脱炭素をめぐる合成の誤謬

2024年09月19日 06:40

Sergey Khakimullin/iStock

これが日本の産業界における気候リーダーたちのご認識です。

太陽光、屋根上に拡大余地…温室ガス削減加速へ、企業グループからの提言

245社が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は7月、GHG排出量を2035年度までに13年度比75%以上削減する目標を求める提言を発表した。実現のため再生エネ比率を60%以上に高めるように要望した。

(中略)

提言の具体策として、住宅屋根やビル屋上への太陽光パネルの導入加速を要望。日本は面積当たりの太陽光発電の導入量が世界トップとなり、追加できる適地がなくなったと言われる。一方でJCLPは屋根・屋上に大きな余地があり、導入拡大が可能と訴えた。

この245社の経営者の皆さんは、東京都が新築住宅へ太陽光発電の設置を義務化したことに対して多くの都民から反対の声が上がっていることをご存じないのでしょうか。杉山大志さんと上田令子都議が東京都へ提出した質問状に(「国民」「都民」を「産業界」に読み替えた上で)答えていただきたいものです。

  1. 中国政府によるジェノサイド・人権弾圧への加担を都民に義務付けることにならないか。
  2. 国民・都民への負担が巨額に上るのではないか。
  3. 水害時に人命が失われるのではないか。

追加で、

  1. ライフサイクル全体でCO2削減に貢献するのか。
  2. 2035年までに13年度比75%以上削減したとして、地球の気温上昇抑制効果は何℃を見込んでいるのか
  3. 太陽光パネルは大量の処理困難物となって将来世代へ負の遺産となる可能性が高いが、廃棄方法を考えているのか。

このあたりにもぜひ答えていただきたいものです。

「日本は年30兆円を海外に支払って化石燃料を輸入している。『35年60%以上』に再生エネを増やせば、15兆円以上を国内に還流できるとの試算もある。ペロブスカイト太陽電池や浮体式風力、蓄電池を国産化できれば、さらに国益が増進する」

こちらのコメントについては、奇しくもこの記事と同日にアゴラに公開された杉山さんの論考で否定されました。なんてタイミング!

国富の流出を防ぐために再エネって本当か

日本の化石燃料輸入金額が2023年度には26兆円に上った(図1)。これによって「国富が流出しているので化石燃料輸入を減らすべきだ、そのために太陽光発電や風力発電の導入が必要だ」、という意見を散見するようになった。

だがこの説は本当だろうか。

(中略)

発電用に限って言えば化石燃料輸入金額は3.2/2+1.6/2=2.4兆円程度だったことになる。化石燃料の輸入総額に比べると、だいぶ少なくなる。

(中略)

「化石燃料輸入」は「国富流出」と同義ではない。

(中略)

化石燃料は、その利用技術も含めると、全体として安価かつ有用なエネルギーだ。だからこそ日本はそれを活用して自動車を走らせ、製造業を発展させた。太陽光発電や風力発電で化石燃料利用を減らす試みは経済的にマイナスにしかならない。再エネ設備の輸入代金が流出するし、電気代高騰による産業空洞化で製品輸入が増えて国富が流出するからだ。

もしどうしても化石燃料の購入代金による「国富の流出」も減らしたければ、化石燃料の自主開発を進め、資源権益の確保を進めればよい。これはエネルギー安全保障の確保にもなる。

記事の最後の発言にいたっては、もう絶句するしかありません。

―風力発電設備は輸入に頼っています。他の脱炭素製品も含めて国産化したくても製造業は人手不足が懸念されます。

「憧れの産業にすることが大切だ。モノづくりにインセンティブを与え、プライドを作る。そのための教育も重要になる」

ちょっと何言ってるか分からない。。質問に正面から答えない、まるで石破構文や進次郎構文を見ているようです。

おそらく個社ではCO2削減に貢献する技術や製品・サービスがあるので245社もの企業が賛同しているのだと思いますが、マクロで見たら日本の国力を落としてくださいと国に提言していることにこの経営者たちは気が付いていないのでしょうか。

自社が短期的に儲かる反面、長期的には日本の産業界全体の国際競争力を落とす方向となり、「国破れてパネルあり」「CO2減じて国破れたり」を招いて自らも滅んでしまいかねない。

脱炭素をめぐる分かりやすい合成の誤謬です。


『SDGsエコバブルの終焉』

This page as PDF

関連記事

  • 2月25日にFIT法を改正する内容を含む「強靭かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。 条文を読み込んだところ、前々からアナウンスされていたように今回の法改正案の
  • ニュースの内容が真実かどうかということは、極めてわかりにくい。火事のニュースは、それが自分の家の近所なら正しいとわかるが、火災の原因となると、果たして報道が正しいのかどうか? 自分で内容の真偽を確かめられるニュースなど、
  • 中国の研究グループの発表によると、約8000年から5000年前までは、北京付近は暖かかった。 推計によると、1月の平均気温は現在より7.7℃も高く、年平均気温も3.5℃も高かった。 分析されたのは白洋淀(Baiyangd
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新を更新しました。 1)トランプ政権誕生に備えた思考実験 東京大学教授で日本の気候変動の担当交渉官だった有馬純氏の寄稿です。前回の総括に加えて
  • 米国シェールガス革命に対する欧州と日本の反応の違いが興味深い。日本では、米国シェールガス革命によって日本が安価に安定的に燃料を調達できるようになるか否かに人々の関心が集中している。原子力発電所の停止に伴い急増した燃料費負担に苦しむ電力会社が行った値上げ申請に対し、電気料金審査専門委員会では、将来米国から安いシェールガスが調達できることを前提に値上げ幅の抑制を図られたが、事ほど左様に米国のシェールガス革命に期待する向きは大きい。
  • 7月21日、政府の基本政策分科会に次期エネルギー基本計画の素案が提示された。そこで示された2030年のエネルギーミックスでは、驚いたことに太陽光、風力などの再エネの比率が36~38%と、現行(19年実績)の18%からほぼ
  • 大型原子力発電所100基新設 政府は第7次エネルギー基本計画の策定を始めた。 前回の第6次エネルギー基本計画策定後には、さる業界紙に求められて、「原子力政策の180度の転換が必要—原子力発電所の新設に舵を切るべし」と指摘
  • いまや科学者たちは、自分たちの研究が社会運動家のお気に召すよう、圧力を受けている。 Rasmussen氏が調査した(論文、紹介記事)。 方法はシンプルだ。1990年から2020年の間に全米科学財団(NSF)の研究賞を受賞

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑