日本より排出の多い世界の4大排出国は脱炭素などしない
「世界はカーボンニュートラルへ一丸となって歩み始めた」「米国トランプ政権がパリ協定を離脱しても、世界の脱炭素の流れは変わらない」——といった掛け声をよく聞く。そして日本では脱炭素のためとしてグリーントランスフォーメーション(GX)計画が着々と推進されており、2050年CO2ゼロが公式の目標となっている。
しかし、実際のところ、世界はどこに向かっているのだろうか。
2023年の世界のCO2排出量は過去最高になり、37.4Gt(ギガトン)であった。上位10か国を並べると、1位は中国で世界の33%を排出していた。以下、2位は米国で13%、3位はインドで7%、4位はロシアで5%、5位は日本で3%であった。より正確に言えば日本は2.6%なので、もうすぐ2%と言うときが来るだろう。この5か国で、じつに世界の60%を占めている。
つまりは、これら大排出国がどうするかで、世界の排出がどうなるか、その趨勢は決まるということだ。それで、どうなっているのか?
ロシアの経済そして国家財政は、化石燃料に依存している。2024年の原油・天然ガス関連歳入は11.1兆ルーブル(約1,080億ドル)に達し、これはロシア連邦予算の約3分の1を占めていた。これは対ウクライナ戦争で膨らむ軍事費の源泉でもある。このロシアが石油採掘を止めるはずも、ガス輸出を止めるはずもない。そんなことは誰が強制できるはずもない。
では、そのロシア産原油を買っているのはどの国か。答えは中国とインドだ。2024年の1〜3月の間に中国が輸入したロシア産原油は日量217万バレルに達した。これは日本の総石油消費(約日量330万バレル)の3分の2に当たる莫大な量だ。インドも日量190万バレル前後をロシアから輸入している。両国合わせると、ロシアの原油輸出の半分以上を吸収していることになる。欧米はロシアに経済制裁を課しており、輸入を制限してきたが、中国もインドも聞く耳を持たなかった。
中国は石炭火力発電も諦めてなどいない。中国では、2023年の1年間だけで石炭火力が47.4GW(=4,740万kW)も新規に運転開始した。さらに同年、中国は94.5GW分もの石炭火力に新たに着工している※1)。
インドも同じ道を歩む。政府計画では35 GW超の石炭火力が開発中で、昨年だけで複数の大型発電所が着工した※2)。温室効果ガス削減より、14億人の電力需要と経済成長が明らかに優先されている。
世界全体の石炭消費も2023年に86億トンと過去最高を更新した※3)。
世界の60%の排出を占める5大排出国は、どこも脱炭素などしていない——例外は、2.6%を占める第5位の日本だけである。
※1)Global Energy Monitor “Boom & Bust Coal 2024” China section
※2)Global Energy Monitor “Boom & Bust Coal 2024” India section
※3)International Energy Agency “Coal 2024 – Analysis and forecast to 2026”
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