欧州の天然ガスを全部原子力に代えるとしたら
この原稿はロジャー・ピールケ・ジュニア記事の許可を得た筆者による邦訳です。
欧州の天然ガスを全て代替するには、どれだけの原子力が必要なのか。計算すると、規模は大きいけれども、実行は可能だと分かる。
図は、原子力発電と天然ガスのエネルギー消費量(前者から後者を引いたもの、単位はエクサジュールEJ、データはBP社の2020年)である。*
このデータによると、ヨーロッパのほとんどの国は、原子力よりも天然ガスに大きく依存していることがわかる。ガス依存の年間バランスはドイツで最も大きく、今年最後の3基の原子力発電所が停止すると、更に約0.5EJ大きくなる。
さて仮に、ヨーロッパの天然ガスをすべて原子力エネルギーに置き換えるとどれくらいになるだろうか。
フランスを例にとると、250基以上の原子炉が必要だ。これは、発電所の設備容量や原子炉の数にもよるが、50〜150基程度の新しい原子力発電所が必要ということになる。
これは一見大きな数字に思える。しかし、これはフランスの現在の原子力発電能力の5倍にすぎない。かつてフランスは、これを僅か約15年で次々に建設した。前例があるということは実現可能なのだ。
これらの数字は、現在欧州が直面している地政学的な意義もさることながら、脱炭素社会達成の課題の大きさを物語っている。二酸化炭素のネットゼロを実現するには、天然ガスの排出もすべてゼロにする必要がある。だがそのためのまともな政策提案を、どの政府においてもまだ見たことがない。原子力は、この課題の少なくとも一部を満たすための明白な選択肢なのである。
*原子力発電量は、BP統計に従い、仮想的な効率40.40%で一次エネルギーに換算している。
■
関連記事
-
はじめに 原発は高くなったと誤解している人が多い。これまで数千億円と言われていた原発の建設費が3兆円に跳ね上がったからである。 日本では福島事故の再防止対策が膨らみ、新規制基準には特重施設といわれるテロ対策まで設置するよ
-
24日、ロシアがついにウクライナに侵攻した。深刻化する欧州エネルギー危機が更に悪化することは確実であろう。とりわけ欧州経済の屋台骨であるドイツは極めて苦しい立場になると思われる。しかしドイツの苦境は自ら蒔いた種であるとも
-
他方、六ヶ所工場に関連してもう一つ、核不拡散の観点からの問題がある。すなわち、はっきりした使途のない「余剰プルトニウム」の蓄積の問題である。
-
中国国家電網のロゴ問題をきっかけに強い批判を浴びていた内閣府の再エネタスクフォースの廃止が決まった。当然である。根拠法もなく河野太郎氏の集めた「私兵」が他の役所に殴り込み、大林ミカ氏のような活動家がエネルギー基本計画にま
-
ドイツの温室効果ガス排出量、前年比10%減 3月15日、ドイツ連邦政府は2023年の同国の温室効果ガス排出量が前年比10%減少して6億7300万トンになったとの暫定推計を発表した※1。ドイツは温室効果ガス排出削減目標とし
-
英国のエネルギー政策をめぐる政府部内の対立が激化している。11月11日の英紙フィナンシャル・タイムズでは Ministers clash over energy bill という記事が出ていた。今月、議会に提出予定のエネルギー法案をめぐって財務省とエネルギー気候変動省の間で厳しい交渉が続いている。議論の焦点は原子力、再生可能エネルギー等の低炭素電源に対してどの程度のインセンティブを許容するかだ。
-
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授 山本 隆三 自然エネルギー財団の資料に「国家電網公司」のロゴが入っていた問題について、東京新聞は「ネット民から激しい攻撃にさらされている」として「これって「再生エネヘイト」では?
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。毎週月曜日更新ですが、編集の事情で今回水曜日としたことをお詫びします。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間