「もんじゅ」廃炉で終わらせてよいのか:日本の高速炉技術の危機

2026年07月22日 06:40

資源小国のわが国にあって、核燃料サイクルの確立はエネルギー安全保障の要諦である。現在は六ヶ所再処理工場の軽水炉燃料サイクルまでしか視野に入っていないが、軽水炉だけではウランの利用効率が低く、やがてはウラン資源が枯渇する。ウランをプルトニウム(Pu)に変換する高速炉燃料サイクルが完成して初めて、原子力エネルギーとして価値を発揮する。

高速炉では高濃度で大量のPuを扱うため、Puに対する厳しい国際的な目がある以上、国が覚悟を持ち、実用化の見通しが確認できるまでは投資を継続すべきである。

もんじゅが廃炉となった今、このままでは高速炉技術は潰えてしまう。経済性もさることながら、国が核燃料サイクルを結実させるという強い意志を持続しない限り、高速炉燃料サイクルは実用化できない。

1. エネルギー自給率の低さが示す日本の脆弱性

エネルギーは水や食料と並び、国の安定と安全、国民生活、経済を支える基盤である。その長期的かつ持続的な供給、すなわちエネルギー安全保障は、国家の重要課題である。

日本のエネルギー自給率は約16%(2024年)で、カロリーベースの食料自給率約38%(2023年)よりさらに低い。エネルギー資源である石油や石炭、天然ガスは、そのほとんどを海外からの輸入に頼っている。これはOECD加盟国38か国の中でも、ルクセンブルクに次いで2番目に低い水準である。

生き残るために最低限必要なものについて、手段を尽くして守ることが安全保障であり、エネルギーの自立は国の死活に関わる最重要政策である。

先の大戦では、ABCD包囲網〔アメリカ合衆国(America)、イギリス(Britain)、中華民国(China)、オランダ(Dutch)による貿易封鎖〕による日本へのエネルギー供給の途絶が、開戦の原因の一つとなった。このように、エネルギー争奪が古今の戦争の原因となった例は、枚挙にいとまがない。

2.核燃料サイクルは国家100年のエネルギー戦略

エネルギー政策は、国家100年の計をもってなすべき国家の根幹をなすものであり、近視眼的な視点で決める問題ではない。長期的視野を持ち、固い信念のもとで進めるべきものである。

核燃料サイクルの時間軸は50年、100年と長い。原子力大国である米国、フランス、ロシア、中国では、米国を除いて、いずれも高速炉と再処理による核燃料サイクル政策を採っている。米国はシェールガス特需によって開発を休止しているが、いつでも戻れる力を備えている。

さらに、インドは本年4月6日、「もんじゅ」と同じ高速原型炉PFBR(50万kWe)の初臨界を達成した。これからインドも、核燃料サイクル政策をもって原子力大国に仲間入りする。

高速炉でなければウラン資源を有効利用できない

現在、わが国は軽水炉燃料の再処理によるプルサーマル計画でウランの利用効率を高めようとしている。しかし、それでもプルサーマルによるウラン利用効率は、高速炉と比べると数十分の1程度であり、核燃料サイクルが目指すべきものは高速炉燃料サイクルである。

図1 ウラン利用効率の比較
注:ウラン利用効率 軽水炉(直接処分):0.5%、 プルサーマル:0.75%、 高速炉:60%以上

現在は六ヶ所再処理工場の軽水炉燃料サイクルまでしか視野に入っていないが、本来は高速炉燃料サイクルが完成して初めて、原子力エネルギーとして価値を発揮する。

図2 本来の核燃料サイクルの姿

「海水ウランは無尽蔵」という幻想

海水中にはウランが溶存しており、その総量は約45億トンという膨大な量に及ぶ。

ただし、世界のウラン市場で取引されているウランは、ウラン濃度が1,000〜200,000 ppm(0.1〜20%)の鉱床から採掘されたものである。これに対して、海水中のウラン含有率は0.003 ppmと、6桁以上も小さい。

無尽蔵ともいえる海水からウランを回収することは、夢があるように聞こえる。しかし、桁違いに希薄な海水中のウランを回収するには、膨大なエネルギーとコストが必要であり、技術的・経済的な見通しは立っていない。

エネルギー源となるための以下の3条件のうち、「集中して存在すること」が決定的に欠落している。

  • 大量に存在すること
  • 集中して存在すること
  • エネルギー密度が高いこと

3.高速炉開発を進める世界、日本は取り残されるのか

高速炉は第4世代原子炉の本命

安全性・信頼性、経済性、持続可能性、核拡散抵抗性などに優れた次世代の原子炉システム(第4世代原子炉)として、ナトリウム冷却高速炉(SFR)、鉛冷却高速炉、ガス冷却高速炉、溶融塩炉、超臨界圧水冷却炉、超高温ガス炉の6つの革新的原子炉システムが選定され、国際的な研究開発が進められている。

このうちSFRは、各国とも本命と考え、その開発にしのぎを削っている。図3に各国のSFRの開発状況を示す。

米国——開発中断後も技術基盤を維持

1951年12月20日に世界初の原子力発電に成功したのは、実は軽水炉ではなく、米国の高速実験炉EBR-1(熱出力1,000 kWt、電気出力200 kWe)である。

その後、米国は数々の実験炉を建設し、原型炉CRBRの建設も開始したが、1977年、核不拡散政策の強化を理由に建設を中止した。

21世紀に入ってから、米国は次世代原子炉システム(第4世代原子炉、Gen-IV)の概念を検討するため、「第4世代原子力システム国際フォーラム」(GIF)を設立し、SFRなどのシステム協定に署名して活動している。

特に最近は、ビル・ゲイツが率いるテラパワー社の「Natrium」(34.5万kWe)が、第4世代SFR実用炉として金属燃料を採用し、溶融塩蓄熱システムを備えた高速炉として注目を集めている。

フランス——豊富な実績から開発再開へ

フランスは、シャルル・ド・ゴールが大統領の時代に核武装を宣言するとともに、アルジェリアの独立を承認して石油からの脱却を図り、原子力エネルギー利用に大きく舵を切った。以後、軽水炉開発と高速炉開発に邁進し、原子力大国になったことは周知のとおりである。

高速炉については、実験炉Rapsodie、原型炉Phenix、実証炉Super Phenixという、すべてMOX燃料を使用した炉の豊富な開発経験を保有している。

実証炉Super Phenix(120万kWe)は、世界で最初の大型SFRであった。しかし、燃料漏れや冷却システムの故障があり、当時の緑の党との政治的な駆け引きもあって、1998年に廃炉となった。

その後、実証炉ASTRID(60万kWe)の計画があったが、現在は凍結されている。一方、日仏高速炉協定を結び、今世紀後半の実現に向けて高速炉燃料サイクルの開発を復活させた。

ロシア——トラブルを克服して実績を蓄積

ロシアは1959年から、SFRとして実験炉(BR-5/10、BOR-60)、原型炉(BN-350、BN-600)を開発し、2016年には実証炉BN-800の運転を開始した。2035年には実用炉BN-1200の運転を開始する予定で、着実に実績を積み上げている。

燃料も、原型炉まではUO2燃料であったが、実証炉ではUO2燃料からMOX燃料に切り替えた。実用炉初号機ではMOX燃料を使用するものの、後続機では高い増殖比を目指し、窒化物燃料の採用を計画しているようである。

BN-600では、ナトリウム漏れを21回、ナトリウム-水反応を12回も経験しているが、それを乗り越え、76%という高い年平均設備利用率で運転している。国柄の違いとはいえ、わが国の対応とは大きく異なり、多くの工学的経験を積み重ねている。

中国——原型炉を飛び越えた急速な開発

中国は21世紀に入り、急速に高速炉開発を立ち上げた。2010年に実験炉CEFR(2.5万kWe)の初臨界を達成し、2017年と2020年には、原型炉を経ずに、いきなり実証炉CFR(60万kWe×2基)の建設を開始した。2030年代には、実用炉CFR(100万/120万kWe)2基の運転開始を目指している。

中国も、実験炉にはUO2燃料、実証炉にはMOX燃料を使用しているが、実用炉以降は金属燃料を採用する計画である。

中国の場合、発電もさることながらPu生産も重視し、核燃料サイクルとして増殖比の高い金属燃料を選択しているのではないかと思料する。

インド——トリウム利用を見据えた独自戦略

インドの高速炉開発の歴史は古く、フランスの実験炉Rapsodieの技術を導入し、1985年に高速実験炉FBTR(1.36万kWe)の運転を開始した。原型炉については、上記のとおり、本年4月に高速原型炉PFBR(50万kWe)の初臨界を達成した。

インドは国内に豊富なトリウム資源を有し、その埋蔵量は世界第2位である。将来、これを有効活用する「ウラン・トリウムサイクル」をベースとした、インド独自の3段階の原子力開発計画を目指している。

PFBRや、これに続く高速実用炉FBR 1&2(50万kWe)は、第2段階のPu生産を目的としたものであり、MOX燃料を使用する。将来的には金属燃料によってPu増殖比を高め、電力需要の伸びが緩やかになった段階で、第3段階のウラン・トリウムサイクルにつなごうとしている。

※ 1974年にインドが核実験を行ったため、フランスからの協力が途絶え、インドは独自に高Pu富化度の炭化物燃料を開発した。

図3 各国のSFRの開発状況
注:一部、ロシアの鉛冷却高速炉、カナダの溶融塩高速炉を含む。
出典:『新版 核燃料サイクル――次世代エネルギーを担う』(ERC出版、2025年11月27日)

高速炉の経済性を左右する燃料と炉設計

高速炉は、冷却材として熱伝導性に優れ、沸点の高い金属ナトリウムを使用する。このため、軽水炉よりも設計温度が約200℃高い一方で、圧力を低く抑えることができる。

高速炉の主要機器は薄肉構造となり、耐熱設計が支配因子になる一方、耐震設計が厳しい制約要因となる。この耐熱設計と耐震設計の相克から、免震構造を採用する計画である。しかし、それでもなお、デザインウィンドウ、すなわち設計が成立する領域は狭い。

軽水炉の主要機器は、耐圧設計が支配因子となるため、耐震設計上の問題があまり顕在化しない。

また、一次系の放射化ナトリウムと水との反応を避けるため、二次ナトリウム系を設けるので、PWRと比べても冷却システムが多重化される。

このため、高速炉は基本的に軽水炉よりもコストが高くなるが、Puサイクル全体で評価する必要があろう。そこで重要となるのが、核燃料の形態である。

軽水炉では、六ヶ所再処理工場によるMOXサイクルシステムとしていたが、MOX燃料、金属燃料、窒化物燃料などには、それぞれ長所と短所がある。高速炉では、早期に核燃料の形態を決める必要があろう。

上述した海外の例を見ると、目的によって異なるものの、実用炉の燃料として金属燃料や窒化物燃料を志向している。

4.高速炉実用化に必要な国家の覚悟

Puを高濃度で大量に扱うのが高速炉サイクルであり、Puに対する国際的な厳しい目もある以上、国が覚悟を持ち、実用化の見通しが確認できるまでは投資を継続すべきである。

自由化によって体力の衰えた電力会社に委ねることは、土台無理な話である。国の事業として、その運営を民間企業、主に電力会社や日本原燃に委託するという形しかあり得ないであろう。

経済性もさることながら、国が核燃料サイクルを結実させるという強い意志を持続しない限り、その実用化はできない。

研究開発という視点よりも国家事業という視点から見れば、文科省ではなく、経産省が前面に出る体制が不可欠である。そのためには、開発資金の確保を含めた法改正が必要であろう。

もんじゅが廃炉に至った際の議論は、炉の保守管理に関する規定違反という観点に偏り、国のエネルギー安全保障とは次元の異なる議論に終始した。これは誠に残念である。

これからも、開発にはトラブルをはじめ、多くの苦労があるであろう。しかし、工学・技術というものは、自ら造り、動かして初めて身につく経験学である。失敗を克服することで進歩するのである。失敗を許さない社会に進歩はない。

高速炉開発について、日仏高速炉協定に軸を移して進めてはどうかという、やや視点をそらした様子見の意見も聞こえる。しかし、運転プラントが常陽しかないような状態のままでは、わが国の高速炉技術は潰えてしまう。

先に述べた高速炉先進国には、原型炉や実証炉がある。「もんじゅ」という原型炉を玉成できない国が、これらの国と手を組んでも、後塵を拝するだけである。

戦後、GHQによって航空機開発が禁止され、市場への参入が遅れたように、高速炉も開発が遅れてしまえば、属国の立場に甘んじざるを得ない環境をつくりかねない。

資源小国のわが国にとって、自前の技術を持つことこそが、エネルギー安全保障そのものである。

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