原子力発電の国有化のメリットは何か

2018年05月14日 06:00
諸葛 宗男
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

はじめに

原子力発電は福一事故から7年経つが再稼働した原子力発電所は7基[注1]だけだ。近日中に再稼働予定の玄海4号機、大飯4号機を加えると9基になり1.3基/年になる。

もう一つ大きな課題は低稼働率だ。日本は年70%と異常に低い。世界最高稼働率を誇る米国、韓国等は90%超だから、20%以上も低い。高い技術力を誇る日本がなぜ米国や韓国の後塵を拝しているのか疑問だ。出来るだけ早く改善すべきである。

この2つの問題を同時に解決する策として考えられているのが「原子力発電の国有化」だ。私の提案ではないが、国有化がなぜ解決策なのかと疑問を持つ向きも多いと思う。しかし後述する通り一理ある。本稿は国有化のメリットが何なのかを考えたものである。

第一のメリットは万一の場合の政府保証

原子力発電所のことで誰でもすぐに思いつくことは「東芝の二の舞」を避けることだ。東芝の経営がどうして行き詰まったのかは定かではないが、元々原子力発電所建設は良い融資先とは考えられていなかった。投資した資金の回収に時間がかかり過ぎるからだ。英国の原発建設を巡って日立の中西会長が英国のメイ首相に掛け合ったのも万一の場合に英国政府が支援してくれることの保証を求めたものと思われる。

国有化の最大のメリットは万一の場合の政府の保証だろう。政府がバックについているか否かで投資者の安心度合が大きく異なるからである。

第二のメリットは裁判でのリスク説明

原子力発電所は裁判で敗訴すると長期間停止させられる。本来は原発事故のリスク説明を原告住民が行うものだが被告の電力会社が行わされている。リスク説明は技術基準体系に熟知した原子力規制委員会(以下「規制委」と略す。)が適任だが、当事者である電力会社が行わざるを得ないのである。

もし、原子力発電所が国有化されれば、当然ながら事故リスクの説明は国の役割となり規制委が説明することになるため、敗訴のリスクは減少することが期待される。もちろん、規制委が説明したからと言って敗訴リスクがゼロになるわけではない。

第三のメリットは原子力発電所の品質が向上すること

日本の原子力発電所の運転企業数は国際的に見て多い。現在発電出来る39基の原子力発電所[注2]の運転企業の数は沖縄電力を除く9電力会社と日本原子力発電の併せて10社もある。海外では以前は小さな電力会社が沢山あった米国ではその後吸収・合併が相次ぎ、様代りしている。エクセロンは原子力発電所をなんと59基も所有、デュークエナジーは12基、エンタジー6基、ドミニオンとフロリダ電力が各4基である。フランスは原子力発電所58基を全てEDF1社が所有している。イギリスは2社だけだ。政府(NDA)が26基、EDFが15基所有している[注3]。日本は世界的に見ても多過ぎるのである。

原子力発電所の運転企業が多いと運転情報すなわちリスク情報が減ってしまう。日本では美浜2号機で起きた蒸気配管破断事故の原因はオリフィス後流配管の減肉だったが、そのことが共有化されていなかったことが根本原因だ。また、志賀2号機で起きた制御棒引き抜け事故の原因は定検中の臨界事故防止だったが、その情報が共有化されていなかったことが根本原因だ。このことを反省して2005年10月にPWR事業者協議会(JPOG)、そして2006年4月にBWR事業者協議会(PBOC)が設立されてリスク情報の共有化を行うこととされた[注4]。逆に言えば運転企業が多すぎてリスク情報が共有化されていなかったことが根本原因だったとも言える。

もし、日本でも原子力発電所が国有化され原子力発電所のリスク情報が広く共有化されれば品質の大幅改善が期待されるのである。

第四のメリットは推進側も規制側に対抗して巨大化できること

福一事故の前、前項に述べた原子力発電所の運転企業が多いことは余り問題視されていなかった。それは電事業連合会と東京電力が情報共有化に一定の貢献をしていたためである。しかし、福一事故で状況は一変した。同時にその両方の機能を喪失したのである。その結果10社の情報共有化力が低下した。一方で安全規制側は事故後の改革によって大幅に専門性が高められた。このため現在は双方の力関係が逆転している可能性が高い。

国有化はこの状況を一変させる。運転側のリスク情報が一元化されて大幅に増え、規制側の情報と対抗できるようになるのである。特に一昨年のIRRSで国の形式的な検査を止めて米国で品質向上の効果が得られているPIやROPが導入され、検査結果が色別に表示されるようである。色の違いで品質の状態が一目で判るのである。品質の悪いプラントは赤が多くなり一目瞭然となる。このIRRS勧告を受けた新検査制度は2020年から本格運用予定となっている[注5]。

今回は国有化のメリットについて論じたが、当然ディメリットもある。それについては次回以降論じることとしたい。

 

[注1] 現在稼働中の原発は関西電力・高浜3、4号機、大飯3号機、四国電力・伊方3号機、九州電力・玄海3号機、川内1、2号機、(愛媛県)の7基。この内伊方3号機は昨年12月広島高裁が運転差し止めの仮処分を決定し停止中。
[注2] 内訳は北海道電力3基、東北電力3基、東京電力11基、日本原子力発電2基、中部電力3基、北陸電力2基、関西電力7基、中国電力1基、四国電力1基、九州電力5基の合計39基。5基以上保有しているのは3社しかない。
[注3] JNUS「平成 27 年度発電用原子炉等利用環境調査・調査報告書」2016.3
[注4] 電事連「『エネルギー利用(原子力発電)』電気事業者の取組状況について」,p.11, 2016.10
[注5] PI(Performance Indicators)はパフォーマンス指標、ROP(Reactor Oversight Process)は原子炉監督プロセスの略。今年度(2018年度)から試運用を開始すべく現在、原子力規制委員会の「検査制度の見直しに関する検討チーム」で鋭意検討が進められている。

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諸葛 宗男
NPO法人パブリック・アウトリーチ・上席研究員 元東京大学特任教授

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