福島での処理水海洋放出は実質無害
福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出することについて、マスコミがリスクを過大に宣伝して反対を煽っているが、冷静に考えてみれば、この海洋放出は実質無害であることが分かる。
例えば、中国産の海産物を例にとってみてみよう。
中国大陸の東シナ海沿岸には、原子力発電所が49基設置され、運転されている(図1)。この運転で海洋に放出されるトリチウムは、1基・1年あたりおよそ40兆ベクレル、49基ではおよそ2000兆ベクレルとなる。10年分では、2京ベクレルという数字だ。これだけのトリチウムの海洋放出がなされていても、その海で漁獲された上海ガニ・アサリは日本において普通に食卓を賑わせている。

図1:Nuclear Plants in China / World Nuclear Association
ウナギも、その稚魚(シラスウナギ)が西太平洋フィリピン沖のマリアナ海溝で生まれて、東シナ海を横切って中国大陸の河川にたどり着いているので、トリチウム放出海域を通過している(図2)。成長して漁獲されたウナギは日本において普通に食卓を賑わせている。

図2:うなぎの旅路 / 国土技術政策総合研究所 海洋環境研究室資料より
これらの中国産海産物に対して、日本で特に放射線の影響などを議論することはなく、食生活の一貫として食卓に取り入れてきている。
つまり、原子力発電所からのトリチウム放出は実質無害であると言って良い。日本で議論になっている福島のトリチウムは、これまでにタンクに蓄積された総量がおよそ1000兆ベクレル、これを15年掛けて放出するとすれば、1年あたりおよそ70兆ベクレルとなり、中国の東シナ海への1年間の放出量(=2000兆ベクレル)の30分の1程度である。(計算は省略するが、蓄積されたトリチウムの総重量は、およそ18グラムである。)
まして、福島での海洋放出は、基準値よりもずっと低い値まで希釈をし、放出量を監視しながら放出するのであるから、さらに実質無害である。
福島の美味しい魚を日本の皆んなが楽しんで食べることによって、風評被害を無くし、ご苦労して来られた漁業関係者の方々に安堵が訪れることを願わずにはおられない。

関連記事
-
低線量の電離放射線被曝による発がんリスクについては、議論が分かれる。低線量ではデータが正確ではなく、しばしば矛盾するため、疫学的方法のみでは評価することはできない。
-
英国のエネルギー政策をめぐる政府部内の対立は、オズボーン財務大臣対デイビー・エネルギー気候変動大臣の対立のみならず、連立与党である保守党対自民党の対立でもあった。
-
福島第1原発事故から間もなく1年が経過しようとしています。しかしそれだけの時間が経過しているにもかかわらず、放射能をめぐる不正確な情報が流通し、福島県と東日本での放射性物質に対する健康被害への懸念が今でも社会に根強く残っています。
-
「口では福島支援と言いながらちっとも支援していない」。原子力規制委員会の田中俊一委員長は9月11日の記者会見で、福島第一原発事故の汚染水漏れで福島県や近県の水産物を敬遠する動きが国内外で強まっていることに不満を示した。
-
9月29日の自民党総裁選に向け、岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏、野田聖子氏(立候補順)が出そろった。 主要メディアの報道では河野太郎氏がリードしているとされているが、長らくエネルギー温暖化政策に関与してきた身からすれ
-
3.11福島原発事故から二年半。その後遺症はいまだに癒えておらず、原子力に対する逆風は一向に弱まっていない。このような状況で、原子力の必要性を口にしただけで、反原発派から直ちに「御用学者」呼ばわりされ、個人攻撃に近い非難、誹謗の対象となる。それゆえ、冒頭で敢えて一言言わせていただく。
-
国会の事故調査委員会の報告書について、黒川委員長が外国特派員協会で会見した中で、日本語版と英語版の違いが問題になった。委員長の序文には、こう書かれている
-
(GEPR編集部より)この論文は、日本学術会議の機関誌『学術の動向 2014年7月号』の特集「社会が受け入れられるリスクとは何か」から転載をさせていただいた。許可をいただいた中西準子氏、同誌編集部に感謝を申し上げる。1.リスク受容の課題ここで述べるリスク受容の課題は、筆者がリスク評価研究を始めた時からのもので、むしろその課題があるからこそ、リスク評価の体系を作る必要を感じ研究を始めた筆者にとって、ここ20年間くらいの中心的課題である。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間