40年ルールで「2050年原発ゼロ」になる
新しいエネルギー基本計画が決まり、まもなく閣議決定される。「再生可能エネルギーを主力電源にする」といいながら再エネ22~24%、原子力20~22%という今のエネルギーミックスを維持したことに批判が集まっているが、問題はそこではない。この計画は現行法では実現不可能なのだ。
この図は現在の原発稼働状況(資源エネルギー庁調べ)だが、60基のうち18基がすでに廃炉となり、安全審査を申請していない16基もこのまま廃炉になる可能性が高い。残るのは26基だが、稼働年数を見ると、2030年までに40年の期限が来る原発が12基ある。
そのうち3基は追加的安全対策を施して20年延長が認められたが、残り9基がすべて原子炉等規制法の「40年ルール」で廃炉になると、稼働するのは最大でも17基である。震災前には原発60基で約30%だったので、17基ではたかだか10%。エネルギー基本計画の想定する20%は実現できない。
これは「原発依存度を低減する」という経産省の方針とは合致するが、「2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減する」というパリ協定の約束は守れない。今の計画では2030年に火力を55%にする予定だが、原発が動かないと65%になるので、震災前より排出量が増えるおそれもある。
さらに長期を考えると、橘川武郎氏も指摘するように、このまま原発を更新しないと、2050年には原発はゼロになる。この数字をどう見るかは、いろんな考え方があろう。「原発ゼロ法案」を提案している野党にとっては望ましいことだろうが、国民にとってはどうだろうか。
原発がないと、2050年に再エネが50%に増えるとしても、残る50%は火力になるので「2050年にCO280%削減」というパリ協定の目標も実現不可能だ。再エネ+蓄電池ですべてまかなうと、コストは90円/kWh以上になり、電気代は今の4倍になる。
だが今のところ電力会社に、原発を更新する計画はない。それは現在の異常な状況で、原発の政治的リスクは民間企業に負いきれないからだ。したがってパリ協定を履行するためには、国が責任をもって原発を更新するしかない。つまり原子力の国有化である。日本原子力発電を「原子力公社」にして、東日本のBWR(沸騰水型原子炉)を移管し、国が運営するのだ。
それ以外の結論は、パリ協定を踏み超えることしかない。それも一つの解だと思うが、政府として世界に説明できないだろう。今から原発の国有化を検討しても早すぎることはない。この種の政策転換には10年ぐらいかかるからだ。

関連記事
-
6月25日記事。バイデン副大統領が、米国でのインタビューで、習近平中国国家主席に、このような警告をしたと発言した。もちろん本音は中国への牽制だろうが、米国の警戒感もうかがえる。
-
「本当のことを言えば国民は喜ぶ、しかし党からはたたかれる」 石破が首班指名され、晴れてゲル首相になったのちに野党の各党首を表敬訪問した。 このふと漏らしたひとことは、前原誠司氏を訪れたときに口をついて出た。撮り鉄・乗り鉄
-
この原稿はロジャー・ピールケ・ジュニア記事の許可を得た筆者による邦訳です。 欧州の天然ガスを全て代替するには、どれだけの原子力が必要なのか。計算すると、規模は大きいけれども、実行は可能だと分かる。 図は、原子力発電と天然
-
米国の元下院議長であった保守党の大物ギングリッチ議員が身の毛がよだつ不吉な予言をしている。 ロシアがウクライナへの侵略を強めているのは「第二次世界大戦後の体制の終わり」を意味し、我々はさらに「暴力的な世界」に住むことにな
-
東北電力についでBWR2例目の原発再稼動 2024年12月23日、中国電力の唯一の原子力発電所である島根原子力発電所2号機(82万kW)が発電を再開しました(再稼働)。その後、2025年1月10日に営業運転を開始しました
-
GEPRの運営母体であるアゴラ研究所は映像コンテンツである「アゴラチャンネル」を提供しています。4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送しました。 現状の対策を整理し、何ができるかを語り合いました。議論で確認されたのは、温暖化問題では「地球を守れ」などの感情論が先行。もちろんそれは大切ですが、冷静な対策の検証と合意の集積が必要ではないかという結論になりました。そして温暖化問題に向き合う場合には、原子力は対策での選択肢の一つとして考えざるを得ない状況です。
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前稿で科学とのつき合い方について論じたが、最近経験したことから、改めて考えさせられたことについて述べたい。 それは、ある市の委員会でのことだった。ある教授が「2050年カーボン
-
エネルギー・環境問題を観察すると「正しい情報が政策決定者に伝わっていない」という感想を抱く場面が多い。あらゆる問題で「政治主導」という言葉が使われ、実際に日本の行政機構が政治の意向を尊重する方向に変りつつある。しかし、それは適切に行われているのだろうか。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間