国際エネルギー機関IEAが環境運動に乗っ取られた

2021年06月02日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

国際エネルギー機関の報告書「2050年実質ゼロ」が、世界的に大きく報道されている

IEA本部 IEA公式HPより

この報告書は11 月に英国グラスゴーで開催される国連気候会議(COP26 )に向けての段階的な戦略の一部になっている。

IEAの意図は今年1月に発表されていた。ただその時点では、メディアはコロナ一色で、全く取り上げられることは無かった。

「国際エネルギー機関は本日、2050年までにエネルギー部門が実質ゼロ排出を達成するための世界初の包括的なロードマップを作成する、と発表しました。これにより、世界のクリーンエネルギーへの移行におけるIEAのリーダーシップがさらに強化されます。」

このIEA の計画は英国政府の要請によるものだ:

「COP26議長国(=英国)の公式の要請に従って、IEAは、2050年までに世界の実質ゼロ排出を達成するための、エネルギー部門の包括的な道筋を示す。新しい特別報告書は、政策の必要性、技術開発・普及のニーズ、必要な投資、経済的な便益および幅広い影響を調査する。
新しい特別報告書”2050年までの実質ゼロへの世界のロードマップ”では 、エネルギー部門を完全に脱炭素化し、1.5℃の気温目標に沿った軌道に乗せるために、政府、企業、投資家、市民に必要な行動を詳細に説明する。 これは、世界的なエネルギーと気候の目標を達成するための取り組みを支援する一連の新しい IEA のプロジェクトの一部である。」

COP26の議長を務める英国のアロック・シャーマもその意図を述べている:

「この新しいロードマップは5月18日にリリースされる。これは英国が議長を務めるグラスゴーでのCOP26サミットに政治的な勢い(モメンタム)をもたらすものだ。2050年までに世界の実質ゼロ排出を達成する道筋を示すIEAの計画は、気候を守る行動のための重要な一歩である。これにより、目標を達成するために各国が個別にまたは協力して取らねばならない行動を明らかにするものだ。」

報告書の中身は太陽光発電・風力発電や電気自動車の大量導入など、過激な環境運動家が言っていることと全く同じだ。特に「石油・天然ガス開発は今後は不要」などとしている点が注目され報道された

元来、IEA は1973 年の石油危機を受けて、OPECに対抗するために設立された先進国の組織である。OPECによる石油の供給途絶や価格上昇に備えるために、先進国の石油開発を進め、石油備蓄を行い、省エネルギーを進め、また代替エネルギーとして石炭、天然ガス、原子力、太陽光発電などを推進してきた。

しかし今般の報告書を見ると、IEAは過激な環境運動組織に乗っ取られてしまい、エネルギーの安定供給を脅かす存在になってしまったようだ。

地球温暖化のファクトフルネス

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 国際エネルギー機関(IEA)は、毎年、主要国の電源別発電電力量を発表している。この2008年実績から、いくつかの主要国を抜粋してまとめたのが下の図だ。現在、日本人の多くが「できれば避けたいと思っている」であろう順に、下から、原子力、石炭、石油、天然ガス、水力、その他(風力、太陽光発電等)とした。また、“先進国”と“途上国”に分けたうえで、それぞれ原子力発電と石炭火力発電を加算し、依存度の高い順に左から並べた。
  • 「海面が上昇する」と聞くと、地球温暖化を思い浮かべるかもしれない。しかし、地下水の過剰な汲み上げなどにより地盤が下がる「地盤沈下」によっても、海面上昇と類似の現象が生じることは、あまり知られていない。 2014年に公開さ
  • 最近出たお勧めの本です。 著者のマイケル・シェレンバーガーは初めは環境運動家だったが、やがてその欺瞞に気づき、いまでは最も環境に優しいエネルギーとして原子力を熱心に推進している。 地球温暖化に関しては小生とほぼ意見は同じ
  • 先月政府のDX推進会議で経産省は革新的新型炉の開発・建設を打ち出したが、早くもそれを受けた形で民間からかなり現実味を帯びた具体的計画が公表された。 やはり関電か 先に私は本コラムで、経産省主導で開発・建設が謳われる革新的
  • 米国農業探訪取材・第3回・全4回 第1回「社会に貢献する米国科学界-遺伝子組み換え作物を例に」 第2回「農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?」 技術導入が農業を成長させた 米国は世界のトウモロコシ、大豆の生産で
  • 本日はメルマガとnoteの日。noteは単体だと110円ですが年間のマガジンだと4054円なのでかなりお得になります。マガジンがオススメです。w 1 仙台市のラーメン屋の起死回生策 2 わたしのライフスタイルを実現するた
  • 女児の健やかな成長を願う桃の節句に、いささか衝撃的な報道があった。甲府地方法務局によれば、福島県から山梨県内に避難した女性が昨年6月、原発事故の風評被害により県内保育園に子の入園を拒否されたとして救済を申し立てたという。保育園側から「ほかの保護者から原発に対する不安の声が出た場合、保育園として対応できない」というのが入園拒否理由である。また女性が避難先近くの公園で子を遊ばせていた際に、「子を公園で遊ばせるのを自粛してほしい」と要請されたという。結果、女性は山梨県外で生活している(詳細は、『山梨日日新聞』、小菅信子@nobuko_kosuge氏のツイートによる)。
  • よく日本では「トランプ大統領が変人なので科学を無視して気候変動を否定するのだ」という調子で報道されるが、これは全く違う。 米国共和党は、総意として、「気候危機説」をでっちあげだとして否定しているのだ。 そしてこれは「科学

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑