日本の石炭火力発電技術が温暖化を抑制する
(GEPR編集部より)GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有します。IEEIの中野直和主任研究員のコラムを提供します。
日本は原発事故の影響によって、脱原発が自然と進むでしょう。エネルギー源を多様化する中で、石炭の利用も考えなければなりません。石炭はCO2や有害なガス排出の多さ、石油と比べたエネルギー効率の悪さから、最近の日本では使用が抑えられる傾向にありました。
【本文】
国際エネルギー機関(IEA)は、毎年、主要国の電源別発電電力量を発表している。この2008年実績から、いくつかの主要国を抜粋してまとめたのが下の図だ。現在、日本人の多くが「できれば避けたいと思っている」であろう順に、下から、原子力、石炭、石油、天然ガス、水力、その他(風力、太陽光発電等)とした。また、“先進国”と“途上国”に分けたうえで、それぞれ原子力発電と石炭火力発電を加算し、依存度の高い順に左から並べた。
2008年度主要国の電源別発電電力量
![](https://www.gepr.org/ja/images/20120618-03/img/graph.png)
世界の発電電力量の4割を石炭火力が賄っている
(出典:IEA/ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES(2010Edition),ENERGY BALANCES OF NON-OECD COUNTRIES(2010Edition)から筆者が作成)
この結果を見ると、どの国も原子力と化石燃料を加えると80%を超える。また、化石燃料のうち、石油は少なく、石炭と天然ガスが大部分を占める。国によって両者の比率は大きく異なり、天然ガス資源が比較的手軽に入手できる国では当然ながらガスの比率は高い。
しかし注目すべきは、石炭の占める割合が、主要途上国だけでなく米国やドイツでも40%を超えており、世界全体で4割を占める最大の電力源だということである。なお、「その他」に分類されている太陽光や地熱、バイオマス等の再生可能エネルギーは、各国とも強化すべき電力源と位置づけてはいるが、基盤電源とするためには、技術開発の加速による飛躍的な効率向上等によって大幅なコストダウンを実現することが必須であろう。
日本発の技術が中国のCO2排出量を5000万t削減の可能性
石炭依存度が高い国々は、国内に石炭資源をもち、石炭が安価なエネルギー源であることが、その要因となっている。たとえば脱原発を再び宣言したドイツは、その穴埋めとして再生可能エネルギーの拡大を宣言する一方で、当面は、天然ガスと石炭火力の拡大で対処しようとしている。そのため一部のマスコミは「ドイツは“再生可能”を袖にして、ブラックに戻る」とまで呼び、批判している。
しかし、安価な電力を安定供給することは、まさに政府の役割であり、石炭を含めた化石燃料の比率を高めて乗り切る政策は、何ら批判されるべきものではなく当然の判断である。
もともと自前の資源に乏しいうえ当面は原発に多くを期待しにくく、電力料金の上昇が大きな懸念材料である日本にとっても、安価でしかも調達先が政治的に安定している石炭は、天然ガスと並んで重要な電源であることは明らかである。電力の将来を考えるうえで、石炭火力発電をCO2の排出が多いという理由だけで検討対象から外してはならない。
よく知られているが、日本は2000年ごろに超々臨界圧石炭火力発電(USC)を世界で初めて商用化した。この結果、数十年間ほとんど横ばいであった石炭火力の発電効率は飛躍的に向上した。日本では22基が運転されているが、この技術は世界に伝播している。なかでも中国では、計画中を含め120基の導入が報告されており、仮に従来の亜臨界型と比較すると、年間約5000万tものCO2排出を抑制できる。約65億tある中国の全CO2排出量の約0.8%を、日本発の技術により削減できることになる。
CO2を大量に排出するとして日本では旗色のよくない石炭火力だが、海外、特に新興工業国とその予備軍にとって優先度は高い。今後とも石炭火力の増設が継続することは確実であり、その効率向上こそが地球温暖化対策として不可欠である。
今、日本ではUSCに続く技術である、石炭ガス化複合発電(IGCC)や、A-USC(700℃級先進超々臨界圧発電)の研究開発が進められている。その早期実用化と、それによる発電効率のさらなる向上こそ、USCのさらなる普及と並んで、日本に与えられた使命である。技術の改善と新技術実用化には、実機での運用が不可欠であり、また日本の電力構成を考えるうえでも石炭火力は不可欠な存在と言える。気分で判断するのは、あまりに危険であろう。
(2012年6月18日掲載、元原稿は2011年8月発表)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
日本でも縄文時代は今より暖かかったけれども、貝塚で出土する骨を見ている限り、食べている魚の種類は今とそれほど変わらなかったようだ。 けれども北極圏ではもっと極端に暖かくて、なんとブリや造礁サンゴまであったという。現在では
-
前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。 (前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当
-
G7貿易相会合が開かれて、サプライチェーンから強制労働を排除する声明が発表された。名指しはしていないが、中国のウイグル新疆自治区における強制労働などを念頭に置いたものだとメディアは報じている。 ところで、これらの国内の報
-
「リスクコミュニケーション」という考えが広がっています。これは健康への影響が心配される事柄について、社会で適切に管理していくために、企業や行政、専門家、市民が情報を共有し、相互に意見交換して合意を形成していくことを言います。
-
ウォール・ストリート・ジャーナルやフォーブズなど、米国保守系のメディアで、バイデンの脱炭素政策への批判が噴出している。 脱炭素を理由に国内の石油・ガス・石炭産業を痛めつけ、国際的なエネルギー価格を高騰させたことで、エネル
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 地球温暖化による大雨の激甚化など起きていない。 今回のI
-
第1回「放射線の正しい知識を普及する研究会」(SAMRAI、有馬朗人大会会長)が3月24日に衆議院議員会館で行われ、傍聴する機会があった。
-
どういう意図か、政界を引退したはずの小泉純一郎元首相が「ごみ捨て場がないから原発は止めようよ」と言い出した。朝日新聞は脱原発の援軍が現れたと思ったのか、飛びついた。10月5日付朝刊の「原発容認、自民党から異議あり」、10月30日付朝刊は「小泉劇場近く再演?」など尻馬に乗った記事を載せた。見出しは週刊誌的で面白いが中身はない。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間