エセ科学に基く脱炭素はサブプライムローンに似る(上)

2021年07月04日 06:50
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

「2030年までにCO2を概ね半減し、2050年にはCO2をゼロつまり脱炭素にする」という目標の下、日米欧の政府は規制や税を導入し、欧米の大手企業は新たな金融商品を売っている。その様子を観察すると、この「脱炭素ブーム」はサブプライムローンのブームとよく似ている。となると、その結末も同じことになるかもしれない。

2回に分けて書こう。なお、以下文中の青いボックス内記述がサブプライムローンの話、緑のボックス内記述が脱炭素の話になっている。

<上巻・歴史編>

1. 主役は欧米の金融機関

以下、両者の共通点を見てゆこう。まず、何れも主役は欧米の投資銀行などだ。

サブプライムローンで巨額の損失を抱えたのは、シティグループ、JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザースなどの欧米の投資銀行や証券会社などだった。

同じような顔ぶれの企業が、ESG投資ファンドやグリーンボンドなど「CO2の削減に資する」とされる金融商品を次々と開発して販売している。環境に優しいという触れ込みで富裕層には人気があるらしい。年金ファンドなどの公的金融機関もそのような金融商品を購入している(以上の経緯は藤井良広著「サスティナブルファイナンス」に詳しい)。

2. 似非科学で人を煙に巻く

サブプライムローンは、所得が低くて返済能力が乏しい人に無理に巨額の住宅ローンを勧めるものだった。銀行とは本来は慎重な審査をするもので、そのような危なっかしい融資はしない。

だが怪しげなローンを多数まとめて証券化すればリスクが低くなるという金融工学の理論によってそのような貸し付けが正当化された(山崎元氏記事加藤峰弘氏記事)。

格付け機関はそのような怪しげな証券の格付けを高くした(根津利三郎氏記事)。

多くの投資家がその中身も解らずに格付けを信じて証券を購入した。

“地球温暖化の「科学は決着」しており、このままだと地球温暖化が暴走して破局が訪れる。これを避けるためには2030年にCO2を半減、2050年にCO2をゼロにしなければならない”――という説が流布されているが、そんな極端なCO2削減を正当化するほどの科学的知見はどこにもない。

これまでのところ、台風やハリケーンは激甚化などまったくしていないことは統計を見れば明らかだ。将来予測はコンピューターシミュレーションによるものだが、過去もろくに再現できないシミュレーションであり、将来を予言する能力など無い。

3. ホラ話でブームを煽る

サブプライムローンは、「素晴らしい金融工学の発明のおかげで、所得の低い人でも豪華なマイホームを購入できるようになり、投資家には新たな低リスク・高リターンの投資が提供されるようになった」と宣伝された。

「気候変動は起きており、災害は激甚化しており、このままでは地球が破滅する」という不吉な予言は、BBC、ドイツ国営放送、CNN、NHKなどのリベラルメディアによって振りまかれ、それを信じる人々が多くなってしまった。

サブプライムローンも脱炭素も、本当に良いことだと思って推進してきた人も大勢いる。けれども、私利私欲で推進してきた人も大勢いる。そして、知ってか知らずか、結局のところは集団幻想を振りまき、社会の害毒となっている。

4. 政府に圧力をかけて自分が儲かるようにする

欧米の金融機関は、閣僚や高級官僚にも人を送り込み、サブプライムローンに対する監督強化を行わせなかった。むしろ、規制を少しでも緩和して、利益が増えるように圧力をかけた。

“市場秩序の維持や情報開示の徹底を図るべき米国証券取引委員会(SEC)や英国金融サービス機構(FSA)が,自国の金融市場の振興役になった。規制監督当局は,金融業者による制度裁定の脅しに屈し政府自身の役割を放棄した(渡部亮氏記事)“。

いま多くの金融機関が、CO2削減のために炭素税を導入し、再生可能エネルギーと電気自動車には莫大な補助金をばらまくよう、政府に要望をしている。これは、庶民の負担のもとで、自分たちが儲ける構図を作ることに他ならない。
ESG投資に関しては金融機関への規制を緩めるべきだという意見も出ている。ただしこれは金融システムの安定性を損なうとして、まだ慎重論も多いようだ。

次回は下巻・未来編を書く。

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、格納容器の外部での水素爆発により、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。 しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。チェルノブイリでは、原子炉全体が崩壊し、高熱で、周囲のコンクリ―ト、ウラン燃料、鋼鉄の融け混ざった塊となってしまった。これが原子炉の“メルトダウン”である。
  • 10月22日、第6次エネルギー基本計画が7月に提示された原案がほぼそのままの形で閣議決定された。菅前政権において小泉進次郎前環境大臣、河野太郎前行革大臣の強い介入を受けて策定されたエネルギー基本計画案がそのまま閣議決定さ
  • 英国のグラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されている。 脱炭素、脱石炭といった掛け声が喧しい。 だがじつは、英国ではここのところ風が弱く、風力の発電量が不足。石炭火力だのみで綱渡りの電
  • 福島原発事故の後で、日本ではエネルギーと原子力をめぐる感情的な議論が続き、何も決まらず先に進まない混乱状態に陥っている。米国の名門カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授であるリチャード・ムラー博士が来日し、12月12日に東京で高校生と一般聴衆を前に講演と授業を行った。海外の一流の知性は日本のエネルギー事情をどのように見ているのか。
  • 文藝春秋の新春特別号に衆議院議員の河野太郎氏(以下敬称略)が『「小泉脱原発宣言」を断固支持する』との寄稿を行っている。その前半部分はドイツの電力事情に関する説明だ。河野は13年の11月にドイツを訪問し、調査を行ったとあるが、述べられていることは事実関係を大きく歪めたストーリだ。
  • 原発事故当時、東京電力の福島第1原発所長だった、吉田昌郎氏が7月9日に亡くなった。ご冥福をお祈りします。GEPRでは、吉田氏にインタビューしたジャーナリスト門田隆将氏の講演。
  • 政府エネルギー・環境会議から9月14日に発表された「革新的エネルギー・環境戦略」は2030年代に原子力発電ゼロを目指すものであるが、その中味は矛盾に満ちた、現実からかけ離れたものであり、国家のエネルギー計画と呼ぶには余りに未熟である。
  • きのうの日本記者クラブの討論会は、意外に話が噛み合っていた。議論の焦点は本命とされる河野太郎氏の政策だった。 第一は彼の提案した最低保障年金が民主党政権の時代に葬られたものだという点だが、これについての岸田氏の突っ込みは

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑