六ヶ所村のプルトニウム問題
GEPRフェロー 諸葛宗男
今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのように使われることになっているのだろうか?その実体を解説する。
各国は分離プルトニウムをどれだけ持っているのか → 最多の英国が約150トン

表1
各国の民間の分離プルトニウム(Pu)量を比べると表1の通りとなる[注2]。最も多いイギリスは約150トンで日本は47トンである。日本は原爆の原料になる可能性もあるという 物騒なものをなぜ47トン(ただし、国内は約10トン)も持っているのか。それはひとえに高速増殖炉(FBR)の燃料に使うためである。現在利用している軽水炉ではウランに0.7%しか含まれていないウラン235を利用しているが、FBRは99.3%含まれているウラン238を利用できるようになる。資源の乏しい日本にとっては夢のような話である。しかし、実証炉もんじゅが廃炉になったことでFBRの実用化時期は遠のいてしまった。
FBRの実用化はいつ頃になるのか → 早くても30年代半ばごろ
もんじゅ廃炉前の計画では実証炉建設は2025年頃で、実用炉建設は2050年前から始まるとされていた。新しい計画はまだ公表されていないが、2014年に仏政府ともんじゅの約2倍の発電能力を持つ仏の実証炉ASTRID(アストリッド)で共同開発する協定を締結していることから、当面はこのアストリッド向けにPuが必要になるものと思われる。アストリッドは2015年までに概念設計が終了しており今後基本設計を行って30年代半ばごろに運転開始される。したがってアストリッド向けのMOX燃料が必要になるのは早くても30年代半ばごろである。既述の計画と比べると約10年遅れとなる。
再処理工場で生産するPuはどこで使うのか → 当面は軽水炉で使う
もんじゅで使う予定だった約0.3トン(Pu-fissile;Pu総量換算で約0.44トン)のPuは15~17基の軽水炉で使うことになろう[注3]。したがって六ヶ所再処理工場で生産される年間約8トンのプルトニウムは当面は全て、軽水炉の燃料で消費されることになる。
核燃料サイクル施設の適合性審査状況は? → 濃縮工場は許可済
青森県の核燃料施設操業の最大のハードルは新規制基準への適合性審査を得ることである。日本原燃はそのための施設改造費用として7500億円も用意したことを公表している[注4]。原子力発電所の新規制基準対応費用は1基平均約1,000億円とのこと[注5]だから、日本原燃は原発7.5基分の費用をかけることになる。今年(2017年)5月には核燃料サイクル施設のトップを切ってウラン濃縮工場が適合性審査に合格している。再処理工場の審査はこれから本格化するとのこと。
日米原子力協定改定問題
日米原子力協定が締結されたのは1988年7月である[注6]。30年ごとに改訂されることになっているので来年の7月に30年目の改訂となる。有効期限の6か月前から文書で通告することによって協定を終了させることができるが、この事前通告がなされない限り協定の効力は継続することになっている。米国からは日米原子力協定に関する動きはまだ無い。
日米の立場の相違は明確だ。日本は再処理をエネルギーの観点で捉えているが、米国は安全保障問題として捉えている。だから米側は再処理とウラン濃縮をセットで論じてきた。日本は六ヶ所ウラン濃縮工場の適合性審査を今年の5月18日に許可し、ウラン濃縮事業が軌道に乗っている。このことは米側にとって大きなプレッシャーになるものと思われる。
[注1] 分離プルトニウムとは使用済燃料から分離されたものを指す。使用済燃料等に含まれているものは単にプルトニウムと呼ばれ、分離プルトニウムとは呼ばれない。使用済燃料の中のプルトニウム日本には全国の原子力発電所の中に約163トン存在する。
[注2] International Panel on Fissile Materials「Global Fissile Material Report 2015」,2015.12
[注3] 電気事業連合会「六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの利用計画の見直しについて」,2009.6.12
[注4] 朝日新聞「六ケ所再処理工場、建設費2.9兆円に 当初想定の4倍」,2017.7.4
[注5] 総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ(第5回会合) 資料5「原子力発電」,2015.4.16
[注6] 外務省「原子力の平和的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」,1988.7.2号外条約第5号,https://www.nsr.go.jp/data/000026345.pdf

関連記事
-
「2030年までにCO2を概ね半減し、2050年にはCO2をゼロつまり脱炭素にする」という目標の下、日米欧の政府は規制や税を導入し、欧米の大手企業は新たな金融商品を売っている。その様子を観察すると、この「脱炭素ブーム」は
-
政府の審議会で発電コスト試算が示された。しかしとても分かりずらく、報道もトンチンカンだ。 以下、政府資料を読みといて再構成した結論を簡潔にお示ししよう。 2040年に電力を提供するための発電コストをまとめたのが図1だ。
-
神奈川県地球温暖化対策推進条例の中に「事業活動温暖化対策計画制度」というものがあります。 これは国の省エネ法と全く同じ中身で、国に提出する省エネ法の定期報告書から神奈川県内にある事業所を抜き出して報告書を作成し神奈川県に
-
このところ小泉環境相が、あちこちのメディアに出て存在をアピールしている。プラスチック製のスプーンやストローを有料化する方針を表明したかと思えば、日経ビジネスでは「菅首相のカーボンニュートラル宣言は私の手柄だ」と語っている
-
地球が温暖化しているといっても、ごく僅かにすぎない。気温の自然変動は大きい。 以下、MITの気候学の第一人者リチャード・リンゼンと元NASAで気温計測の嚆矢であるアラバマ大学ジョン・クリスティによる解説を紹介する。 我々
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 日本では「ノーベル賞」は、格別に尊い存在と見なされている。毎年、ノーベル賞発表時期になるとマスコミは予想段階から大騒ぎで、日本人が受賞ともなると、さらに大変なお祭り騒ぎになる。
-
合理性が判断基準 「あらゆる生態学的で環境的なプロジェクトは社会経済的プロジェクトでもある。……それゆえ万事は、社会経済的で環境的なプロジェクトの目的にかかっている」(ハーヴェイ、2014=2017:328)。「再エネ」
-
鈴木達治郎 猿田佐世 [編] 岩波ブックレット 岩波書店/520円(本体) 「なぜ日本は使いもしないプルトニウムをため続けるのか」。 米国のエネルギー政策、原子力関係者に話を聞くと、この質問を筆者らは頻繁に受けるという。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間