地球温暖化って何?
政府は「2050年カーボンニュートラル」という方針を決めました。これは「2050年までに温室効果ガス(特にCO2)の排出を実質ゼロにする」という意味で、そのために2030年までに46%減らすことになっています。これは地球温暖化を防ぐためということですが、どういう意味でしょうか?
Q1. 温暖化の原因は人間の活動なんでしょうか?
東大には去年、グローバル・コモンズ・センターができて、そのダイレクターの石井菜穂子さんは図1のようなスライドで「人類が地球環境危機を起こした」といっていますが、これは変ですね。
「完新世」というのは今から1万1700年前に氷河期が終わり、人類が定住し始めた時代ですが、地球の平均気温もその時期に大きく上がっています。でも1万年前に人間の出すCO2は微々たるものだったので、この図は地球温暖化が始まった原因は人間活動ではなかったことを証明しています。その逆に、温暖化で大気中のCO2が増えたのです。
Q2. 人類は地球環境を大きく変えたんでしょうか?
図1のように産業革命以降を「人新世」と呼んで、人類が地球環境を大きく変えたと思っている人は多いのですが、最大の温室効果ガスは水蒸気です。大気中のCO2濃度は0.04%ですが、水蒸気は2%なので、温室効果の48%は水蒸気で、CO2は21%です。
CO2の循環の中でも、人間活動で出るのは年間50億トン。大気中にあるCO2の1/25です。自然の大きなサイクルの中では人間活動はちっぽけなものですが、人間は今までの気温に順応して生活してきたので、それが急に変化すると困ります。人間が悪化させているのは人間の生活であって、地球の問題ではないのです。
Q3. 今は人類の歴史上いちばん暖かい時期でしょうか?
図3はアメリカの海洋気象庁(NOAA)がいろいろな研究のデータを集めたものですが、西暦1000年ごろは今とほぼ同じ気温で、中世温暖期と呼ばれています。この原因も明らかに人間活動ではなく、太陽活動が活発だったためと推定されています。今はそれと同じぐらい暖かくなっていますが、温暖化と寒冷化は周期的に繰り返しており、このままずっと暖かくなるとは限りません。
Q4. 温暖化は今までずっと起こってるんですか?
図4は気象庁のデータですが、北半球では1960年ごろから寒冷化の傾向がみられました。このため1970年代には「地球は寒冷化する」とか「氷河期に入る」という論文がたくさん発表されました。このように気候変動というのは当てにならないものです。
これについてはIPCC第5次評価報告書で「先進国の工業化による大気汚染が原因だった」と説明していますが、いま中国やインドで起こっている大気汚染の効果はよくわかりません。
Q5. 温暖化は地球上で同じように起こってるんですか?
みなさんが暖かくなったと感じる最大の原因は地球温暖化ではなく、都市化によるヒートアイランド現象です。この原因は道路が舗装され、建物がコンクリートになって熱を吸収しなくなり、工場や自動車などの排熱が増えたためです。東京の平均気温はこの100年に3℃上がりましたが、そのうち地球温暖化は0.74℃と推定されています。
Q6. 異常気象は増えてるんですか?
NOAAの調べでは、図6のように世界中で20世紀にハリケーンなどの異常気象が増える傾向は見られませんが、大雨の回数は少し増えています。
Q7. 自然災害の被害は増えたんですか?
大きく減りました。EMDAT(国際災害データベース)によると、図7のように自然災害の死者は、1920年代の年間55万人から2010年代には5万人に減りました。自然災害による死者は、この100年で92%も減ったのです。これは災害が減ったからではなく、途上国の災害対策が整備されたからです。
Q8. 温室効果ガスはCO2だけですか?
ちがいます。世界の温室効果ガスのうち、メタンは15.8%(CO2換算)を占めます。これはメタンの温室効果が、CO2の28倍と高いためです。メタンのうち最大の24%を占めるのが、消化管内発酵つまり家畜のゲップやオナラです。
Q9. 地球温暖化で農産物の生産は減るんですか?
増えます。国連農業機関(FAO)のシナリオによると、2050年の世界の食糧生産は、何もしないと今より25%増えますが、畜産から温室効果ガスの15%が出ているので、それを削減すると増加率が12%に下がります。
CO2は植物の生長に不可欠で、温暖化すると収穫は増えますが、温暖化を避けるために「サステイナブルな農業」に転換すると食糧生産は減ります。つまり食糧生産は温暖化で減るのではなく、温暖化対策で減るのです。
Q10. 温暖化で確実に起こることは何ですか?
海面が上昇することです。地球の平均気温は2100年までに2℃ぐらい上がると予想されていますが、これによって海面が中央値で48cmぐらい上がるでしょう。これは毎年6mmの上昇で、満潮と干潮の差は1.5mあるので堤防で防げます。
このように地球温暖化は、日本では大した問題ではありませんが、熱帯の途上国では大きな問題です。だからこれは開発援助の問題ですが、その方法としてCO2削減の効果は不確実性が大きく、コストが膨大なので、効率が悪いと思います。
この他にも質問があれば、アゴラサロンで受け付けます(初月無料)。
関連記事
-
2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、様々な面で世界を一変させる衝撃をもたらしているが、その中の一つに、気候変動対策の世界的な取り組みを規定するパリ協定への悪影響への懸念がある。 人類が抱える長期の課題である
-
米ホワイトハウスは、中国などCO2規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」について、支持を見合わせている(ロイター英文記事、同抄訳記事)。(国境炭素税について詳しくは手塚氏記事を参照) バイデン大統領は
-
本年1月に発表された「2030年に向けたエネルギー気候変動政策パッケージ案パッケージ案」について考えるには、昨年3月に発表された「2030年のエネルギー・気候変動政策に関するグリーンペーパー」まで遡る必要がある。これは2030年に向けたパッケージの方向性を決めるためのコンサルテーションペーパーであるが、そこで提起された問題に欧州の抱えるジレンマがすでに反映されているからである。
-
翻って、話を原子力平和利用に限ってみれば、当面の韓米の再処理問題の帰趨が日本の原子力政策、とりわけ核燃料サイクル政策にどのような影響を及ぼすだろうか。逆に、日本の核燃料サイクル政策の変化が韓国の再処理問題にどう影響するか。日本ではこのような視点で考える人はあまりいないようだが、実は、この問題はかなり微妙な問題である。
-
原子力規制委員会が原発の新安全設置基準を設けるなど制度の再構築を行っています。福島原発事故が起こってしまった日本で原発の安全性を高める活動は評価されるものの、活断層だけを注視する規制の強化が検討されています。こうした部分だけに注目する取り組みは妥当なのでしょうか。
-
ついに出始めました。ニュージーランド航空が2030年のCO2削減目標を撤回したそうです。 ニュージーランド航空、航空機納入の遅れを理由に2030年の炭素排出削減目標を撤回 大手航空会社として初めて気候変動対策を撤回したが
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難②) 田中 雄三 ドイツ事例に見る風力・太陽光発電の変動と対策 発展途上国で風力・太陽光発電の導入は進まない <問題の背景> 発展途上国が経済成長しつつGHGネットゼロを目指すな
-
オーストラリア環境財団(AEF)は、”グレートバリアリーフの現状レポート2024(State of the Great Barrier Reef 2024 )”を発表した(報告書、プレスリリース)
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間