サウジアラビア:サルマン国王生前退位か
(GEPR編集部より)サウジアラビアの情勢は、日本から地理的に遠く、また王族への不敬罪があり、言論の自由も抑制されていて正確な情報が伝わりません。エネルギーアナリストの岩瀬昇さんのブログから、国王の動静についての記事を紹介します。(元の原稿はこちら)
以下本文
すぐには信憑性が確認できないが、もしそうなったら中東はさらなる激動に襲われるのではないか、というニュースが報じられている。
英国の有力紙 “Sunday Times” が1月17日 “Saudi king ‘plots to bypass nephew’ in handover of crown” と題して報じているものだ。”Sunday Times” を検索すると、ある箇所からは有料となっている。念のために同題で検索してみたら、元ネタと思われる記事に遭遇した。1月13日付で “the Institute of Gulf Affairs” なるものが Adam Whitcomb の名前で、全く同じタイトルで報じているのだ。そしてこの元ネタは在ワシントンのシーア派反体制派のサウジの一族の出身であるAli al-Ahmadが自らのThe Institute of Gulf Studiesのウェブサイトに掲載したもの。Whitcombは何らかの補助をしただけと思われる。“Sunday Times” が「反政府派に支援されているGulf Instituteの発表」としているが、この手の話題は反政府派からしか出て来ない類のものだろう。
要点をまとめると次のようになる。昨年1月23日に即位したサルマン国王(80歳)は、4月29日に腹違いの弟で第一皇太子だったムクリン(母はイエメン系)を解任し、第二皇太子だった同腹の兄の息子(甥)のモハマッド・ビン・ナイーフ(MBN、56歳)を第一皇太子とし(内務大臣)、最愛の息子モハマッド・ビン・サルマン(MBS、30歳)を第二皇太子(国防大臣兼経済開発評議会議長)に任命し、今日を迎えていることは読者の皆さんもご存知のとおりだ。
サルマン国王は、サウジ国家の「安定」のため、これまでのlateral or diagonal(横または斜め)に王位を継承してきたルールを改め、vertical(垂直)なものとすべきだと、「兄弟」たちのところを巡り、説いて回っている。すでに数億ドルの金も使っている。ヨルダン王制の例を出して、正当なることを主張している。カタールの前首長 Hamed bin Khalifah Al’Thaniも2013年に生前退位し、息子に王位を譲っている。
ひとつの根拠としているのは、噂ではコカインを愛飲していたため、MBNのところには娘が2人いるだけで息子がいないという事実だ。MBSには2人の娘と2人の息子がいる。
かつての兄王たち、アブドラ、ファハド、カリド、サウドの場合も、国王として逝去した後、息子たちは全員、要職を外されている。サルマン国王はこれも心配している。
サルマン国王が生前退位するタイミングについては、情報筋は言及していないが、数週間以内では、と見られている。一方、米国政府筋は、この夏だろう、としている。
いやはや、大変な変化だ。
サウジ事情に詳しい友人によると、サウジはこれまでも「長老たち」がカーテンの裏で調整に調整を重ね、全員が合意できる形で穏やかな変化を推し進めて来た。今回も、サルマン国王の独断専行ではなく、王族長老たちが納得できる形で進んで行くだろう、という。
だが、筆者は王位継承権を持つプリンスが1000人以上となった今日では、これまでのような「長老による調整」がスムースに行われるだろうか、と疑問に思っている。
特に、原油価格大幅下落による国家財政の悪化が、さらに「長老による調整」を困難にするのではなかろうか?
さて、読者の皆さんはどうお考えになるだろうか?
(2016年2月1日掲載)
![This page as PDF](https://www.gepr.org/wp-content/plugins/wp-mpdf/pdf.png)
関連記事
-
去る10月8日、経済産業省の第23回新エネルギー小委員会系統ワーキンググループにおいて、再生可能エネルギーの出力制御制度の見直しの議論がなされた。 この内容は、今後の太陽光発電の運営に大きく関わる内容なので、例によってQ
-
「GEPR」を運営するアゴラ研究所は、インターネット放送「言論アリーナ」を提供しています。9月3日は1時間にわたって「地球は本当に温暖化しているのか--IPCC、ポスト京都を考える」(YouTube)を放送しました。その報告記事を提供します。
-
3・11の福島原子力事故は、日本のみならず世界の原子力市場に多大なる影響を及ぼした。日本では、原子力安全のみならず原子力行政そのものへの信頼が失墜した。原子力に従事してきた専門家として、また政府の一員として、深く反省するとともに、被災者・避難を余儀なくされている方たちに深くお詫び申し上げたい。
-
はじめに 原子力発電は福一事故から7年経つが再稼働した原子力発電所は7基[注1]だけだ。近日中に再稼働予定の玄海4号機、大飯4号機を加えると9基になり1.3基/年になる。 もう一つ大きな課題は低稼働率だ。日本は年70%と
-
今回も、いくつか気になった番組・報道についてコメントしたい。 NHK BS世界のドキュメンタリー「デイ・ゼロ 地球から水がなくなる日」という番組を見た。前半の内容は良かった。米国・ブラジルなど水資源に変化が現れている世界
-
温暖化問題はタテマエと実態との乖離が目立つ分野である。EUは「気候変動対策のリーダー」として環境関係者の間では評判が良い。特に脱原発と再エネ推進を掲げるドイツはヒーロー的存在であり、「EUを、とりわけドイツを見習え」とい
-
先日、デンマークの政治学者ビョルン・ロンボルクが来日し、東京大学、経団連、キャノングローバル戦略研究所、日本エネルギー経済研究所、国際協力機構等においてプレゼンテーションを行った。 ロンボルクはシンクタンク「コペンハーゲ
-
アメリカ人は暑いのがお好きなようだ。 元NASAの研究者ロイ・スペンサーが面白いグラフを作ったので紹介しよう。 青い曲線は米国本土48州の面積加重平均での気温、オレンジの曲線は48州の人口加重平均の気温。面積平均気温は過
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間