかに公平に広く情報を提供するかだが、はっきりしたのは脱原発新聞の視野の狭さと思考の浅薄さ。都知事選だというのに脱原発に集中した。こんなマスコミで日本の将来は大丈夫かという不安が見えた。佐伯啓思・京大教授は1月27日付産経新聞朝刊のコラムで「原発問題争点にならず」と題して次のように書いた。
-
東京電力福島第一原子力発電所の事故は、想定を超えた地震・津波により引き起こされた長時間の全交流電源の喪失という厳しい状況下で炉心溶融に至ったものです。 それでも本来事故以前から過酷事故対策として整備してきていた耐圧強化ベ
-
昨年11月、チェルノブイリ原発とウクライナ政変を視察するツアーに参加した。印象に残ったことがある。1986年の原発事故を経験したのにもかかわらず、ウクライナの人々が原発を容認していたことだ。
-
海は人間にとって身近でありながら、他方最も未知な存在とも言える。その海は未知が故に多くの可能性を秘めており、食料庫として利用しているのみならず、たくさんのエネルギー資源が存在している。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間