グレタが告発する「グリーンウォッシュ」の偽善
Climate activist @GretaThunberg addresses crowd at #FridaysForFuture protest during #COP26 pic.twitter.com/2wpM9GN4ZM
— Reuters (@Reuters) November 5, 2021
COP26の会場の外で行われたデモのあと、環境原理主義のアイドル、グレタ・トゥーンベリはこう宣言した。
これはもはや気候会議ではない。北半球の先進国によるグリーンウォッシュの祭典だ。指導者は何もしていない。彼らは自分の利益のために抜け穴を作っている。拘束力のない約束はこれ以上必要ない。COP26が失敗であることは秘密ではない。
その通りである。水素やアンモニアを燃やすゼロエミッション火力などというのはまやかしだ。それは化石燃料を先進国で燃やす代わりに海外で燃やし、CO2排出源を付け替えて企業をグリーンに見せる「グリーンウォッシュ」にすぎない。CCSなどで会計上「ニュートラル」にするのは膨大な浪費である。
気候変動は開発援助の問題
グレタのいう気候正義は「気候変動の被害者は途上国だから先進国が支援すべきだ」という話だ。地球温暖化の最大の被害者は、熱帯の途上国である。次の図のように先進国の被害(GDP損失)は100年間の累積で10%以下であり、温暖化防止コストよりはるかに小さい。

NGFS資料
熱帯の被害を防ぐには(グレタなどが主張しているように)先進国が石炭火力をやめるのではなく、途上国のインフラ整備を支援すべきだ。世界では11億人が電力なしで暮らし、30億人が薪や木炭を暖房に使っているので、化石燃料で電力を供給することが彼らの命を救う。これは開発援助の問題なのだ。
中国もインドも、G20では「2050年ネットゼロ」にコミットしなかった。その代わり彼らが要求したのは1.3兆ドルの資金援助である。中国がCO2排出を1割減らしただけで、日本の排出量を上回る。日本の使命は、これ以上無理に国内の排出量を減らすことではなく、高効率火力発電プラントをアジアに輸出することだ。

CO2排出量の削減効果(Economist)
環境左派が「グリーンウォッシュの祭典」を破壊する
2019年にはCOP25で演説したグレタが、今年は会場の外のデモで「COP26は失敗だ」と演説したのは象徴的である。もう国連には、極左化した環境原理主義が手に負えなくなったのだろう。
気候変動は金融資本に利用され、カーボン・オフセットとか炭素会計などの会計操作で温室効果ガスをごまかす技術が発達した。その規模はIEAによれば毎年4兆ドル。おいしいビジネスだが、そこには盲点がある。
たとえば次の図をみると、日本の火力発電所で化石燃料を燃やす代わりに東シベリアで燃やしてアンモニアをつくり、それを日本に運んで燃やすだけだから、地球全体のCO2排出量は変わらないのだ(EORで地中に埋めるのも日本でCCSで埋めるのと同じ)。

ブルーアンモニアのサプライチェーン
アンモニアの収益は大幅な赤字だが、唯一のメリットはCO2排出を海外に付け替えて「グリーンな企業」というイメージを演出することだ。しかし日本でも環境左派が「グリーンウォッシュだ」と騒ぎ始めると、わざわざ海外でアンモニアをつくって輸入するメリットは失われる。
こうして環境NGOは「グリーンウォッシュの祭典」をぶち壊し、「カーボンゼロ」でもうかるという日経新聞の幻想を破壊し、気候変動のコストは国民が負担するしかないという事実を明らかにする。
本気で脱炭素化するなら、炭素税のようなコスト負担が必要だ。それを会計操作でごまかしても、最終的な温室効果ガス削減コストからは逃げられない。COPに集まった各国首脳がそういう現実を踏まえて現実的な政策を議論するには、環境左派の告発も悪くない。

関連記事
-
米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生し、早速4月22日に気候サミットを主催することになった。これに前後してバイデン政権は野心的なCO2削減目標を発表すると憶測されている。オバマ政権がパリ協定合意時に提出した数値目
-
アメリカ議会では、民主党のオカシオ=コルテス下院議員などが発表した「グリーン・ニューディール」(GND)決議案が大きな論議を呼んでいる。2020年の大統領選挙の候補者に名乗りを上げた複数の議員が署名している。これはまだド
-
2015年のノーベル文学賞をベラルーシの作家、シュベトラーナ・アレクシエービッチ氏が受賞した。彼女の作品は大変重厚で素晴らしいものだ。しかし、その代表作の『チェルノブイリの祈り-未来の物語』(岩波書店)は問題もはらむ。文学と政治の対立を、このエッセイで考えたい。
-
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。 ■ IPCC報告における将来の海面上昇予測が地点
-
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
-
世のマスメディアは「シェールガス革命」とか「安いシェールガス」、「新型エネルギー資源」などと呼んで米国のシェールガスやシェールオイルを世界の潮流を変えるものと唱えているが、果たしてそうであろうか?
-
はじめに 国は、CO2排出削減を目的として、再生可能エネルギー(太陽光、風力、他)の普及促進のためFIT制度(固定価格買取制度(※))を導入し、その財源を確保するために2012年から電力料金に再エネ賦課金を組み込んで電力
-
化石賞というのはCOP期間中、国際環境NGOが温暖化防止に後ろ向きな主張、行動をした国をCOP期間中、毎日選定し、不名誉な意味で「表彰」するイベントである。 「化石賞」の授賞式は、毎日夜6時頃、会場の一角で行われる。会場
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間