再生可能エネルギー100%は幻想だ
【概要】政府はエネルギー基本計画の中で「可能な限り原発依存度を低減する」としている。その影響のせいなのか、再生可能エネルギー100%が明日にでも実現すると思い込んでいる人が多い。ところが、電力の総本山、電気学会で昨年公表された論文[注1]によれば、もし、今、再生可能エネルギーだけで電力を供給しようとしたら1京円もの蓄電池が必要になるという。日本の年間予算が約100兆円だから国の予算100年分に相当する膨大な費用である。この論文の主張が正しければ、再生可能エネルギー100%は技術的には可能であっても実現困難な目標だったのである。
再エネ100%には大きな蓄電池が必要になる
太陽光発電の場合
日射が少ない11月から3月までは発電量が需要を下回るため、需要電力を賄う電力は蓄電池からの放電に頼らざるを得ない。したがって、再エネだけで需要を賄う場合、図1に示す通り、年間需要電力量の17.5%に相当する容量の蓄電池が必要となる。日本の全国の年間電力需要を9,808億kWh[注2]とすれば、蓄電池はその17.5%、1,716億kWhの容量が必要となる。蓄電池の価格を政府の2020年目標価格9万円/kWh[注3]とすれば、蓄電池の購入価格は1,716億kWh×9万円/kWh=1.54×1016円となる。1.54億円の1億倍の膨大な額である。
風力発電の場合
風力発電は図3に示す通り4月から9月まで風況が悪く発電量が需要を下回り、需要電力を賄うのは蓄電池の放電に頼らざるを得ない。風力発電だけで需要を賄おうとすれば、需要電力量の13.1%の蓄電池が必要となる。太陽光の場合と同様、需要電力を9,808億kWhとし、蓄電池の単価を9万円/kWhとすれば、まず、蓄電池容量は
9,808億kWh×13.1%=1,285億kWh
となり、その建設費は、1,285億kWh×9万円/kWh=1.15×1016円となる。1.15億円の1億倍の膨大な額である。
日本政府の方針と欧州各国ではどうしているのだろう
まず、欧州各国では再エネの電力生産量は火力発電で調整している。だから再エネだけで電力供給を行っている国はない。したがって上述のような高額の蓄電池を備えている国はない。
日本の政府も経済産業省の「日本のエネルギーを知る20の質問」と題したエネルギー政策の広報ページに「再エネだけでエネルギーを賄うことはできないのですか?」という設問があるが、その回答は「再エネは季節や天候によって発電量が大幅に変動し、不安定なものが多く、安定供給のためには火力発電などの出力調整が可能な電源をバックアップとして準備する必要があります。また、蓄電池などエネルギーを蓄積する手段の確保や、再エネの大量導入に対応した電力ネットワークの在り方などにも課題が残っています。」としており蓄電池がそれほど大きくなることは書いていない。
再エネ100%の非現実性はなぜ知られていなかったのか?
冒頭の蓄電池コストの話を知れば再エネ100%がいかに非現実的なのかが判る。では、なぜこれまでそのことが指摘されなかったのだろうか。
確かな理由は判らないが、考えられる理由の一つは日本では太陽光と風力の発電比率が低くかったため「再エネで電力を100%賄う」ことは非現実的だと考えられていたためであろう。欧州の再エネ比率が高い国では、再エネの季節変動対策には火力発電が使われているが、蓄電池とのコスト評価が行われた可能性は高い。調べてみる価値はありそうだ。
再エネの季節変動はこれまで検討されたことがなかった
冒頭で紹介した電気学会の論文は我が国で再エネの季節変動の影響を取り上げた初めてのものだった可能性がある。再エネの不安定性についてはこれまで様々な場で検討されているが、それらはなぜか全て1日或いは1週間の不安定性で今回のような何ヶ月にも及ぶ季節変動を取り上げたものはなかった。
日本では原子力や火力発電所が多数存在するから、それらの発電割合をゼロにする非現実的な検討は無意味だとされていたためだと考えられる。
地域間の連携が行われたら変動幅は小さくならないか
再生可能エネルギーの地域差は太陽光と風力で異なる。2015年の場合の地域ごとの太陽光と風力の需給差を図4に示す。太陽光は残念ながら地域差が少なく北から南までどこも似たような傾向を示す。それに対して風力は地域によって需給差が異なる。しかし、4月には全ての地域の需給差がプラスになるが、9、10月頃は全ての地域の需給差がマイナスになる。日本の場合は全国を繋げても天候は平均化しないことが判る。需要を全国規模に拡大しても東北だけで考えたことと状況は余り変らないものと思われる。
発電価格の試算
太陽光と風力の発電単価はMETIによれば[注4]、太陽光(メガ)は24.2円/kWh、風力は21.1円/kWhである。蓄電池寿命は約10年とされているが、ここではその2倍の20年使えるとする。上述で検討したとおり蓄電池コストに約1京円を投じ、これを年間発電量約1兆kWhの20年分20兆kWhで割ると、500円/kWhとなる。これに上述の再エネ発電単価を加えると、太陽光が524.2円/kWh、風力が521.1円/kWhとなる。
この電力価格を見れば再生可能エネルギー100%のシステムは冒頭に述べた通り全く非現実的な話であることは明白である。これは再生可能エネルギーを否定しているのではなく、再生可能エネルギーだけで電力を賄うことが非現実的であると言っているだけである。電源はあくまで原子力や火力などの安定電源との組み合わせすなわちベストミックスで使うべきというごく常識的な結論となる。
[注1] 元東北電力常務取締役、元北日本電線社長、新田目倖造「太陽光、風力発電の安定供給コスト」,電気学会論文誌B,Vol.138,No.6.pp.451-459 (2018年6月1日発行)
[注2] 経済産業省「長期エネルギー需給見通し」,2015.7.16
[注3] 資源エネルギー庁新エネルギーシステム課「定置用蓄電池の価格低減スキーム」, 2017.3.8
[注4] 資源エネルギー庁「発電コストを比べてみよう」

関連記事
-
四国電力の伊方原発2号機の廃炉が決まった。これは民主党政権の決めた「運転開始40年で廃炉にする」という(科学的根拠のない)ルールによるもので、新規制基準の施行後すでに6基の廃炉が決まった。残る原発は42基だが、今後10年
-
次世代自動車として期待される電気自動車(EV)の急速充電器の設置が着々と進んでいる。道の駅、高速道路、コンビニなどに15年度末で約6100台が置かれ「走行中の電池切れが不安」というユーザーの懸念は解消されつつある。
-
全国の原発が止まったまま、1年半がたった。「川内原発の再稼動は今年度中には困難」と報道されているが、そもそも原発の運転を停止せよという命令は一度も出ていない。それなのに問題がここまで長期化するとは、関係者の誰も考えていなかった。今回の事態は、きわめて複雑でテクニカルな要因が複合した「競合脱線」のようなものだ。
-
日本の電力系統の特徴にまず挙げられるのは、欧州の国際連系が「メッシュ状」であるのに対し、北海道から 九州の電力系統があたかも団子をくし刺ししたように見える「くし形」に連系していることである。
-
国際環境経済研究所(IEEI)版 衝撃的な離脱派の勝利 6月24日、英国のEU残留の是非を問う国民投票において、事前の予想を覆す「離脱」との結果が出た。これが英国自身のみならず、EU、世界に大きな衝撃を与え
-
本レポートには重要な情報がグラフで示されている。太陽光・風力の設備量(kW)がその国の平均需要量(kW)の1.5倍近くまで増えても、バックアップ電源は従来通り必要であり、在来型電源は太陽光・風力に代替されることもなく、従来通りに残っていることである。
-
6月17日記事。国民投票前の記事ですが、仮に離脱の場合にはエネルギーセクターが、大変な悪影響を受けるという見通しを示している。
-
筆者がシェール・ガス革命について論じ始めて、2013年3月で、ちょうど4年になる。米国を震源地としたシェール・ガス革命に関して研究を行っていたエネルギー専門家は、日本でも数人であり、その時点で天然ガス大国米国の復活を予想したエネルギー専門家は皆無であった。このようにいう筆者も、米国におけるシェール・ガス、シェール・オイルの生産量の増加はある程度予想していたものの、筆者の予想をはるかに上回るスピードで、シェール・ガスの生産コストが低下し、生産量が増加した。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間