オーストラリアも脱炭素開示を簡素化:スコープ3の厳格監査は無理

2026年09月05日 06:50

筆者は繰り返し、スコープ3(サプライチェーンCO2排出量)の算定や脱炭素・サステナビリティ情報開示は企業の生産性を落とすだけであり、義務化ではなく自由化すべきだと主張してきました。

スコープ3の実測値(一次データ)収集は不可能であり、かといって現状の推計値(二次データ)では削減計画の立案も効果測定や検証もできません。脱炭素の優等生である米マイクロソフトですら、データセンター拡充によってCO2を爆増させており、スコープ3算定の実態が単なる「やってる感」の演出にすぎないことを自ら証明してしまいました。

米国では証券取引委員会(SEC)がスコープ3義務化をめざした気候開示規則案を廃止しました。欧州もサステナビリティ情報開示規則(CSRD/CSDDD)を簡素化したのですが、さらに米政府からCSRD/CSDDDを骨抜きにしなければ必要なあらゆる措置を講じるぞと強烈に脅されています。

この潮流がさらに拡大しそうです。米欧に続き、今度はオーストラリア政府が脱炭素情報開示の簡素化・見直しへと明確に舵を切りました。

政府が脱炭素情報開示の簡素化に向けたパブコメを実施

オーストラリア財務省は2026年8月24日、気候関連財務開示にともなう企業の負担を削減するための諮問文書案(パブリックコメント:意見募集)を公表しました。豪州財務省が広く意見を求めている主なポイントは以下の通りです。

CO2データの「限定的保証」維持(スコープ3の「合理的保証」見送り)

現行制度では2030年7月1日からスコープ1・2・3について厳格な「合理的保証」へ移行することが決定していますが、これを見直すために以下の3案を提示しています。

【Option 1a】「合理的保証」への移行を撤廃し、簡易的な「限定的保証」のままにする
【Option 1b】合理的保証への移行を2030年→2035年へ延期する
【Option 1c】スコープ 1・2は成熟した指標のため合理的保証とし、スコープ3は限定的保証のままとする

豪州財務省はOption 1cの理由として、「スコープ3は第三者データ、推計値、予測値に依存するため、合理的保証にすると労力、コストが大幅に増加する」、「スコープ1・2は内部データを利用しており、比較可能性・信頼性が高い」と説明しています。

→ おやおや?これって筆者が散々指摘してきたスコープ3の欠陥そのものです。どうやら豪州政府もスコープ3の実態を把握しつつあるようです。

中小企業(SMEs)の負担軽減

サプライチェーンの上流・下流に位置する中小企業を、大企業からの「過大または不合理なデータ要求」から保護するため、明確な境界線(Boundaries)を設けるためのガイダンス策定を検討しています。

→ こちらも、筆者が以前から「スコープ3ハラスメント」と呼んできた問題を豪州政府が認識したようです。

政府による二次データ(排出係数)の提供

中小企業から一次データを直接収集するという莫大な事務負担を回避にするため、政府主導で国内の共通排出係数リポジトリを整備することを検討しています。

→ これも「一次データをサプライヤーから集める」という理想を捨てて、政府が二次データを用意するので『活動量×原単位』で推計しましょう、という元の手法へ回帰したことになります。どうせ推計値なんだからやめればいいのにと思いますが、少なくとも一次データ収集は不可能だと豪州政府が認めたも同然です。

全文は、公表されたパブコメ文書(Consultation paper)を参照ください。

脱炭素情報開示は義務化でなく自由化すべき

米欧豪が脱炭素情報開示の手綱を緩める中、我が国は今年から上場企業に対してスコープ3含む脱炭素情報開示義務化を始めてしまいました。

各国政府が自国企業、なかんずく中小企業を保護するために脱炭素規制を撤廃または簡素化する一方、日本の政府や金融界はブルシット・ジョブ(クソどうでもいい無駄仕事)を強制し自国産業を衰退させ続けているのです。仮に「サステナビリティ情報の開示は絶対に必要だ!」「スコープ3を計算すれば我が社の企業価値が向上する!」などと本気で信じる企業があれば、お上に言われずとも勝手に取り組みます。

サステナビリティ情報がほしいESG投資家にとっても、全上場企業を評価するより自主的に開示している熱心な企業をスコアリングする方が労力を削減できるはずです。

最近になって、KPMGサステナ部門トップが「気候変動対策で日本が世界をけん引している」と評価したそうですが、これって筆者には「世界はもう脱炭素をやめた」「欧米では手数料ビジネスがなくなったので日本だけは脱炭素を続けてください」と言っているようにしか聞こえません(笑)。あれ? たしか欧州、米国、中国らが先頭争いを繰り広げていて、日本の気候変動対策は周回遅れだったのでは?

世界の潮目は完全に変わりました。日本政府は自縄自縛の脱炭素開示義務化路線をやめて、自由化へ舵を切るべきです。

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