僭越ながら日経エネルギーNext特集記事に補足する
NSのタイムラインに流れてきたので何気なく開いてみたら、たまたま先日指摘した日経エネルギーNextさんの特集の第2回でした。
こちらも残念かつ大変分かりにくい内容でしたので、読者諸兄が分かりやすいよう僭越ながら補足いたします。
「脱炭素の第一歩、再エネ電力へはこう切り替える」という特集記事を読みたい読者にとって最も有益な情報は以下の2か所だと思われます。
その後、再エネ電力メニューを提供している電力会社3社に、見積もりを依頼しました。1社は再エネ電源を特定するメニュー、2社は非化石証書を使った再エネ電力メニューの提案でした。電源を特定するメニューは、他の提案よりも電気料金が年間10万円ほど高かったのですが、大きな差ではないと考え、電源特定メニューを選びました。
ちなみに、電源特定メニューの金額は、もともと契約していた大手電力の料金と比べると、約5%程度低い水準でした。通常の電力調達を実施した6拠点のコスト削減が10%だったことから、再エネ電力に切り替えることによるプレミアムは5%程度であることが分かりました。
一度読んだだけでは全く理解することができず、何度も読み返しました。読者の皆さんが無駄な時間を費やさないよう、私なりに整理した内容を下記します。
まず前段。7拠点のうち2拠点向けの見積もりにおいて「小水力発電+非化石証書」が475万円(金額は筆者推定)、「非化石証書のみ」が465万円(同)だったが、この印刷会社では「小水力発電+非化石証書」を選んだ、ということのようです。経営者の脱炭素意識の高さが伺えます!
続いて後段。「2拠点で再エネメニューに切り替えたら電気代も5%削減できた(筆者推定でおそらく500万円→475万円)」ということで、読者にとってはとても有益な情報です!おそらく前段よりも重要な情報なのですが、なぜか「ちなみに」で始まるおまけ扱いになっており全く響きません。さらに、本文中の「6拠点」は「5拠点」の誤りではないでしょうか。拠点の数が合わず一回読んだだけでは訳が分かりません。
なお、「再エネでもコスト削減になる」という読者にとって大変有益な情報を提供しているにもかかわらず、その直前に「5拠点でのコスト削減を原資に、残る2拠点へ再エネを導入する方法を選択した」という説明があるために矛盾が生じてしまっており、読みながら混乱してしまいます。
なぜこのように読者にとって分かりにくい文章になってしまうのでしょうか。邪推ですが、この記事で記者さんが最も言いたかったのは以下の2点なのだと思います。
ひとつ目は「5拠点が新電力に切り替えて150万円のコスト削減になった」という点。意図的ではないと思いますが「なるほど、新電力に切り替えるとコストが減って再エネになるんだ!」と勘違いする読者が出てこないか心配になります。
ふたつ目は以下の部分。
再エネ電力に切り替えても、既存契約より安くなったことは、電力自由化による恩恵を知る予期せぬ出来事でした。
読者にとっては、再エネがコスト増にならずコスト削減になるという事実が最も重要であり、「電力自由化による恩恵を知る予期せぬ出来事」なんて関心がないと思います。
おそらくこの2点を強調したいあまりに、とても分かりづらい文章になっています。この印刷会社さんはとても真面目に環境配慮や再エネ導入を考えておられると思いますので、余計に記事の内容が残念でなりません。
さて、筆者個人は無謀なカーボンニュートラル・46%削減・再エネ大量導入には断固反対の立場であり、原発再稼働や火力発電のリプレースなど経済合理性を伴う現実的な緩和策を行ったうえで、余力を水害対策や都市の高台移転といった適応策に振り向けるべきというのが持論です。しかしながら、私の周囲も含め産業界では右も左もカーボンニュートラル祭り状態で、企業の担当者は必死になって再生可能エネルギー導入について調査・検討を重ねているのです。
この状況において、「脱炭素」「再エネ」というタイトルを付けて読者を集めながら、求められている内容とは違う趣旨をねじ込むのはいかがなものでしょうか。タイトルと異なる内容+稚拙な文章で読者の貴重な時間を浪費してしまいます。
本記事や前回記事の「J-クレジット=再エネ電力に切り替えた」という表現も含め、昨今の各種メディアによる脱炭素・再エネ関連の記事や報道では曖昧な文章や悪質な表現が目立ちます。情報を求めている企業担当者はもとより、再生可能エネルギーの普及に向けて真摯に取り組んでおられる現場の方々のためにも、今後改善されることを願います。
関連記事
-
「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)非在来型ウランと核燃料サイクル アゴラ研究所、池田信夫氏の論考です。もんじゅは廃炉の方向のようですが核燃料
-
まもなく3・11から10年になる。本書は当時、民主党政権の環境相として福島第一原発事故に対応した細野豪志氏の総括である。当時の政権の誤りを反省し、今も続くその悪影響を考えている。 本人ツイッターより あの事故が民主党政権
-
福島第1原発事故から間もなく1年が経過しようとしています。しかし、放射能をめぐる時間が経過しているのに、社会の不安は消えません。
-
なぜ浮体式原子力発電所がいま熱いのか いま浮体式原子力発電所への関心が急速に高まっている。ロシアではすでに初号基が商業運転を開始しているし、中国も急追している。 浮体式原子力発電所のメリットは、基本構造が小型原子炉を積ん
-
加速するドイツ産業の国外移転 今年6月のドイツ産業連盟(BDI)が傘下の工業部門の中堅・中手企業を相手に行ったアンケート調査で、回答した企業392社のうち16%が生産・雇用の一部をドイツ国外に移転することで具体的に動き始
-
世界的なエネルギー価格の暴騰が続いている。特に欧州は大変な状況で、イギリス政府は25兆円、ドイツ政府は28兆円の光熱費高騰対策を打ち出した。 日本でも光熱費高騰対策を強化すると岸田首相の発言があった。 ところで日本の電気
-
3月9日、大津地方裁判所は、福井県の高浜原発3・4号機の運転差し止めを求める仮処分決定を行なった。その決定には、これまでにない特徴がみられる。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間