河野太郎氏と石破茂氏は原子力をめぐって合意できるのか
自民党総裁選挙で、石破茂氏が河野太郎氏を支援する方向になった。これで第1回投票で河野氏が過半数をとる見通しが強まったが、2人の間には原子力と核兵器をめぐる政策で大きな違いがある。この問題はややこしいので、超簡単に解説しておこう。
なぜ赤字の核燃料サイクルを動かすのか
河野氏については先週の記事で説明したが、原則として脱原発・核燃料サイクル廃止という主張だ。それに対して石破氏は、非核3原則の見直しを求める核武装論者である。両者が政策協定を結ぶと、どうなるのだろうか。
高速増殖炉(FBR)が頓挫した日本で、余剰プルトニウム46トンを消化することは至難の業である。当面はプルサーマルしかないが、毎年3基稼働するとしても年間に消費できるのは1トン程度。青森県六ヶ所村の再処理工場がフル稼働して毎年8トンのプルトニウムを生産すると、さらに余剰プルが増え、毎年数千億円の赤字が出る。
なぜそんなことをするのか。一つの理由は岸田文雄氏もいうように「使用済み燃料のプール貯蔵量が100%に近づく中、核燃料サイクルを止めると現実に動く原発すら動かすのが難しくなる」ということだ。
これについては2012年に民主党政権が失敗しており、再処理工場にある3000トンの使用ずみ核燃料の最終処分地についての答なしにサイクルを止めることはできない。
それは政治的には大問題だが、技術的には答が出ている。六ヶ所村でそのまま乾式貯蔵すればよいのだ。これは安全性にも問題はなく、残るのは福島の処理水のような地元合意だけだ。首相が決断して地元を説得すれば解決できる。
核燃料サイクルの目的は日米原子力協定
もう一つの理由が日米原子力協定である。日本は核拡散防止条約の加盟国の中で、核武装していないのにプルトニウムを保有する唯一の国だ。その利用目的は平和利用に限定され、余剰プルトニウムはもたないことになっているが、高速増殖炉(FBR)が挫折したため、それが消化できなくなった。
河野氏は外相の時代に日米原子力協定について「いろんな事を考えていかなければならない。使用目的のないプルトニウムは持たないというのが世界共通の原則だ」と見直しを示唆したが、結局何もしなかった。
日本から協定を破棄することはありえないが、「使用目的のないプルトニウムは持たない」という原則から考えると、核武装しない日本ではプルトニウムはゼロにするしかない。46トンのプルトニウムは原爆6000発分で、日本の核技術があれば1年で核弾頭はつくれるという。
このような核武装のオプションを残すことが、核燃料サイクルのもう一つの(隠れた)ねらいである。自民党にも「潜在的な抑止力としてもつべきだ」という支持者が少なくない。日米同盟が永遠に存続するとは保証できないからだ。
核兵器技術をもたない今の日本が、いくら大量にプルトニウムを保有しても抑止力にはならないが、これを潜在的な脅威とみなして国際管理すべきだという人々もいる。
この対立の中では石破氏が抑止力を重視し、河野氏は脅威を重視する立場に近いと思われるが、現実には核武装は政治的に不可能である。そのためには日米原子力協定を破棄し、核拡散防止条約から脱退する必要があるからだ。それは日米同盟を破棄して、日本がアメリカの核の傘から出ることを意味する。
石破氏も日本が核武装すべきだというわけではなく、むしろ非核3原則の「持ち込ませず」原則を廃止し、アメリカの戦略核兵器を日本に配備するオプションを主張している。河野氏も今すぐ核燃料サイクルをやめろといっているわけではないが、核燃料サイクルはエネルギー問題だけではなく、国防や日米同盟のあり方にかかわる重い問題なのである。
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