誰も真面目にやっていないカーボンニュートラル

2021年05月09日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

2050年にCO2ゼロという昨年末の所信表明演説での宣言に続いて、この4月の米国主催の気候サミットで、菅首相は「日本は2030年までにCO2を46%削減する」ことを目指す、と宣言した。

Olivier Le Moal/iStock

これでEU、米国・カナダ、日本といった先進国は、軒並み2030年までにCO2をほぼ半減すると宣言した訳だ。

だが宣言はしたけれど、全然、政策の実体が伴っていない。

そう指摘するのは、欧州の環境NGOであるClimate Action Tracker(CAT)である。

CATは1.5℃という気温の目標を実現するためには「2030年CO2半減および2050年CO2ゼロ」という排出の目標を実現する必要があると考えている。

しかしながら、CATのホームページのマップを見ると、EU、米国・カナダ、日本のいずれも、1.5℃目標を達成する見込みの国はゼロだ。このことは、図中で、黄緑色の先進国が全く無いことから分かる。

図 気温目標を達成する見込み。図はCATによる。色分けは、黒:決定的に不足、赤:かなり不足、橙:不足、黄:2℃目標に整合、黄緑:1.5℃目標に整合、緑:理想的。

それどころか、1.5℃よりは緩い2℃という目標ですら、それに整合する先進国はゼロであることが、黄色に塗られた国が無い事から分かる。

この分析がどこまで正しいかは、今回は措いておく。

だがはっきり分かることは、

どの国も、威勢の良い目標を言っているだけで、全然真面目に達成しようとしていない。

ということだ。

だいたい、2030年半減とか、2050年ゼロなど、少し技術のことを知っていれば、不可能だということはすぐに分かることだ。

日本人は真面目なので、「2030年にCO2を46%削減しなければならない」と本当に思い詰めている人が多い。けれど、現実はこのようなものだ。よく世界を見渡して、貧乏くじを引かないように気を付けないといけない。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 11月1日にエネルギーフォーラムへ掲載された杉山大志氏のコラムで、以下の指摘がありました。 G7(主要7カ国)貿易相会合が10月22日に開かれて、「サプライチェーンから強制労働を排除する」という声明が発表された。名指しは
  • MMTの上陸で、国債の負担という古い問題がまた蒸し返されているが、国債が将来世代へのツケ回しだという話は、ゼロ金利で永久に借り換えられれば問題ない。政府債務の負担は、国民がそれをどの程度、自分の問題と考えるかに依存する主
  • 以前、世界全体で死亡数が劇的に減少した、という話を書いた。今回は、1つ具体的な例を見てみよう。 2022年で世界でよく報道された災害の一つに、バングラデシュでの洪水があった。 Sky Newは「専門家によると、気候変動が
  • 漢気(おとこぎ)か? 最期っ屁か? 一連の報道を見て思う。フジテレビの経営首脳陣は、本当に「真の髄から腐っている」と言わざるを得ない。 顔ぶれを見れば、ほとんどが高齢の男性ばかり。ダイバーシティの欠片もなく、女性は不在。
  • 12月にドバイで開催されたCOP28はパリ協定発効後、最初のグローバル・ストックテイクが行われる「節目のCOP」であった。 グローバル・ストックテイクは、パリ協定の目標達成に向けた世界全体での実施状況をレビューし、目標達
  • 系統用蓄電池の敷設が急速に進んでいる。 その背景には、2050年脱炭素に向けて太陽光パネルによる発電がますます重要性を増し、その普及が拡大し続けているという事実がある。その結果、大規模な環境破壊や人工的な災害の発生源とし
  • 「電力システム改革」とはあまり聞きなれない専門用語のように思われるかもしれません。 これは、電力の完全な自由化に向けて政府とりわけ経済産業省が改革の舵取りをしています。2015年から2020年にかけて3ステップで実施され
  • 2025年4月28日にスペインとポルトガルで発生した停電以降、ヨーロッパの発電状況を確認できるサイト「Energy-charts」を時折チェックしています。そこで気づいたことがあります。 NetZero推進派の人たちがよ

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑