IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

IakovKalinin/iStock
IPCC報告では地球温暖化はCO2等の温室効果(とエアロゾルの冷却効果)によって起きていて、長期的な大気・海洋の自然振動の影響は殆ど無いとしている。
けれども、最近の衛星観測によると、海洋の振動の影響は、かなり大きそうだ。
太陽光は可視光などの短波長(Short Wave, SW)で地球に入射する。
これをCO2の効果と比較しよう。CO2による温室効果(放射強制力という)は、2011年時点において、1750年に比べて1平方メートルあたり1.68ワットだった(IPCC 2013)。
ということは、これまでの人類の累積のCO2排出による温室効果に匹敵する様な”温室効果”が、僅か数年のうちに、雲の変化によって発生していたことになる!
ではこのSWの増大をもたらした雲の変化の原因は何か。
海洋の変動に伴う海面温度の上昇によって、低層雲が減少し、太陽光の反射が減少した、と見られている。じっさいに、図2のように、海洋の振動を示す指標(太平洋10年振動指数PDO、エルニーニョ指数 Nino 3.4、海面平均温度SST)は、何れも2014年ごろに符号を変化させている。

図1 Loeb 論文

図2 Loeb 論文
さて2000年から2013年の間は地球の気温の上昇が停止して「ハイエイタス(停滞)」と呼ばれていたが、2014年以降に急激に上昇した。この急激な上昇はCO2の増加ではなく(CO2は急に上昇などしない)、海洋の振動に伴うものだったことが、図1図2から裏付けられた。
更に、海洋の振動と地球の気温の関係はもっと長期に渡るものだ、と指摘をする論文もある。
図3を見ると、海洋が蓄える熱量(Enthalpy)は、大西洋数十年規模振動(AMO)指数が高いときに急激に増える。地球が蓄える熱量の9割は海洋が蓄えるので、海洋が蓄える熱量とは、地球が蓄える熱量の増加とほぼ同じことである。
図3のBの時期にも、最近数十年とほぼ同じペースで、地球の気温は急激に上昇していたが、その後の1950-1985年ごろまでは気温は停滞していた。現在はCの時期だが、もしもこの熱量蓄積がAMOで駆動されているとすると、今後AMOが負に変化すれば、1980年代後半から起きてきた気温の上昇も、数十年にわたり止まるのかもしれない。
まとめると、AMOなどの自然振動によって、雲の量が制御され、地球の気温に大きな変化をもたらしているのかもしれない。地球温暖化の原因をCO2などの温室効果だけと決めつけるのはどうもまだ早計なようだ。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
■
関連記事
-
前回、AIは気候危機プロパガンダを教え込まれていて、それをとっちめると、誤りを認めたという話を書いた。 そこで紹介した論文 Artificial Intelligence Systems (AI) Are Program
-
2025年5月22日、米下院はトランプ大統領が「One Big Beautiful Bill(ビッグ・ビューティフル・ビル)」と呼ぶ歳出・歳入一括法案を、賛成215、反対214(棄権1)で可決した。 本法案の柱は、大規模
-
東日本大震災と福島原発事故から4年が経過した。その対応では日本社会の強み、素晴らしさを示す一方で、社会に内在する問題も明らかにした。一つはデマ、流言飛語による社会混乱だ。
-
菅首相の所信表明演説の目玉は「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ」という目標を宣言したことだろう。これは正確にはカーボンニュートラル、つまり排出されるCO2と森林などに吸収される量の合計をゼロにすることだが、今まで日本
-
鳩山元首相が、また放射能デマを流している。こういうトリチウムについての初歩的な誤解が事故処理の障害になっているので、今さらいうまでもないが訂正しておく。 放射線に詳しい医者から聞いたこと。トリチウムは身体に無害との説もあ
-
自民党は「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減する」という政府の目標を了承したが、どうやってこの目標を実現するのかは不明だ。経産省は原子力の比率を20~22%にする一方、再生可能エネルギーを22~24%にするというエネルギーミックスの骨子案を出したが、今のままではそんな比率は不可能である。
-
エジプトで開催されていたCOP27が終了した。報道を見ると、どれも「途上国を支援する基金が出来た」となっている。 COP27閉幕 “画期的合意” 被害の途上国支援の基金創設へ(NHK) けれども、事の重大さを全く分かって
-
バイデン政権は温暖化防止を政権の重要政策と位置づけ、発足直後には主要国40ヵ国の首脳による気候サミットを開催し、参加国に2050年カーボンニュートラルへのコミットや、それと整合的な形での2030年目標の引き上げを迫ってき
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間


















