寿都町長選と高レベル放射性廃棄物処分の問題
寿都町長選
世の中は総選挙の真っ只中である。そんな中、北海道寿都町で町長選が10月26日に実施された。
争点は、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の最終処分場選定に関わる『文献調査』を継続するか否かであった。
結果は、文献調査への応募を主導した現職の片岡春雄氏が、文献調査を中止するとした越前谷由樹氏を破って、6選を果たした。
得票数は片岡氏が1135票、越前谷氏は900票。投票率は84.07%であった。
この結果について、片岡氏の〝僅差〟での勝利と評するメディアもある。片岡氏本人も、自分の想定以上に差が縮まったと所感を述べている。しかし、反原発勢力の凄まじいプロパガンダという逆風を思えば、大勝といってもよいと私は思う。

産経新聞:北海道寿都町長選、「核のごみ」調査推進派の現職当選 より
北海道寿都町長選、「核のごみ」調査推進派の現職当選(産経新聞)
反対派の目論見:小泉プロパガンダ
反原発派は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定をストップさせることで、核燃料サイクル、そして、原子力発電そのものを死の淵に追いやろうとしている。最終処分地が決まらなければ、全国の原子力発電所にある使用済み燃料の行き場がなくなり、核燃料サイクルは回らなくなる。それは、原子力発電の死を意味するのだ。
プロパガンダの代表は小泉純一郎氏の『日本にはオンカロがない』というワンフレーズ。「オンカロ」は、フィンランドにある最終処分場の呼称である。
私は、最終処分の問題に長年取り組んでおり、日本の研究施設(岐阜県瑞浪市、北海道幌延町)の地下坑道にも幾度も潜ってきた。2019年にはオンカロを視察する機会を得た。私はオンカロの地下坑道を仔細に観て、『日本にもオンカロはできる』と確信を持った。

オンカロの坑道にて(前列右から2人目が筆者、2019年9月)
文献調査から先へ
寿都町は文献調査を続けることになったが、期間は2年なので来年の11月にはその次の概要調査に進むかどうかが判断される。概要調査に進むには、まず住民(町民)の賛意がなければならない。そのために住民投票が行われる見込みである。
10月中旬に、同じく文献調査を受け入れている神恵内村の髙橋村長と住民(2名)を囲むWEB交流会に参加した。全国70カ所からの参加者が村長と住民の話を聞き、意見交換がなされた。その際、参加者から感謝の言葉とエールが多く寄せられた。髙橋村長の率直な感想は、「全国にこんなに多くの応援団がいるとは知らなかった。こういうWEB交流会なら毎日でもやりたい」ということであった。
私たちは、寿都町や神恵内村と「核のごみ」問題をめぐる情報を共有し、問題と向き合うマインドを共有していかなければならないと思う。文献調査に手をあげた2町村の住民のみなさんを孤立させてはいけない。そのための手立てはいくつもあると思う。
全国的な広がりを
寿都町の片岡町長は、これまで20年の町政でともかくもあの手この手で町の発展を推し進めてきたという。そのような取り組みの一つとして、寿都湾沿いを中心に風力発電事業を興したことはよく知られている。文献調査に名乗りを上げたのも町の発展をひたすら願ってのことである。
当選から一夜明けて、片岡町長は「概要調査は、可能性を知る意味で悪い調査ではないのでは」とインタビューに応えている。信念と意気を感じた。
全国の潜在的な応援団のエールが、北海道の寿都町、神恵内村に今後ますます多く届き、それと同時に、文献調査に手をあげる自治体がもっと増えるような手立てを、政治、行政、事業者のみならず、広く国民的議論のもと、「核のごみ」問題の解決に向けて考えていくことを強く望みたい。

関連記事
-
はじめに 本記事は、エネルギー問題に発言する会有志4人(針山 日出夫、大野 崇、小川 修夫、金氏 顯)の共同作成による緊急提言を要旨として解説するものである。 緊急提言:エネルギー安定供給体制の構築を急げ!~欧州発エネル
-
はじめに 欧州の原子力発電政策は国ごとにまちまちである。昔は原子力発電に消極的だったスウェーデンが原子力発電を推進する政策を打ち出しているのもおどろきだが、ドイツの脱原発政策も異色である。 原子力発電政策が対照的なこの2
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 論点⑫に「IPCCの気候モデルは過去の気温上昇を再現でき
-
気候科学の第一人者であるMITのリチャード・リンゼン博士は、地球温暖化対策については “何もしない “べきで、何かするならば、自然災害に対する”強靭性 “の強化に焦点を当て
-
なぜか今ごろ「東電がメルトダウンを隠蔽した」とか「民主党政権が隠蔽させた」とかいう話が出ているが、この手の話は根本的な誤解にもとづいている。
-
昨年の11月に米国上院エネルギー・天然資源委員会(U.S. Senate Committee on Energy and Natural Resources委員長はJohn Barrasso上院議員、ワイオミング州選出、
-
18世紀半ばから始まった産業革命以降、まずは西欧社会から次第に全世界へ、技術革新と社会構造の変革が進行した。最初は石炭、後には石油・天然ガスを含む化石燃料が安く大量に供給され、それが1960年代以降の急速な経済成長を支え
-
藤原かずえ 1月14日の「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」において、環境基準を超過する多数の汚染物質の濃度計測値が公表されました。この日の会議資料が公開されたのちに詳細に検討してみたいと思いますが、まず
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間