地球温暖化しても作物は育つ:東京ヒートアイランドは野菜の名産地

2020年12月04日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

毎朝冷えるようになってきた。

けれども東京の冬は随分暖かくなったこれは主に都市化によるものだ。  

気象庁の推計では、東京23区・多摩地区、神奈川県東部、千葉県西部などは、都市化によって1月の平均気温が2℃以上、上昇している。(下図)

出典:気象庁

出典:気象庁

これに加えて地球温暖化は過去に約0.8℃あったから、合計で約3℃の気温上昇があった訳だ。

さて今、地球温暖化対策では気温上昇を2℃に抑制することが目標にされているが、既に0.8℃上昇したので、あと約1℃の上昇である。

これで農業にどのような影響があるかは、過去にすでに3℃もの気温上昇があった東京を見れば分かるはずだ。答えは、「全く不都合は無かった」ということだ。

意外に思われるかもしれないが、東京は野菜どころである(下図)。筆者も毎日おいしく頂いている。地球温暖化でこれらの野菜が育てられなくなって困ったなどという話は聞いたことがない。

では冬ではなくて、夏はどうなのだろうか。

夏でも都市熱はあるが、冬に比べると気温上昇は少ない(下図)。東京23区、多摩地区、横浜市あたりで都市熱は1℃から2℃程度と推計されている。これに地球温暖化を加えると、合計で2℃から3℃程度の気温上昇があった訳だ。

出典:気象庁

出典:気象庁

けれども、これまた農家が困っているという話は聞こえてこない。横浜市では普通に米を作っている(下図)。水田は激減したが、これは宅地に転用したりしたためだ。

横浜市緑区の水田(出典:横浜市)

横浜市緑区の水田(出典:横浜市

「地球温暖化で農業生産が打撃を受ける」という言説は、たいていは将来についてのシミュレーションに頼っている。けれども、シミュレーションは不確かなもので、前提によって答えがガラガラ変わってしまう

それよりも、過去の都市熱で何が起きたかを調べるほうが、将来の地球温暖化の影響を推し量る為の、より適切な方法だ。

分かることは、気温が上昇しても、農家は(たいていは意識もすることなく)対応して、問題なく生産を続けてきた、ということだ。

東京ヒートアイランドは地球温暖化を先取りした実験室になっている。

よく調べれば、僅かあと1℃の地球温暖化で大きな被害など有り得ないことが、もっとはっきりするだろう。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 昨年の地球の平均気温は、観測史上最高だった。これについて「その原因は気候変動だ」という話がマスコミには多い。 気候変動の話をすると、「地球の歴史からするとこの程度は昔もあった」というコメントがつくのだが、現生人類も文明も
  • (前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難③) 田中 雄三 風力・太陽光発電の出力変動対策 現状の変動対策 出力が変動する風力や太陽光発電(VRE)の割合が増大すると、電力の積極的な需給調整が必要になります。前稿③の「E
  • ロシアのウクライナ侵攻という暴挙の影響で、エネルギー危機が世界を覆っている。エネルギー自給率11%の我が国も、足元だけではなく、中・長期にわたる危機が従前にまして高まっている。 今回のウクライナ侵攻をどう見るか 今回のロ
  • 今年9月に国会で可決された「安全保障関連法制」を憲法違反と喧伝する人々がいた。それよりも福島原発事故後は憲法違反や法律違反の疑いのある政策が、日本でまかり通っている。この状況を放置すれば、日本の法治主義、立憲主義が壊れることになる。
  • 国際エネルギー機関(IEA)は、毎年、主要国の電源別発電電力量を発表している。この2008年実績から、いくつかの主要国を抜粋してまとめたのが下の図だ。現在、日本人の多くが「できれば避けたいと思っている」であろう順に、下から、原子力、石炭、石油、天然ガス、水力、その他(風力、太陽光発電等)とした。また、“先進国”と“途上国”に分けたうえで、それぞれ原子力発電と石炭火力発電を加算し、依存度の高い順に左から並べた。
  • 自動車メーカーのボルボが電気自動車C40のライフサイクルCO2排出量を報告した。(ニュース記事) ライフサイクルCO2排出量とは、自動車の製造時から運転・廃棄時までを含めて計算したCO2の量のこと。 図1がその結果で、縦
  • 東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所を5月24日に取材した。危機的な状況との印象が社会に広がったままだ。ところが今では現地は片付けられ放射線量も低下して、平日は6000人が粛々と安全に働く巨大な工事現場となっていた。「危機対応」という修羅場から、計画を立ててそれを実行する「平常作業」の場に移りつつある。そして放射性物質がさらに拡散する可能性は減っている。大きな危機は去ったのだ。
  • GPIFがサステナ投資方針を月末公表へ、ESGの姿勢明確化―関係者 ブルームバーグ 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、サステナビリティー(持続可能性)投資に関する方針を初めて策定し、次期基本ポートフォリオ(資

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑