IAEA、福島事故最終報告書を発表
IAEA(国際原子力機関)は8月31日、東京電力福島第一原発事故を総括する事務局長最終報告書を公表した。ポイントは3点あった。
第1に事故の主な要因として日本の原子力関係者に「日本に原発が安全だという思い込みがあり備えが不十分だった」と指摘した。第2にこの知見を取り入れた対策の徹底を、世界の関係者に求めた。第3に福島と日本の市民の健康については、これまでのところ事故を原因とする影響は確認されていないと確認し、報告された被ばく線量が低いため、健康影響の発生率が将来、識別できるほど上昇するとは予測されないとしている。
この報告書は、40を超える加盟国からおよそ180人の専門家が参加してまとめ、1200ページ以上になる。
この中でIAEAは、事故の主な要因として「日本に原発は安全だという思い込みがあり、原発の設計や緊急時の備えなどが不十分だった」「責任がいくつもの機関に分散し、権限の所在が明確でなかった」と指摘。複数の原子炉の事故、自然災害の同時発生、全電源喪失の想定と事前対策が、東京電力と規制当局になかったとしている。一方で、事故後に規制権限の強化などの改善がみられたとも評価した。
その上で加盟各国にIAEAの勧告に基づく安全な原子力の活用を求めた。そしていくつかの自然災害が同時に発生することなどあらゆるリスクを考慮する、基準に絶えず疑問を提起して定期的に再検討するなど、「安全文化」と呼ばれる関係者の態度が必要と提言している。
また福島の甲状腺検査で異常が見つかったことには、事故と関係づけられる可能性は低く、この年代の子どもたちの自然な発生を示している可能性が高いと分析。一方で、住民の中には、不安感やPTSD=心的外傷後ストレス障害の増加など、心理面での問題があったと指摘しており、その影響を和らげるための対策が求められると強調している。
リンク・「IAEA福島第一原子力発電事故・事務局長報告書 巻頭言及び要約」(日本語版)
(2015年9月7日掲載)
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