サマータイムでエネルギー消費は増える

2018年08月06日 13:30
アバター画像
アゴラ研究所所長

森喜朗氏が安倍首相に提案したサマータイム(夏時間)の導入が、本気で検討されているようだ。産経新聞によると、議員立法で東京オリンピック対策として2019年と2020年だけ導入するというが、こんな変則的な夏時間は混乱のもとになる。

森氏は「夏時間で2時間早めたら、午前7時スタートのマラソンが午前5時スタートとなり、日が高くなる前にレースを終えることができる」というが、5時スタートにすればいいだけの話だ。他の仕事も、勤務シフトを変えればいい。時計を変える必要はない。

日本には異なる標準時という習慣がないので、時計を変更したら大混乱になる。アナログ時計なら1時間進めればいいが、コンピュータのクロックはすべての電子機器の基準になっており、ソフトウェアや半導体の時刻の変更は大変だ。同期が狂うと交通機関などのシステムが混乱し、事故が起こる可能性もある。

それより問題は、夏時間がエネルギー節約になるかどうかだ。これは英語ではdaylight saving time、つまり明るいうちに仕事を終えて、夜の照明を節約する習慣だ。これを提唱したのはベンジャミン・フランクリンだといわれるが、いま夏に最大のエネルギーを消費するのは冷房である。

アメリカのインディアナ州では、一部の郡しか夏時間をとっていなかったが、2006年に全州で夏時間が導入された。新たに夏時間を採用した郡でエネルギー消費を調査した経済学者の実証研究によれば、電力消費は平均1%増え、ピーク時には4%も増えた。夏時間で朝早くから活動すると照明の利用は減るが、冷房の利用は増えるからだ。

日本でも1948年から行われた夏時間は、残業が増えて4年で廃止された。1996年に夏時間を採用したEUでも、スイスやフィンランドなどで、夏時間の廃止を求める国民投票の動きがある。ロシアでは2011年に廃止された。生活を混乱させ、エネルギーを浪費する時代錯誤の夏時間は、百害あって一利なしである。

This page as PDF

関連記事

  • 原子力規制委員会が原発の新安全設置基準を設けるなど制度の再構築を行っています。福島原発事故が起こってしまった日本で原発の安全性を高める活動は評価されるものの、活断層だけを注視する規制の強化が検討されています。こうした部分だけに注目する取り組みは妥当なのでしょうか。
  • 福島第一原発のデブリ(溶融した核燃料)について、東電は「2018年度内にも取り出せるかどうかの調査を開始する」と発表したが、デブリは格納容器の中で冷却されており、原子炉は冷温停止状態にある。放射線は依然として強いが、暴走
  • この4月に米国バイデン政権が主催した気候サミットで、G7諸国はいずれも2050年までにCO2ゼロを目指す、とした。 コロナ禍からの経済回復においても、グリーン・リカバリーということがよく言われている。単なる経済回復を目指
  • 2020年はパリ協定実施元年であるが、世界はさながら「2050年カーボンニュートラル祭り」である。 パリ協定では産業革命以後の温度上昇を1.5度~2度以内に抑え、そのために今世紀後半に世界全体のカーボンニュートラルを目指
  • 3月初めにEUの環境政策関係者に激震が走った。 「欧州グリーンディール」政策の一環として2021年7月にEUが発表した、2030年までに温室効果ガスの排出を90年比55%削減するという極めて野心的な目標をかかげた「FIT
  • はじめに 気候変動への対策として「脱炭素化」が世界的な課題となる中、化石燃料に依存しない新たなエネルギー源として注目されているのがe-fuel(合成燃料)である。自動車産業における脱炭素化の切り札として各国が政策的な後押
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前回書ききれなかった論点を補足したい。現在の日本政府による水素政策の概要は、今年3月に資源エネルギー庁が発表した「今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案)」という資料
  • トランプ政権は、バイデン政権時代の脱炭素を最優先する「グリーンニューディール」というエネルギー政策を全否定し、豊富で安価な化石燃料の供給によって経済成長と安全保障を達成するというエネルギードミナンス(優勢)を築く方向に大

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑