蓄電池市場の活況は「第2の再エネ賦課金」の始まりか

蓄電池市場が活況
系統用蓄電池の参入が相次いでいる。図1は系統用蓄電池の連系申込量と実際の連系実績の推移である。2025年9月には、連系量で50万kW、連系申込量では2,431万kWに達している。

図1 系統用蓄電池の契約申込および連系済量の推移
出典:資源エネルギー庁 分散型エネルギーを取り巻く状況と在り方について
さらに、2026年8月17日の日本経済新聞の記事によると、系統接続検討申込(送電網への連系申込の前に接続できるか蓄電池事業者が問い合わせること)の量が、2026年3月末で191GW=19,100万kWに達しているという。
しかし、この接続検討申込には、以前私が「送電線「から押さえ」がもたらす機能不全:蓄電池急増の裏で起きていること」にも書いたが、蓄電池事業者が候補地点の検討を行うために複数地点の検討申込を行うケースや、さらには送電線に接続する権利などを最初から転売目的で申し込む、いわゆる「から押さえ」なども含まれるため、すべてが実現されるわけではない。
資源エネルギー庁の説明によると、「カーボンニュートラルを実現するために再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電)を大量導入する必要があるが、これらの電源は電力の消費量に合わせて発電量の制御を行うことができない。太陽光の強さや風の強さに従って発電量が増減する、いわゆる変動電源である。
この変動電源からの発電量と電力の消費量の差を埋め合わせるために、電気を充電したり放電したりする能力のある蓄電池を活用する。蓄電池を大量導入することで、問題になっている再生可能エネルギーの出力抑制を減らすこともできる」として、蓄電池の導入促進を進めている。
さらに、蓄電池の導入は電力の卸市場価格の安定に寄与するため、小売電気事業者や消費者にもメリットがある。そのため蓄電池の導入コストは、電気を利用する側(簡単にいうと国民全体)で負担していく必要があるとしている。電気を利用する人がみんなで負担するというのは、すなわち再エネ賦課金と同様に、最終的には需要家が負担する部分を持つ制度設計である。
蓄電池の活用シーンを確認する
ここで系統用蓄電池の活用シーンを復習しておく。大きく2つのシーンがある。
1つは、日中、太陽光発電が過剰に発電した電力をため込んで、夜間、太陽光発電が発電できない時間帯に放電させる。図2に示した揚水式発電所のような役割である。

図2 2025年5月5日九州電力管内太陽光発電実績と揚水発電実績
図2は、九州電力の実際の太陽光発電の発電実績、出力抑制実績、そして赤の折れ線グラフが揚水式発電所の運転実績を示した図である。太陽光発電の抑制が始まる7:30ごろから揚水式発電所をポンプ運転して電力を消費し、水をくみ上げている。太陽光発電が止まる18:00ごろから揚水式発電所を発電運転して電気の供給を行っている。これと同じことを蓄電池にやらせようというのである。
しかし、揚水式発電所は九州管内だけでも、最大200万kWで7時間以上もポンプ運転を行っている。それでも太陽光発電は出力制御が必要になっている。蓄電池は連系済みの容量が全国でも50万kWしかなく、運転時間も設備によって異なるが、せいぜい4時間程度しか蓄電できない。揚水式発電所の代わりになる設備容量としては大きく不足していることがわかる。
仮に連系申込をしている2,431万kWがすべて実際に連系されれば、kW容量としてはそれなりに効果のある容量だと思うが、それでも運転時間の問題や、大量の蓄電池を同時に制御しなければならないなど、揚水式発電所を代替するには、まだ技術的な課題はたくさんある。
もう1つは、もっと短時間の充放電である。図3は2026年8月3日の東京電力管内の総需要のグラフである(5分周期)。このうち11:30~14:30を拡大した図を下に示す。

図3 2026年8月3日東京電力管内総需要とその拡大図
結構ギザギザしていることが読み取れると思う。また、12:30くらいから需要が低下しているのは、お昼休みに入って工場のラインが停止したことなどが影響していると思われる。このグラフは5分周期のデータなので、まだギザギザがゆっくりしているが、1分周期、30秒周期のデータで見ると、もっと細かくギザギザしている。
電力系統の周波数を一定に保つためには、このギザギザした電力需要にぴったり合わせて発電量を調整してあげる必要がある。これらの数分周期の需要変動については、以前は火力発電所の出力調整機能で需要と発電量を一致させていた。しかし、太陽光発電所の大量導入によって火力発電所の廃止や運転休止が進み、火力発電所の出力調整機能はどんどん減少している。
そのため、それを補うために導入されたのが「需給調整市場」である。需給調整市場には、数十分後に電力市場が必要とする電力を取引する三次調整力市場、数秒から数分後の短時間の対応を求める一次、二次調整力市場が整備され、2024年度から取引が行われている。
しかし、市場が必要としている電力量より応札する量が足りず、上限価格付近での約定(30分あたり19.51円/ΔkW)が頻発したことも、蓄電池事業への参入を促す一因になったと考えられる。
経済産業省は2026年3月から制度を変更し、上限価格を19.51円→15円に引き下げ、さらに2026年9月から10円に引き下げることになった。また、週間取引から前日取引に変更した。その結果、ようやく上限価格を下回る金額での約定が出てきた。
今後、蓄電池の導入量が増えてくれば、入札者が増えて約定価格は多少は下がっていくであろう。蓄電池がどの程度、系統の周波数調整に役立っているかについては、火力発電所の出力調整も同時に行っているため、検証が難しい。ましてや、経産省の定めた上限価格が適正であるかどうかの検証も難しいだろう。
しかし、「買取価格が高すぎて、事業者に有利な制度になっている」などの批判を受けると、上限価格を引き下げることで、蓄電池事業者に過度な収益が発生することを抑え、調整力調達コストを抑制する方向に制度が見直されている。
しかし、そもそも19.51円という上限価格がどのような費用・収益水準を前提に設定されたのか、その妥当性については検証が必要である。
これら蓄電池事業者に高収益をもたらしている需給調整市場の約定料金は、誰が負担しているのだろうか。
ルールでは、系統の周波数を維持するのは各地域の送配電会社が受け持つことになっている。しかし、送配電会社は発電機を持っていないので、発電会社から発電容量の一部を周波数調整用として買い取るか、この需給調整市場にお金を支払って供給力を調達することになる。
すなわち、蓄電池事業者の収入の一部である需給調整市場での約定料金は、一般送配電事業者が支払う。その費用は最終的には託送料金などを通じて需要家が負担することになる。
これは、最初に話した「蓄電池を導入するコストは、電気を利用する人全員が負担すべき」ということを実現するには、系統利用料として全員から徴収するのが最も手っ取り早く、電気を使用する電力量に応じて負担を求めることができるからである。
ここで指摘しておきたいのは、これら蓄電池を導入するコストは、変動電源である太陽光発電や風力発電が大量導入されなければ必要なかったコストである。
さらに、蓄電池は電気を生み出すわけではない。蓄電池を導入したとしても、短時間の需給調整には多少は役立つかもしれないが、今まで出力抑制されていた日中の太陽光発電を蓄電して夜間に有効活用するには、容量が大幅に不足していることは最初に説明した。
この先数年の蓄電池の導入コストは、私たちの支出に単純にプラスするだけで、火力発電の燃料費を抑制するような効果はわずかしか期待できない。
蓄電池市場の将来ビジョンは?
最初にも申し上げたが、日経の記事に書いてある接続検討申込191GW=19,100万kWというのは、あくまでも接続検討の申込であって、すべてが将来接続されるわけではない。
むしろ、蓄電池事業者が複数地点の検討を行うために複数地点の申込をしたり、初めから転売目的の「から押さえ」などの申込もあるので、全部が接続申込まで行かないと考える方が妥当である。
しかし、19,100万kWという数字がどれほど大きな値であるか理解していただくためにも、19,100万kWを導入するためのコストを概算してみた。
資源エネルギー庁が2026年6月に長期脱炭素電源オークション用に示した最新のモデルプラントでは、蓄電池の建設費は41.6万円/kW、平均継続時間3.4時間、運転維持費0.7万円/kW/年となっている。こちらを使うと、
19,100万kW × 41.6万円/kW = 約79.5兆円となる。①
しかし、この数字は建設にかかるコスト、いわゆる初期コストのみである。蓄電池設備を維持管理していくためには、メンテナンスコストが必要になる。最新の政府モデルでは、メンテナンスコストは年間0.7万円/kWである。したがって19,100万kWなら、
191,000,000kW × 7,000円/kW/年 = 年間1.34兆円となる。②
①から、資本費79.5兆円を20年間、実質的な資本コスト5%で回収すると仮定すると、年金化係数は約8.0%なので、
79.5兆円 × 8.0% ≒ 年6.4兆円 ③
年間の固定費は、
② + ③ = 約7.7兆円
にもなる。
ここには充電用電力、託送料金、系統増強費などは含まれていない。仮に191GWすべてが建設され、その建設費・維持費をこのモデル単価で回収すると仮定した場合、年間固定費は約7.7兆円となる。
蓄電池コストは託送料金だけでなく、需給調整市場・容量拠出金・卸市場という複数の経路から私たちの電気料金に転嫁される。しかし、どのような経路を通しても、最終的には私たちが電気料金か税金で負担する以外にない。
そこで、この年間7.7兆円が単純に託送料金に転嫁された場合、私たちの負担はどれくらいになるか計算してみた。
資源エネルギー庁が2024年度の再エネ賦課金計算に用いた日本の販売電力量は、7,707億kWh。
単純に割ると、
7.7兆円 ÷ 7,707億kWh ≒ 10.0円/kWh
となる。
2024年度の再エネ賦課金は3.49円/kWhなので、それをはるかに上回る金額が電気代に賦課されなければ、蓄電池を建設、維持するための費用を捻出することができないことがわかる。
しかし、191GWというのは現実的な導入量ではない。そこで、経産省などでは系統用蓄電池の導入量や、そのコストをどれくらいとしているのだろうか。経産省や電力広域的運営推進機関(OCCTO)の資料から、それらの値を探してみた。
結論から書くと、資料によって値が大きく異なるか、あるいは広い幅を持って記載されており、明確な目標値は存在していない。資料の中には「導入量は想定したものであり、政策目標とは異なります」などの逃げとも見られるような記載があり、蓄電池の導入目標や導入見通しなどは明確ではない。
表1に、各資料の将来の蓄電池導入想定量と、導入にかかる想定コストをまとめてみた。表2は比較のため、日経新聞記載の接続検討申込などの数値と、私がコスト計算に用いた数値をまとめた。

表1 蓄電池の各種申込状況と将来想定量 各資料の比較

表2 蓄電池の各種申込状況と将来想定量 各資料の比較
導入にかかるコストも資料によって値が異なる。しかし、将来に進むほどコストはかなり下がる傾向にある。これは、導入が進むことで製造コストが下がっていくという希望的な想定であろう。
しかし、洋上風力発電についても当初は、導入が進めば量産化などでコストは下がるとしていたが、資材価格の高騰などによって、導入コストはどんどん上がっている。日本の製造メーカーが全社、風車の製造から撤退したことなどを見れば、量産化によって導入コストが下がるというのは、私には納得がいかない。
経産省は系統用蓄電池の導入を推進しているが、大きな問題を2点提起したい。
1つは、将来の導入容量に関する想定値や目標値が明確ではなく、また、その導入量によって系統の周波数安定度にどの程度貢献するのかという具体的な検討がないことである。将来、大量に導入した場合のリアルタイムの制御方法などの検討も行われていない(検討しているのかもしれないが、公になっていない)。
2つ目は、将来、蓄電池が大量導入された場合の導入コスト、いわゆる国民負担についても明確ではないことである。
さらに、再エネ賦課金の場合は、何円/kWhかが公表されるが、蓄電池の導入コストは託送料金や小売事業者からの請求の内数などに含まれて私たちの負担になるため、私たちには蓄電池を導入するためにいくら負担しているのかわからない。
しかし、いずれの負担額も、最終的には需要家の負担につながる。マスコミも「電気代の値上げ」としか報道しないので、燃料費の上昇なのか、蓄電池などの導入コスト上昇なのか、私たちにはわからない。
また、託送料金や容量拠出金は、購入する電力会社にかかわらず、私たちが負担しなければならない費用である。電力市場は自由化によって、自由に自分に合った電力会社を選べるようになったはずだが、これらの費用はどの会社から購入しても同じように負担することになる。各電力会社の裁量では決められない電気料金の内数がどれくらい多くなっているのか、検証すべきだろう。
再エネ導入を進めるためであれば、コストや手段を選ばない時代はとっくに終わっている。
政府は、再エネ導入に伴う補助金、容量市場、需給調整市場、系統増強費、他市場収益などのコストと収益を明示し、コストをかけてまで再エネ導入を進めるべきなのか、国民が判断できる材料を提供しなければならない。
経産省が蓄電池導入促進のためにやろうとしていることは、再エネ大量導入に伴って発生する追加コストを需要家が負担するという点では、国民の目に見えない「第2の再エネ賦課金」と類似した構造を持つ。
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