NHK「あさイチ」は不公平で無責任だ
私はNHKに偏見をもっていないつもりだが、けさ放送の「あさイチ」、「知りたい!ニッポンの原発」は、原発再稼動というセンシティブな問題について、明らかにバランスを欠いた番組だった。スタジオの7人の中で再稼動に賛成したのは、右から3番目の竹内純子氏だけだ。
番組では東電の柏崎刈羽原発を取材し、これを受けてスタジオ右端の柳沢解説委員(NHKを代表している)は「原発が止まっても電力は足りている」という話で、再稼動反対に議論を誘導する。左から2番目の井ノ原という芸人はこういっている。
電気代が上がっているのも知ってますし、だけどもあの怖い思いをしていまだに家に帰れない人がいるっていうことで、こういう話をしてるって思うんですよね。命が一番大事だよねってところで、この話になってるような気もするので。
事故から7年たっても、相変わらず「怖い思い」や「金より命」の感情論だ。福島事故の放射線障害で命は1人も失われていないし、今後も失われない。これは国連科学委員会が確認し、NHKも報道した科学的事実である。したがって電気代と命のトレードオフは存在しない。原発を止めていると、電気代が上がるだけなのだ。そのコストは現在までに総額15兆円以上にのぼる。
これは芸人の意見ではなく、担当ディレクターの教え込んだセリフだろう。台本にも書いてあるはずだ。右から2人目の飯田哲也氏はもちろん反原発だから、柳沢解説委員を含めた3人が明確な反原発だ。残りの3人も同じ立場なので、スタジオは再稼動反対と賛成が6対1である。これは討論番組としての形式的なバランスも守っていない。有働キャスターの進行も、竹内氏を袋だたきにするような流れだった。
私も1980年代にNHKで原発の番組をつくったが、賛成と反対の立場は、人数はもちろん時間配分も同じにするよう命じられた。今でもこんな番組は、報道局では考えられない。「あさイチ」は生活情報という素人集団だから、これでもチェックを通ったのだろう。
「あさイチ」は主婦向けの番組なので、感情論にしないと視聴率が取れないのだろうが、この番組は40分も再稼動反対の宣伝をやったようなものだ。柏崎については原子力規制委員会がOKを出しているが、こういう感情論で再稼動が進まない。東電の電力供給が綱渡り状態のとき「電力は足りている」と繰り返すNHKは、公共放送として無責任というしかない。

関連記事
-
米国が最近のシェールガス、シェールオイルの生産ブームによって将来エネルギー(石油・ガス)の輸入国でなくなり、これまで国の目標であるエネルギー独立(Energy Independence)が達成できるという報道がなされ、多くの人々がそれを信じている。本当に生産は増え続けるのであろうか?
-
27日の日曜討論で原発再稼働問題をやっていた。再稼働論を支持する柏木孝夫東京工業大学特命教授、田中信男前国際エネルギー機関(IEA)事務局長対再稼働に反対又は慎重な植田和弘京都大学大学院教授と大島堅一立命館大学教授との対論だった。
-
「世界で遅れる日本のバイオ燃料 コメが救世主となるか」と言う記事が出た。筆者はここでため息をつく。やれやれ、またかよ。バイオ燃料がカーボンニュートラルではないことは、とうの昔に明らかにされているのに。 この記事ではバイオ
-
「複合災害の記憶と教訓を将来に引き継ぐ」 こう銘打たれ、2020年9月20日に「東日本大震災・原子力災害伝承館」が福島県双葉郡双葉町にオープンした。 原子力災害と復興の記録や教訓の「未来への継承・世界との共有」 福島にし
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあった
-
(前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か) 火力をさらに減らせば再生可能エネルギーを増やせるのか 再生可能エネルギーが出力制御をしている時間帯も一定量の火力が稼働しており、それを減らすことができれば、その分再エネ
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 今回からIPCC報告の冒頭にある「政策決定者向け要約」を
-
ロシアのウクライナ侵攻で、ザポリージャ原子力発電所がロシア軍の砲撃を受けた。サボリージャには原子炉が6基あり、ウクライナの総電力の約20%を担っている。 ウクライナの外相が「爆発すればチェルノブイリ事故の10倍の被害にな
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間