小泉進次郎氏の悩みを解決するたった一つの方法

2020年02月05日 17:00
池田 信夫
アゴラ研究所所長
小泉進次郎氏ブログより

小泉進次郎氏ブログより

小泉環境相が悩んでいる。COP25で「日本が石炭火力を増やすのはおかしい」と批判され、政府内でも「石炭を減らせないか」と根回ししたが、相手にされなかったようだ。

彼の目標は正しい。石炭は大気汚染でもCO2排出でも最悪の燃料であり、今後22基も建設計画がある日本は先進国では突出している。それを減らそうという理想は正しいのだ。

現在の電源構成とエネルギー基本計画(経産省)

現在の電源構成とエネルギー基本計画(経産省)

しかし図の左のように石炭は日本の総発電電力量の33%を占めている。政府のエネルギー基本計画では、2030年度に石炭を26%(図の右)に減らすのが目標だが、これは現状では不可能だ。原発が予定どおり動かないからだ

いま全国で稼働している原発は9基しかない。2030年度の目標を実現するには、少なくとも30基が動く必要があるが、安全審査中の18基がすべて動いたとしても、総発電量は今の3倍、10%程度にしかならない。再生可能エネルギーが予定どおり24%になったとしても、非化石電源は35%が限度だろう。

この状態で予定どおり火力を減らすと、化石燃料比率は56%になり、エネルギー供給に10%(1000億kWh)近い穴があく。この穴は天然ガス(LNG)か石炭で埋めるしかないが、LNGの価格は石炭の約2倍で大きく変動し、産地が中東に片寄っているので、エネルギー安全保障の観点からは好ましくない。消去法で考えると、石炭火力の現状維持は避けられないのだ。

これは技術的には容易である。全国に約100基ある石炭火力を最新鋭の機種に更新すればいいのだ。日本の石炭火力はクリーンで燃料効率が高いので、古い火力に比べてCO2の排出を減らせる。

今年4月から始まる電力自由化で、コスト削減圧力は強まる。電力会社が政治的に厄介な原子力から、石炭に転換するのは経営合理的である。これは環境問題にとっては好ましくないが、原子力にうるさいマスコミも、それよりはるかに危険な石炭には騒がない。

原発を止めたまま電力自由化する支離滅裂なエネルギー政策を進めた経産省も、電力会社の負担を減らすために石炭火力を支援してきた。石炭を減らすベストの方法は原発を再稼働することだが、環境省には何の権限もない。

パリ協定のCO2削減目標を見直す

2030年度の電源構成は、CO2排出量を(2013年度から)26%減らすという日本のパリ協定の約束に対応しているが、これも実行不可能だ。次の図のように2017年の日本のCO2排出量は2013年から10%減ったが、26%には遠く及ばない。このままパリ協定を守ろうとすると、京都議定書のときのようにロシアや中国に何兆円も払って排出権を買わなければならない。

全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)調べ

しかし小泉氏の悩みを解決する方法が一つだけある。パリ協定の約束を見直すことだ。その「2100年に産業革命前から2℃上昇で安定させる」という目標には科学的根拠がなく、協定を完全実施しても実現できない。最新の推定では2100年に最大3℃上昇する可能性があるが、これは日本では大した問題ではない。

2℃目標には意味がないのだから、そのためのCO2削減目標(日本は26%)にも意味がない。パリ協定は罰則のない努力目標だから、2030年度の目標を2050年度に遅らせてもかまわないのだ。

世界中から批判が起こるだろうが、地球温暖化は基本的には熱帯の問題である。洪水や干魃は今でも起こっているので、開発援助はCO2削減よりインフラ整備に直接使ったほうがいい。全世界で温暖化対策に毎年1兆ドルかけても、温暖化を数年遅らせる効果しかない。その巨額のコストをもっと有効に使う方法を日本から提案してはどうだろうか。

This page as PDF

関連記事

  • 前回書いたように、英国GWPF研究所のコンスタブルは、英国の急進的な温暖化対策を毛沢東の「大躍進」になぞらえた。英国政府は「2050年CO2ゼロ」の目標を達成するためとして洋上風力の大量導入など野心的な目標を幾つも設定し
  • IPCCの報告が昨年8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 大雨についてはこのシリーズでも何度か書いてきたが、今回は
  • GEPRの運営母体であるアゴラ研究所は映像コンテンツである「アゴラチャンネル」を提供しています。4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送しました。 現状の対策を整理し、何ができるかを語り合いました。議論で確認されたのは、温暖化問題では「地球を守れ」などの感情論が先行。もちろんそれは大切ですが、冷静な対策の検証と合意の集積が必要ではないかという結論になりました。そして温暖化問題に向き合う場合には、原子力は対策での選択肢の一つとして考えざるを得ない状況です。
  • ヤフーニュース
    ジャーナリスト堀潤氏。7月2日。菅直人政権による、「炉心溶融」「メルトダウン」という言葉を使わないという東電への指示が、なぜか大きな問題になっている。 これについて、当時、補佐官として官邸にいたジャーナリストの下村健一氏
  • 青山繁晴氏は安全保障問題の専門家であり、日本の自立と覚醒を訴える現実に根ざした評論活動で知られていた。本人によれば「人生を一度壊す選択」をして今夏の参議院選挙に自民党から出馬、当選した。  政治家への転身の理由は「やらね
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 一見、唐突に倒れたように見える菅政権であるが、コロナ対策を筆頭に「Go To」その他やる事なす事ピント外れなことを続け、国民の8割が中止・延期を求めていた東京五輪を強行し、結果
  • 有馬純 東京大学公共政策大学院教授 今回のCOP25でも化石賞が日本の紙面をにぎわした。その一例が12月12日の共同通信の記事である。 【マドリード=共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は11日、地球温暖
  • 今年も夏が本格化している。 一般に夏と冬は電力需給が大きく、供給責任を持つ電力会社は変動する需要を満たすために万全の対策をとる。2011年以前であればいわゆる旧一般電気事業者と呼ばれる大手電力会社が供給をほぼ独占しており

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑