原子力報道・メディアの責任を問う【シンポジウム報告2】
アゴラ研究所とその運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクのGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)は12月8日、第4回アゴラシンポジウム「原子力報道・メディアの責任を問う」を静岡県掛川市で開催した。

アゴラ研究所は、言論プラットホームアゴラ、そしてエネルギー問題の専門家の知見を集めたGEPRを運営している。静岡県は製造業が集積し、中部電力浜岡原発もあり、エネルギー・原子力問題への関心が高い。
出演は田原総一朗(ジャーナリスト)、モーリー・ロバートソン(ジャーナリスト、ミュージシャン)、松本真由美(東京大学客員准教授、キャスター)の各氏が出演。池田信夫アゴラ研究所所長が司会を務めた。
要旨は以下の通り。
田原総一朗の見た原子力・エネルギー報道の40年【シンポジウム報告3】
「原子力・エネルギーと報道を考える」【シンポジウム報告4の1】【4の2】
【映像版】
田原氏が見た原子力報道の問題とは?
シンポジウムは、田原総一朗氏の講演「田原総一朗の見た原子力・エネルギー報道の40年」から始まった。田原氏は1974年の原子力船むつの放射線漏洩事故のときから原子力を取材した。また東電福島原発の建設なども取材した。40当時は田原氏の報道に広告代理店などが介入する圧力などもあったという。


田原氏によれば、原子力報道は「何でも反対」「面白くない」の2点の問題がある。新聞の社論、また日本の「リベラル」という政治的立場の人たちの思想が絡みすぎ、否定的な情報しか出ない。またそうした思想が強く出ると、事実が見えてこなくなる。「主張にはリアリティが大切。そして反対は楽。だから問題が生じる。このままでは信頼を失っていく」と述べた。
その問題提起を受けて4人の討論「原子力・エネルギーと報道を考える」が始まった。


日本でキャスターなども務める才人のモーリー・ロバートソン氏は日本の福島原発事故をめぐり「日本が危険などと異常な情報が流れている」という。これはメディア報道のゆがみに加え、日本の発進力不足が影響しているそうだ。
松本氏は、科学教育、リスクコミュニケーション、メディア・リテラシーを研究しているが、「メディアが現実からずれる状況はなかなか直せない」と指摘した。新聞には社論があり、それが付加価値として読者がその新聞を買う材料になる。また新聞、テレビは影響力がネットの隆盛と共に低下しており、経営上の再編に世界的に直面していると述べた。ロバートソン氏も、「そうした弱いメディアは注目を集めようと主張が過激になるので、気をつけた方がいい」と警告した。
原子力とメディアの問題を考える題材として、参加者は静岡県にある中部電力の浜岡原子力発電所をシンポジウム開催日に視察できた。3人とも、22メートルの防潮堤や、を見て、その対応に感銘を受け、安全性が高まったことを確認したという。原子力発電所の安全性が高まっているという情報は、既存メディアからはなかなか伝わらない。
田原氏は「今すぐに原発をやめることはあり得ない。浜岡原子力発電所は民主党の菅直人首相が思いつきで止めた場所。再稼動をするべきであると思う」と述べた。

エネルギー問題、冷静な議論を始める時
それではメディアの情報に、私たちはどのように向き合うべきであろうか。「信じないのも、また信じすぎるのも、今の世の中では適切ではない」と、松本氏は指摘した。「繰り返されてきたように「メディア・リテラシー、つまりメディアの発する情報を分析する力を高めることしかない」と述べている。
ロバートソン氏は「物事を複数の視点から見ることは、ジャーナリズムの基礎だが、それは受け手にも言える。基礎体力を付けて、情報を正しいかを、複数の視点から吟味する見る習慣をつけるべき」と話した。
そうした感覚を磨くのは、取材経験の長い田原氏によれば「情報や主張にリアリティ(現実感)があるか」だという。
エネルギー・原子力問題では、福島事故の衝撃が大きすぎた。それが、原子力とエネルギー政策を混乱させてしまった。「もう4年が経過している。冷静に議論を始めるべき時だし、メディアも正確な情報を伝えるべきだ」と池田氏はまとめた。
(2015年12月14日掲載)

関連記事
-
米国の核不拡散エリート集団 米国には、カーター政権以来伝統的にPuの民生利用や再処理に強く反対する核不拡散論者たちがいて、一種の「核不拡散エリート集団」を形成している。彼らの多くは民主党政権で安全保障関連の役職を経験した
-
九州電力の川内原発の運転差し止めを求めた仮処分申請で、原告は最高裁への抗告をあきらめた。先日の記事でも書いたように、最高裁でも原告が敗訴することは確実だからである。これは確定判決と同じ重みをもつので、関西電力の高浜原発の訴訟も必敗だ。
-
東電の賠償・廃炉費用は21.5兆円にのぼり、経産省は崖っぷちに追い詰められた。世耕経産相は記者会見で「東電は債務超過ではない」と言ったが、来年3月までに債務の処理方法を決めないと、純資産2兆3000億円の東電は債務超過になる。
-
大竹まことの注文 1月18日の文化放送「大竹まことのゴールデンタイム」で、能登半島地震で影響を受けた志賀原発について、いろいろとどうなっているのかよくわからないと不安をぶちまけ、内部をちゃんと映させよと注文をつけた。新聞
-
福島第一原発事故から3年3カ月。原発反対という声ばかりが目立ったが、ようやく「原子力の利用」を訴える声が出始めた。経済界の有志などでつくる原子力国民会議は6月1日都内で東京中央集会を開催。そこで電気料金の上昇に苦しむ企業の切実な声が伝えられた。「安い電力・エネルギーが、経済に必要である」。こうした願いは社会に広がるのだろうか。
-
日本では殆どの新聞に載っていませんが、6月10日にスウェーデンの与党(社会民主党、緑の党)、野党(穏健党、中央党、キリスト教民主党)の5党が、「原子力発電に掛けていた高額な税金を廃止して、原子力発電の継続を支える」ことに合意しました。
-
ドイツ連邦経済エネルギー省は7月3日、ホワイトペーパーを公表、卸市場の改革とあわせ、容量リザーブ(戦略的予備力制度)を導入することを明らかにした。
-
ロバートソン・大変な状況になっていると言えるでしょう。まず大きな枠の話をします。日本からの英語の情報発信がたいへん少ない状況です。これは政府で特にそうです。そしてその結果、海外で情報がゆがめられて伝わっています。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間