革新的新型炉「SRZ1200」の衝撃
先月政府のDX推進会議で経産省は革新的新型炉の開発・建設を打ち出したが、早くもそれを受けた形で民間からかなり現実味を帯びた具体的計画が公表された。
やはり関電か
先に私は本コラムで、経産省主導で開発・建設が謳われる革新的新型原子炉が現実化する要件や炉型候補について具体的に論じた。
ムラ内の噂として、もし新型炉の開発・建設が行われるとするならば、それは関西電力あるいは関電を軸にしたアライアンスのようなものになるのではないかともっぱら噂されていた。
そうしたところ、9月29日に日経ビジネスが、三菱重工業と関西電力など電力会社4社が次世代の原子力発電所を共同開発することを報じた。驚くべきことに、2030年半ばには完工させるとも。わずか10数年先のことである。
SRZ1200とは何か?
Sは超安全(Super-safe)とサスティナビィリティ(Sustainability)、Rは強靭性(Resilience)、そしてZはゼロカーボン(Zero-Carbon)を意味するのだとか。
1200は出力規模であり、フル出力運転時の出力が毎時120万kWである。この炉型の安全性の新規な点は、シビアアクシデントつまり炉心溶融事故時の溶けた燃料を受け止める究極の受け皿として「コアキャッチャー」を圧力容器の外下部に配置していることである。
その他にも、放射性物質を極力環境に放出しない仕掛けもいくつか新規に考案されている模様である。
またSRZ1200は不安定で変動する再生可能エネルギー(太陽光、風力など)との共存性能も高いと謳っている。不安定で変動する再生可能エネルギーのクッションの役割が強化されているというのだ。
2030年代半ばの完工は可能か?
SRZ1200は、現在日本で稼働している加圧水型軽水炉(PWR)に比べて格段に安全性を高めたものであり、関電とそのアライアンス(北海道電力、四国電力、九州電力)は2030年代半ばの建設完了を目指しているという。
それを受けて、この新型炉の開発・建設を請け負う三菱重工などは2020年代後半に着工し、30年代半ばに完工するという。しかし、問題はタイムスケジュールが相当にタイトというよりは、無理筋ではないかということである。
設計はほぼ完成しているようだが、この〝超安全強靭〟原子炉の新規制基準に適合しているか否かの審査にそう易々と通るのかということである。
設置許可申請は2025年頃までに原子力規制委員会に申請されると見られるが、果たして4、5年で審査が終了するのであろうか? もちろん不可能ではないが、かなり険しい道のりだと私は考える。そこには原子力規制の宿痾ともいうべき分厚い壁がある、
建造場所と建造意義
SRZ1200の建設最有力候補地となっているのが、関電の美浜原子力発電所である。立地地域の美浜町にとっては長年の念願であり、その前首長・山口治太郎氏は良識的な原子力推進派で、美浜3号機の運転期間の60年延長にも積極的であった。
3.11後の原子力規制態勢下での審査の大きな眼目は地震への耐性の根底からの見直しであった。地震への耐性の審査は、活断層の有無や想定される激烈な規模の震源に対して岩盤がどの程度揺れるのかであり、これはいわば〝土台〟の強靭性の審査である。美浜3号機はこの土台の審査を終えて再稼働を許可されている。
よって、〝上物〟であるSRZ1200が、40年前の旧式のPWRに比べて格段に強靭性が増しているというのであれば、すでに審査を終えている土台の上には乗せやすいのかもしれない。が、予断は禁物である。
いずれにしてもあの激甚な3.11をくぐり抜けて新しい地平をSRZ1200が拓くとなれば、それは久しく鳴りを潜めていた日本の原子力発電システムの海外輸出の扉を再開することにもつながる。
日本の原子力産業界の活性化にとって極めて有意義なものになろうし、経済効果も大いに期待できるのであろう。

関連記事
-
基数で4割、設備容量で三分の一の「脱原発」 東電は7月31日の取締役会で福島第二原発の全4基の廃炉を正式決定した。福島第一原発事故前、我が国では54基の原発が運転されていたが、事故後8年以上が経過した今なお、再稼働できた
-
東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。
-
インドは1991年に市場開放が行われて以降、ずっと右肩上がりとはいかないものの、基本的に経済成長が続いている。特にITやアウトソーシング産業など第三次産業が経済成長を牽引しているという、やや特殊な姿を見せている。
-
NHKが2014年12月21日に放映したNHKスペシャル「メルトダウンFile.5知られざる大量放出」を見て驚いた人が多かったのではないだろうか。これまで知られていなかった放射能の大量放出がこの番組のNHKの取材で明らかになったという内容だ。
-
今年のCOP18は、国内外ではあまり注目されていない。その理由は、第一に、日本国内はまだ震災復興が道半ばで、福島原発事故も収束したわけではなく、エネルギー政策は迷走している状態であること。第二に、世界的には、大国での首脳レベルの交代が予想されており、温暖化交渉での大きな進展は望めないこと。最後に、京都議定書第二約束期間にこだわった途上国に対して、EUを除く各国政府の関心が、ポスト京都議定書の枠組みを巡る息の長い交渉をどう進めるかに向いてきたことがある。要は、今年のCOP18はあくまでこれから始まる外交的消耗戦の第一歩であり、2015年の交渉期限目標はまだまだ先だから、燃料消費はセーブしておこうということなのだろう。本稿では、これから始まる交渉において、日本がどのようなスタンスを取っていけばよいかを考えたい。
-
サウジアラビアのサルマン副皇太子が来日し、「日本サウジアラビア〝ビジョン2030〟ビジネスフォーラム」を開いた。これには閣僚のほか、大企業の役員が多数詰めかけ、産油国の富の力とともに、エネルギー問題への関心の強さを見せた。
-
7月15日、ウィスコンシン州ミルウオーキーで開催された共和党全国党大会においてトランプ前大統領が正式に2024年大統領選に向けた共和党候補として指名され、副大統領候補としてヴァンス上院議員(オハイオ)が選出された。 同大
-
福島原発事故において、地震によって原子炉の主要設備が破壊されたのではないかという懸念が、社会に広がっている。こうした懸念が、原子力規制委員会による過剰ともいえる地震対策や、原子力発電への不安につながっている。この小論が、そうした懸念を払拭する一助になればと思う。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間