西側諸国の気候政策による「自殺」

Meindert van der Haven/iStock
7月17日のウォール・ストリート・ジャーナルに「西側諸国の気候政策の大失敗―ユートピア的なエネルギーの夢想が経済と安全保障上のダメージをもたらしているー」という社説を掲載した。筆者が日頃考え、問題提起していることと非常に重なる部分が多いため、ここにその概要を紹介したい。
- 石油・天然ガス価格は高騰している。送電網は崩壊の瀬戸際にある。欧州ではエネルギー不足が発生しており、状況は更に悪化する見込みだ。自由世界はプーチンその他の独裁者に対して戦略的にますます脆弱になっている。
- これは一部には化石燃料を罰し、一挙に再エネのみの世界に移行するという西側諸国のユートピア的な夢想によって引き起こされたものだ。政治リーダーはこの公約が大失敗であったことを認識し、技術的なブレークスルーがない限り、自由と繁栄を維持するために世界は化石燃料の潤沢な供給を必要とするということを認めるべきだ。誤った気候規制、補助金、義務がもたらした高コストの結果を考えてみるがよい。
- 米国のように豊かな国の国民が今や信頼できる電力供給を当然のこととできなくなっている。今月、熱波によって風力がほぼ停止状態にある中、テキサスの送配電網オペレーターは消費者に対し輪番停電を避けるため、消費量の大きい電気機器の使用をしないよう呼び掛けた。2021年の2月には風力発電が低調であったため、極寒の中、1週間にわたる停電をもたらした。北米電力信頼性協会(NAERC)は米国の3分の2がこの夏、停電を経験する可能性があると警告している。これはベースロード電源が縮小し、再生可能エネルギー電力に置き換わったことによるものだ。規制当局は日照や風況を命令することはできないのだ。
- 過去10年の間に米国の石炭火力の3分の1、原発の10%が環境規制の強化と安価なシェールガス及び補助金に支えられた再エネとの競争によって閉鎖されてきた。ガス火力がその穴の一部を埋めた。しかしガス火力は変動性再エネに対応するため、出力増減を強いられている。皮肉なことに送電網オペレーターは閉鎖予定の石炭火力を維持せねばならない状況になっている。きわめてグリーンなはずのカリフォルニア州は供給逼迫が生じた場合、ディーゼル発電所からの電力購入を予定している。再エネ電力が総発電量の3分の1を占めるテキサス州とカリフォルニア州の送電網は危うい状況にある。バイデン大統領はあたかも彼自身がそれを命令できるかのごとく、米国の電力セクターが2035年に脱炭素化することを望んでいる。
- 性急なグリーン転換はエネルギー価格を引き上げている。エネルギー情報局によれば、この夏のピーク時の電力卸売価格は北東部、中部大西洋岸、中西部で倍増するとみられる。左翼がパイプラインをブロックしたことにより、需要が拡大してもガス生産増が制約されているからだ。エネルギー価格の高騰により鉄鋼、アルミ製造業者の中には工場停止を強いられているものもある。欧州は冬に向けてLNGを必要としているが、製造事業者はバイデン政権に対して欧州へのLNG輸出を制限するよう求めている。
- これまでのところ州当局の電力料金引き上げ上限により多くでは米国の電力消費者の多くは保護されている。しかしテキサスの自由化された電力市場では平均的な家庭用電力料金が昨年1年で70%も上昇した。今後、同様の事態が米国全体で起きるだろう。さもなければ欧州のように電力企業が破産するかいずれかだ。
- 昨年夏、欧州において風力低調により電力料金が急騰したことを利用してプーチン大統領はガス供給を絞った。これにより価格は更に上昇し、欧州の製造業者の中には生産休止を強いられるものもあった。今やプーチン大統領はガス供給を全て停止することも辞さないように見える。
- 欧州は製造業者に対するガス供給割当のための緊急時計画を策定している。しかしドイツは依然として3基の原発を年末までに停止する予定だ。映画「戦場にかける橋」の最後の言葉を借りれば「狂気(madness)」である。数兆ドルかけて作った風力、太陽光発電所がロシアのガスの穴を埋められない中、ドイツは石炭、石油を燃やさねばならない。
- ドイツは電力小売事業者ユニパ―を救済しようとしている。フランスは財政面で苦境に陥っている原子力大手のEDFの国有化方針を表明した。今春、英国は化石燃料フェーズアウトをマネージするため、ナショナルグリッドの送電網を国有化すると発表した。先月の豪州の停電危機の原因はあまりに多くの石炭火力を閉鎖させたことだ。気候政策の失敗がエネルギー生産に対する政府の管理強化の口実になっている。
- 気候変動に対する執着により、欧州はクレムリンに対して脆弱になっている。しかし西側諸国のエネルギー苦境にほくそえんでいるのはプーチン大統領だけではない。バイデン大統領はサウジに増産を懇願せねばならず、ベネズエラの独裁者ニコラス・マドウーロに対する制裁を緩和する可能性もある。イランの石油輸出も解禁されるかもしれない。
- 西側の指導者は自分たちの気候変動モノマニアが民主国家の生活水準を危うくし、権威主義国家に力を与えていることを認識しているのか?歴史家アーノルド・トインビーは「文明は殺されるのではなく、自殺する」と論じている。西側諸国の自己破壊的な気候政策は彼が正しいことを証明するかもしれない。
エネルギーの現実を踏まえた冷静かつ客観的な正論であり、筆者としても全面的に同感である。あえて付け加えるとすれば、西側のエネルギー苦境にほくそえんでいるのはサウジアラビア、ベネズエラ、イランのみではない。ロシアを陰に陽に支え、ロシアの安い化石燃料を調達している中国こそがウクライナ戦争最大の勝者であり、これは中国の脅威に直面する日本にとって大きな問題である。
カーボンニュートラルの提灯持ちと化している最近の日経新聞を考えるにつけ、ウォール・ストリート・ジャーナルがこうした現実的な社説をかかげる米国を羨ましく思う。大資源国である米国はその気になればエネルギー危機に対する打ち手をいくつも持っている。それに引き換え米国、欧州と比較して圧倒的にエネルギー面で脆弱な日本のメディアの議論の貧困さは絶望的である。
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