ポリコレ化する科学

piyaset/iStock
いまや科学者たちは、自分たちの研究が社会運動家のお気に召すよう、圧力を受けている。
方法はシンプルだ。1990年から2020年の間に全米科学財団(NSF)の研究賞を受賞した際の「要約」に含まれる、さまざまな政治用語の頻度を数えた。
具体的には、各アブストラクトに7つの政治用語のうち少なくとも1つが含まれているかどうかに注目した。「エクイティ(=公平)」、「ダイバーシティ」、「インクルージョン」、「ジェンダー」、「マージナライズ(=差別)」、「アンダーレプリゼント」、「ディスパリティ」。なお各用語の変種(例:「inclusive」や「inclusivity」)も含めた。
全米科学財団は独立した連邦機関であり、年間予算は85億ドルに上る。米国の大学の基礎研究に対する連邦政府の資金提供の4分の1を占めている。
結果は以下のようになった。それぞれの線は異なる科学分野に対応している。

このように、すべての科学分野において、政治用語の使用頻度が大幅に増加している。
2020年の時点で、全要約の半数以上が7つの用語のうち少なくとも1つを含んでいる!
さすがに「数学・物理学」は最も少ないが、それでも、20%以上の要約が、いずれかの政治用語に言及している。
NSFの要約には必ず「より広範な影響(Broader Impacts)」というセクションがあり、研究者は自分の研究の意義を説明しなければならない。
上記の7つの用語のいずれかに要約で言及しているすべての論文が、それ自体、イデオロギー的な研究プロジェクトに対応しているかというと、必ずしもそうではない。多くの場合、研究者たちは「Broader Impacts」の部分に、論文が受賞する可能性を高めるために、あれこれ政治的な用語を詰め込んだに過ぎないと推察される。
だが、いまや物理や数学の研究者であっても、社会運動家の政治用語を使って研究の意味を説明しないといけないようだ。
このような状態で、果たして、政治から自由な純粋な科学的探究など、出来るのだろうか?
■
関連記事
-
反原発を訴えるデモが東京・永田町の首相官邸、国会周辺で毎週金曜日の夜に開かれている。参加者は一時1万人以上に達し、また日本各地でも行われて、社会に波紋を広げた。この動きめぐって市民の政治参加を評価する声がある一方で、「愚者の行進」などと冷ややかな批判も根強い。行き着く先はどこか。
-
メタンはCO2に次ぐ温室効果ガスとして知られている。IPCC報告を見ると、過去、CO2による温暖化が約0.8℃だったのに対してメタンは約0.5℃の温暖化を引き起こした、としている(下図の左から2番目のMethane)。
-
2022年の世界のエネルギー市場はウクライナ戦争に席巻された。ウクライナ戦争の出口が見えない状況下で、2023年10月にはイスラム組織ハマスがイスラエルへの越境攻撃を行った。イスラエルがハマス、およびその背後にいると言わ
-
2024年6月に米国下院司法委員会がGFANZ、NZBAなど金融機関による脱炭素連合を「気候カルテル」「独禁法違反」と指摘して以来、わずか1年ちょっとでほとんどの組織が瓦解してしまいました。日本でも2025年3月に三井住
-
カリフォルニア州の電気代はフロリダよりもかなり高い。図は住宅用の電気料金で、元データは米国政府(エネルギー情報局、EIA)による公式データだ。同じアメリカでも、過去20年間でこんなに格差が開いた。 この理由は何か? 発電
-
今年の国連気候変動サミットを前に、脆弱な国々が富裕国に対して、気候変動によって世界の最貧困層が被った損失に対する補償を支払うよう要求を強めているため、緊張が高まっている。約200カ国の外交官が11月7日にエジプトのシャル
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新しました。
-
前稿で触れた「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については、このアゴラでも既に杉山大志氏とノギタ教授の書評が出ており、屋上屋を架すの感なしとしないが、この本体価格2200円の分厚い本を通読する人は少ない
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















