地球温暖化を止めることはできるのか
集中豪雨に続く連日の猛暑で「地球温暖化を止めないと大変だ」という話がマスコミによく出てくるようになった。しかし埼玉県熊谷市で41.1℃を記録した原因は、地球全体の温暖化ではなく、盆地に固有の地形だ。東京が暑い原因も大部分は、都市化によるヒートアイランド現象である。

年平均気温の推移(産総研調べ)
上の図のように100年で3℃上がったうち、地球温暖化の影響は0.74℃で、あとは都市化の影響である。パリ協定で止めようとしているのは、この0.74℃の部分だが、それはCO2排出量の削減で止めることができるのだろうか?
地球温暖化が起こっていることは確実であり、その一部が人為的なものであることも疑いないが、人間が温暖化を止めることができるかどうかは別の問題である。われわれの文明は化石燃料に依存しており、パリ協定の目標(日本の場合は2030年にCO2排出量を26%削減)を実現するには、莫大なコストがかかる。
その効果についての定量的な研究は少ないが、数少ない査読論文であるLomborg(2015)によると、パリ協定のすべての当事国が約束草案(INDC)を2030年まで完全実施した場合、地球の平均気温は、何もしなかった場合に比べて0.05℃下がる。それを2100年まで続けても、0.17℃下がるだけだ。

地表の平均気温の予想(Lomborg)
この図はIPCC第5次報告書の予測(RCP8.5)に対して、どの程度、気温を下げられるかをLomborgがシミュレーションしたものだが、パリ協定を2100年まで実行した場合でも、産業革命前に比べて4.5℃気温が上昇する。パリ協定の目標とする「2℃上昇」という目標をはるかに上回り、しかも安定しない。「2050年にCO2排出量を80%減らす」という長期目標は、明らかに不可能である。
パリ協定を実行するコストは、どれぐらいかかるだろうか。もっとも効果的な政策は、世界統一税率の炭素税を課すことだが、それによってパリ協定の約束を実現するコストは、世界全体で年間1兆ドル以上になると推計される。これは世界の名目GDPの1.3%に相当し、日本では約7兆円である。
地球温暖化を止めることに反対する人はいないだろうが、毎年100兆円以上のコストをかけて気温を0.05℃下げることが、経済政策として効率的かどうかは国民的な議論が必要だろう。特に原発が予定通り再稼働できない日本では、パリ協定の約束そのものを見直す必要があるのではないか。
関連記事
-
原発事故当時、東京電力の福島第1原発所長だった、吉田昌郎氏が7月9日に亡くなった。ご冥福をお祈りします。GEPRでは、吉田氏にインタビューしたジャーナリスト門田隆将氏の講演。
-
東日本大震災と原発事故災害に伴う放射能汚染の問題は、真に国際的な問題の一つである。各国政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、今回の原発事故の推移に重大な関心を持って見守り、時機を見て必要な勧告を行ってきた。本稿ではこの間の経緯を振り返りつつ、特に2012年2月25-26日に福島県伊達市で行われた第2回ICRPダイアログセミナーの概要と結論・勧告の方向性について紹介したい。
-
国際環境経済研究所の澤昭裕所長に「核燃料サイクル対策へのアプローチ」を寄稿いただきました。
-
パリ協定が合意される2か月前の2015年10月、ロンドンの王立国際問題研究所(チャタムハウス)で気候変動に関するワークショップが開催され、パネリストの1人として参加した。欧州で行われる気候変動関連のワークショップは概して
-
米国シェールガス革命に対する欧州と日本の反応の違いが興味深い。日本では、米国シェールガス革命によって日本が安価に安定的に燃料を調達できるようになるか否かに人々の関心が集中している。原子力発電所の停止に伴い急増した燃料費負担に苦しむ電力会社が行った値上げ申請に対し、電気料金審査専門委員会では、将来米国から安いシェールガスが調達できることを前提に値上げ幅の抑制を図られたが、事ほど左様に米国のシェールガス革命に期待する向きは大きい。
-
脇山町長が示していたあるサイン 5月10日、佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は、高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のごみ)の処分に関する文献調査を受け入れると発表した。苦渋の決断だったという。 これに先立つこと議会の請願採択を
-
運転開始から40 年前後が経過している原子炉5基の廃炉が決まった。関西電力の美浜1、2号機、日本原子力発電の敦賀1号機、中国電力島根1号機、九州電力玄海1号機だ。これは40年を廃炉のめどとする国の原子力規制のルールを受けたものだ。ただしこの決定には問題がある。
-
苦しむドイツ ウクライナ紛争に伴ったロシア制裁と、その報復とみられるロシアによる欧州への天然ガス供給の縮小により、欧州の天然ガス価格は今年に入って高騰を続け、8月半ばには1メガワットあたり250ユーロと、3月の水準から約
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














