英国人の5人に3人はネットゼロエミッションのための増税に反対

2022年01月01日 06:50
有馬 純
東京大学大学院教授

COP26において1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルに向けて強い政治的メッセージをまとめあげた英国であるが、お膝元は必ずしも盤石ではない。

Stadtratte/iStock

欧州を直撃しているエネルギー危機は英国にも深刻な影響を与えている。来春には英国のガス、電力価格は50%上昇するとの見方もある。卸売り価格が急騰する中で英国ではプライスキャップが適用されており、消費者に直ちに転嫁することを禁じている。現時点でプライスキャップは年間1277ポンドに設定されているが、来春にはこれを引き上げるという計画であり、これは消費者の負担を増大させることを意味する。

エネルギー産業の業界団体Energy UK のピンチベック事務局長は「昨今のエネルギー価格の上昇は経験したことがないものであり、冬季のしかもオミクロン株が広がっている中でのエネルギー価格上昇は消費者に大きな打撃である。消費者の支払うエネルギー料金のうち、エネルギー供給事業者がコントロールできるのは5分の1程度であり、大きいのはVATやグリーン課金等の政策コストである」と述べている。

Net Zero Watch が実施した世論調査によれば、70%の英国人はクリスマスにおけるエネルギーコスト上昇に強い懸念を有しており、58%の英国人はネットゼロ目標達成のためにエネルギーコストに課される高額の税金を支払うつもりがないとしている。また65%の英国人は政府のネットゼロ政策について十分意見を聞かれていないと感じている。

(左)英国人のエネルギーコストへの懸念 (中央)ネットゼロへの支払い意志 (右)参加意識

また回答者の60%は政府のグリーン補助金(ガスボイラーをヒートポンプに代えた場合5000ポンド補助、電気自動車を購入する場合、35%まで補助等)を使うつもりはないとしている。

地質調査によれば英国のボウランド盆地には1300兆立方フィートのシェールガスが埋蔵されており、うち25兆立方フィート、現在の価格で1兆ポンド相当ののシェールガスが採掘可能であるとされているが、英国政府は環境保護を理由にシェールガス開発をモラトリアムとしている。米国のバイデン政権が連邦所有地におけるシェールオイル・ガス生産を禁止しているのと同様である。

英国政府はCOP26において化石燃料に関する公的融資停止に関する共同声明採択を主導したが、欧州のエネルギー危機の原因の一つが化石燃料上流投資の不足によって需要超過になっていることを考えれば政府の施策がエネルギー価格高騰に拍車をかけているという指摘は決して的外れではない。

冬場の英国を悩ませるエネルギー危機の状況如何によっては、パリ協定が誕生したフランスをイエローベスト運動が席巻したのと同様、COP26のお膝元である英国においてグリーン政策に対する国民の支持がゆらぐことになるだろう。

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