リスクはどこまで低くなれば安心できるか
はじめに
リスクはどこまで低くなれば安心できるのだろうか。泊原子力発電所は福一事故後7年も経ったのにまだ止まったままだ。再稼働できない理由のひとつは基準地震動の大きさが決っていないことだという。今行われている審査ではホモ・サピエンス時代の地震の話が焦点だという。12~13万年前以降に大きな地震が起きていないことを確認するためだ。しかし、この10数万年以上前の地震についての北海道電力と原子力規制委員会の見解が一致しないそうだ。この議論をいつまで続けるのだろうか。ブラックアウトの時、腎臓透析が出来なくて困った人やその家族の人達がこのことを聞いたらどう思うだろうか。9月の停電の検証委員会は10月の中間報告案で暗に泊原発の早期再稼働を促しているように思う。当然新規制基準を守らねばならぬが、早く現実的な結論を出し、泊原発を市民生活の役に立ててほしい。
地震のリスクはどれほど大きいか
政府の地震本部は主要活断層のリスクを4段階に分けている。今後30年以内に地震が起きる確率でのランク分けである。30年以内の地震発生確率でランク分けしているのは大変現実的である。
2010年の資料の図1では注意すべき地震として確率の高い地震4つと確率がやや高い地震6つの併せて10個を挙げている。右側に同じ程度の確率の通常リスクが示されている。大雨の被災とか台風の被災は身近だし、交通事故死は確率がもっと低い。逆に言えば「確率が高い」「確率がやや高い」地震10個が起きる確率は交通事故で死ぬより高いという事になる。こうやって種類の異なるものを比べられるのはリスク概念の利点の一つである。
放射線の被ばくリスクと通常リスク
福一事故の時、小学校の校庭での放射線被ばく線量が問題なったことがある。多くの母親は線量が年間約20mSvだと聞いて子供たちを校庭に出さないよう求め、小学校はその要求に従った。図2は癌研の資料からの抜粋である。相対リスク1.1~1.29の欄を見るとこのリスクと同等なのは放射線被ばくが200~500mSvである。運動不足のリスクはこの被ばく線量と同等なのである。20mSvの放射線被ばくを回避するためにその10倍の200mSvの放射線被ばくのリスクを選択したことになる。その結果、福島の小学生の運動能力はほぼ全国最下位に低下してしまった。もちろん、このデータを見て校庭の運動を再開したことにしたのは賢明な判断である。日頃、このような多分野のリスク比較を知っておくことは大事なことである。
巨大火山の噴火リスクはどれほどか
伊方3号機の仮処分裁判では9万年前の阿蘇山のカルデラ噴火が論じられた。リスクが低くても危険性が高いために取り上げられたものであろう。発生確率の大きさと危険性の大きさの関係について論じた論文は少ないが、2014年に神戸大学の巽教授の「巨大カルデラ噴火のメカニズム」と題した論文がある。これによると日本列島で今後100年間に巨大カルデラ噴火が起こる確率は約1%であるとしている。カルデラ噴火のリスクがこれまで考えられていた以上に大きいとしているが、この論文では死亡者数に発生確率を乗じた数値での災害の危険度比較を提案している。それが図3である。
この図では危険性(その事象が起きた時の死者数)と年間発生確率の積が同じリスクは同等だとしている。巨大カルデラ噴火と交通事故死は共にその積が100と1000の間にあるから同等だという事になる。福一事故では死者が出なかったがこの図では事故死者数が必要なので、異論もあると思うが、福島県の震災関連死2227人(2018年3月末時点の福島県の震災関連死数。)を原発事故による死者数だと仮定した。それでも図3の緑の丸(筆者が追記)で示した通り、原子力発電所事故のリスクは発生確率と死亡者数の積がほぼ0.01の線上にあるので交通事故死より1万分の1以下ということになる。

関連記事
-
はじめに インターネットでウランを売買していた高校生が摘発された。普通、試験管に入った量程度のウランを売買するのに国への報告が必要になるとは気が付かないが、実はウランは少量でも国に報告しなければならないことになっている。
-
四国電力の伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分の抗告審で、広島高裁は16日、運転の差し止めを認める決定をした。決定の理由の一つは、2017年の広島高裁決定と同じく「9万年前に阿蘇山の約160キロ先に火砕流が到達した
-
原子力規制委員会は24日、原発の「特定重大事故等対処施設」(特重)について、工事計画の認可から5年以内に設置を義務づける経過措置を延長しないことを決めた。これは航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを設置する工事
-
高校生がスウェーデンで感じたこと 今年の夏、全国の高校生13人がスウェーデンの〝核のごみ〟の最終処分に関わる地下坑道施設や研究所を視察した。約1週間の行程で私はアドバイザーとして同行した。 この視察の中で、高校生たちは様
-
田原・政権はメディアに圧力を露骨にかけるということはほとんどない。もし報道をゆがめるとしたら、大半の問題は自己規制であると思う。
-
国際エネルギー機関(IEA)の最新レポート「World Energy Outlook2016」は将来のエネルギー問題について多くのことを示唆している。紙背に徹してレポートを読むと、次のような結論が得られるであろう。 1・
-
6月21日の某大手新聞に、同社が6月前半に実施した主要100社への景気アンケート調査結果が掲載された。その中に「原発」に関する調査結果が記載されている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間